はじめに
はじめに
本記事では、AWSのサービスを「リージョナルサービス」と「グローバルサービス」に分け、それぞれの違いや特徴、代表的な例をわかりやすく解説します。サービスの提供範囲を理解すると、設計や運用での判断が楽になります。
背景
クラウドでは、サービスがどの範囲で提供されるかが重要です。たとえば、データをどの地域に置くかで遅延や法規制が変わりますし、認証やDNSのように全世界で統一して使うべき機能もあります。こうした違いがアーキテクチャやコストに影響します。
本記事の目的
各サービスの“提供範囲”に着目し、適切な設計判断ができるように基本的な考え方と具体例を示します。高可用性の確保やコスト最適化に役立つ視点を提供します。
読者対象
クラウド設計者、運用担当者、システム開発者、これからAWSを学ぶ方に向けています。用語は必要最低限にし、具体例で補足します。
章の流れ
第2章で分類体系を説明し、第3章・第4章でそれぞれの特性を深掘りします。第5章・第6章では代表的なグローバルサービスを例に使い方と注意点を紹介します。
AWSサービスの分類体系
分類の概要
AWSはサービスを提供範囲で3つのカテゴリに分類します。リージョナルサービス、グローバルサービス、アベイラビリティゾーンサービスです。どの範囲で管理・配信されるかを知ると、可用性設計やデータ配置が分かりやすくなります。
各カテゴリの特徴と具体例
- リージョナルサービス
- 特定リージョン内で展開・管理します。例:EC2(インスタンス)、RDS、S3(バケットはリージョンに紐づきます)。遅延や法令対応を考えると重要です。
- グローバルサービス
- AWS全体で一貫して機能するサービスです。例:IAM(認証・権限)、Route 53(DNS)、CloudFront(CDN)。設定や一元管理がしやすいです。
- アベイラビリティゾーンサービス
- 同一リージョン内の特定AZに依存します。例:EBSボリューム、インスタンスのローカルストレージ。障害ドメインの分離で役立ちます。
設計時の注意点
- データの所在や遅延要件でカテゴリを選びます。
- 障害対策はリージョン跨ぎ(リージョナル)やAZ分散(AZサービス)で検討します。
- グローバルサービスは一元管理の利点がある一方、設定が全体に影響する点に注意してください。
リージョナルサービスの特性と例
リージョナルサービスとは
リージョナルサービスは特定の地理的リージョン内で提供され、データやリソースはそのリージョン内で管理されます。利用者はリージョン単位でサービスを選び、設定や運用もリージョンごとに行います。
主な特性
- データの所在地が明確で、法律や規制対応に役立ちます。
- レイテンシーを抑えたい場合は近いリージョンを選べます。
- 可用性ゾーン(AZ)を組み合わせて高可用性を設計します。
代表的なサービス(簡単説明)
- Amazon EC2:仮想サーバー。ウェブサーバーやバッチ処理に使います。
- Amazon RDS:管理されたリレーショナルDB。バックアップやパッチ適用を簡単にします。
- Amazon S3:オブジェクトストレージ。画像やログの保管に向きます。
- AWS Lambda:サーバーレス関数。イベント駆動で処理を実行します。
- Amazon EFS:共有ファイルストレージ。複数サーバーで同じファイルを使えます。
- Amazon S3 Glacier:長期アーカイブ向けストレージ。低コストでデータを保管します。
運用上の注意点
- 複数リージョンで使う場合はそれぞれ設定と管理が必要です。
- データのレプリケーションやバックアップ方針を明確にしてください。
- コストやレイテンシー、法的要件を考慮してリージョンを選びます。
設計のポイント
- 重要データは必要に応じて別リージョンへレプリケートします。
- インフラは自動化して運用負荷を下げます。
- 定期的にフェイルオーバーや復旧手順を検証します。
グローバルサービスの特性と用途
グローバルサービスはAWS全体で一元的に提供され、複数リージョンから同じ設定で利用できます。ここでは特性と具体的な用途、設計や運用で気を付ける点を分かりやすく説明します。
主な特性
- 一元管理:設定やポリシーを中央で管理でき、各リージョンへ個別に反映する手間が減ります。例)ドメイン管理や共通ポリシーの適用。
- 一貫した名前空間:グローバルに識別される名前やIDを持つことが多く、重複に注意が必要です。
- 全世界への適用性:変更は複数リージョンへすぐに影響するため、運用ルールが重要です。
- リージョナル資源との連携:計算やストレージなど地域依存のリソースと組み合わせて使います。
代表的な用途(例)
- ドメインやDNSの管理:世界中の利用者向けに統一した名前解決を行います。
- コンテンツ配信:静的ファイルやメディアを世界中に効率よく届けます。
- 認証・組織管理:ユーザーや権限を中央で管理して全体に適用します。
- 監査・ログの一元化:複数リージョンの操作を集めて監視します。
設計上の注意点
- 名前の一意性や権限範囲を明確にすること。
- グローバルサービスが障害になった場合の影響範囲を想定して冗長化や代替手順を用意すること。
- データの所在や法令対応が必要な場合は、どのリージョンのデータを使うか設計で決めること。
運用のポイント
- 変更は段階的に実施し、ステージングで検証してください。
- 監視とログを集中して設定し、異常時の通知を整備してください。
- グローバル設定の変更にはレビューや承認の手順を必ず設けてください。
代表的なグローバルサービス:ネットワーク・コンテンツ配信
Amazon Route 53
Amazon Route 53はグローバルDNSサービスです。ドメイン名をIPアドレスに変換し、可用性の高い名前解決を提供します。トラフィックルーティング(地理的ルーティング、レイテンシールーティングなど)やヘルスチェック(障害時の自動切替)を使い、ユーザーを最適なエンドポイントに導けます。例:世界各地に配置したWebサーバーへの振り分け。
Amazon CloudFront
CloudFrontはグローバルCDN(コンテンツ配信ネットワーク)です。世界中のエッジロケーション(ユーザーに近い配信拠点)で静的・動的コンテンツをキャッシュし高速配信します。例:静的サイト、動画配信、APIの応答改善。SSLや独自ドメイン、キャッシュの無効化(インバリデーション)に対応します。
AWS Global Accelerator
Global Acceleratorはユーザーから近いAWSエッジに到達させ、最適なリージョンのエンドポイントにルーティングします。静的IPアドレスを使い、マルチリージョンの可用性と性能を改善します。例:グローバルなゲームやAPIでの遅延低減と切替の簡素化。
AWS Direct Connect Gateway
Direct Connect Gatewayは専用線接続をリージョン横断で使えるようにするグローバルリソースです。オンプレミスと複数リージョンのVPCを低遅延・安定した回線で接続できます。例:大容量データ転送やプライベート通信。
設計上の注意点
- 目的に応じてDNS(Route 53)とCDN(CloudFront)を組み合わせる。
- ヘルスチェックと冗長化を設定して可用性を高める。
- キャッシュ戦略やTTLを調整してコストと性能を最適化する。
グローバルサービス:セキュリティ・アイデンティティ管理
概要
IAM、WAF、Shieldはグローバルに働き、クラウド全体の安全を支えます。アカウントや認証、Web攻撃対策、DDoS防御を統一して管理できます。
IAM(Identity and Access Management)
- 役割:ユーザー、グループ、ロールを定義してアクセス権を付与します。
- 具体例:開発者は“dev-role”をロールで与え、必要なAPIだけ使えるようにします。ロールは他リージョンやアカウントでも使えます。
- ポリシーとベストプラクティス:最小権限、MFAの有効化、パスワードルールの設定を行います。
WAF(Web Application Firewall)
- 概要:SQLインジェクションやクロスサイトスクリプトなどをルールで防ぎます。
- 使い方例:CloudFrontやALBに適用し、悪意あるリクエストをブロックします。マネージドルールで簡単に始められます。
Shield(DDoS防御)
- Shield Standard:全てのAWSユーザーに自動提供され、一般的なDDoS攻撃から保護します。
- Shield Advanced:重要サービス向けに高度な検出、コスト保護、24/7対応を提供します。
監視と運用
CloudTrailやCloudWatchでログを集め、セキュリティイベントを中央で監視します。アクセス制御とWAF/Shieldのルールを定期的に見直すことが重要です。
推奨事項
- 中央でアイデンティティを管理し、ロールでアクセスを委任する。
- 最小権限とMFAを徹底する。
- WAFでアプリのルールを設定し、Shieldで重要資産を保護する。












