はじめに
概要
この文書は、CDN(Content Delivery Network)を利用してLodashライブラリをJavaScriptプロジェクトに導入・使用する方法を丁寧に解説します。CDNからの読み込み方法、基本的な使用例、各種ビルド環境での設定、TypeScriptやES Modules対応、Lodash/fpの活用、パフォーマンス上の注意点まで扱います。
LodashとCDNとは
Lodashは配列やオブジェクト操作を簡潔にするユーティリティ群です。CDNはネットワーク上に配置したファイルを配信し、インストール不要で読み込めます。少ない手間で導入できる点が利点です。
この章での目的
本章では全体像と前提を示します。続く章で実践的な導入例や設定方法を順に説明します。
対象読者と前提条件
フロントエンド開発に関心があり、基本的なHTML/JavaScriptの知識がある方を想定します。Nodeやビルドツールの経験があれば理解が深まります。
簡単な読み込み例
この一行でブラウザ環境から_(アンダースコア)として利用できます。
本書の構成
第2章以降で具体的な導入手順と注意点を順に解説します。
CDNからのLodash導入方法
概要
CDN(コンテンツ配信ネットワーク)を使うと、ローカルにLodashを入れずに直接HTMLで読み込めます。手順は簡単で、タグにCDNのURLを指定するだけです。読み込み後はグローバル変数「_」でLodashを使えます。
代表的なCDNと例
- cdnjs
“`html
- jsDelivrhtml
- unpkghtml
“`
バージョン番号を指定すると、後で動作が変わる心配を減らせます。minified(圧縮)版を使うと読み込みが速くなります。
実際の使い方
<script src="https://cdnjs.cloudflare.com/.../lodash.min.js"></script>
<script>
const arr = [1,2,3,4];
const evens = _.filter(arr, n => n % 2 === 0);
console.log(evens); // [2,4]
</script>
scriptはLodashを読み込んだ後に置いてください。headに置く場合はdeferを付けると安全です。
注意点
- CDNに頼るため、外部接続がない環境では動きません。オフライン対応が必要ならローカルに保存してください。
- セキュリティ対策として、提供元が信頼できるか確認してください。SRI(サブリソース整合性)を使うと改ざん検知に役立ちます。
この章では、まずCDNで読み込む基本を丁寧に説明しました。次章ではLodashの基本的な使い方を見ていきます。
Lodashの基本的な使用例
LodashをCDN経由で読み込むと、グローバルな「_」オブジェクトで利用できます。ここでは配列・オブジェクト・文字列の代表的な使い方を、短いコード例とともに紹介します。
配列の操作
- 偶数だけ取り出す(_.filter)
<script src="https://cdn.jsdelivr.net/npm/lodash@4.17.21/lodash.min.js"></script>
<script>
const nums = [1, 2, 3, 4, 5, 6];
const evens = _.filter(nums, n => n % 2 === 0);
console.log(evens); // [2, 4, 6]
</script>
- 要素ごとに処理する(_.map)
const doubled = _.map(nums, n => n * 2); // [2,4,6,8,10,12]
オブジェクトの操作
- デフォルト値を設定する(_.defaults)
const defaults = { a: 1, b: 2 };
const options = { b: 3 };
const settings = _.defaults(options, defaults);
console.log(settings); // { b:3, a:1 }
- 深いクローン(_.cloneDeep)で参照の問題を避ける
const src = { x: { y: 1 } };
const copy = _.cloneDeep(src);
copy.x.y = 2; // src.x.y は 1 のままです
文字列やユーティリティ
- 文字列変換(_.camelCase)
_.camelCase('Foo Bar'); // 'fooBar'
- 配列の重複削除(_.uniq)
_.uniq(['a','b','a']); // ['a','b']
これらは代表例です。Lodashは短い関数で日常的な操作を簡潔に書けます。用途に合わせて関数を選ぶと、コードの可読性と保守性が高まります。
Webpack環境でのCDN設定
概要
Webpackでビルドすると、package.jsonのlodashがバンドルに含まれ、CDNから読み込んだグローバル変数(_)と重複することがあります。重複を避けるにはexternalsでローカルのlodashを除外し、CDNのグローバル変数を参照するように設定します。
設定例
次の例は、ローカルのlodashを外部化して、グローバル変数_を使う設定です。webpack.config.jsに追記します。
module.exports = {
// 他の設定...
externals: {
lodash: '_'
}
};
この設定で、ソース側はimportやrequireでlodashを使えますが、ビルド結果には含まれず、実行時にグローバルの_を参照します。
HTMLにCDNを読み込む
バンドルより先にCDNスクリプトを読み込んでください。例:
<script src="https://cdn.jsdelivr.net/npm/lodash@4.17.21/lodash.min.js"></script>
<script src="/dist/bundle.js"></script>
注意点
- 開発サーバやサーバサイドレンダリングではグローバル変数が無い場合があります。そのときは代替の対策が必要です。
- TypeScriptを使う場合、グローバル変数_の型宣言が無ければdeclareで補うか、型定義を導入してください。
- ProvidePluginで自動注入する方法もありますが、CDNと併用する場合はexternalsの方が明確です。
この方法でCDNからのLodashとローカルの競合を避けつつ、読み込みを簡潔にできます。
Rails Webpackerでの設定方法
概要
Rails環境でWebpackerを使う場合、CDNで読み込んだLodashやjQueryをプロジェクト全体で使えるように、config/webpack/environment.jsでexternalsとProvidePluginを設定します。
前提
- Webpackerが導入済み
- レイアウトでCDNを読み込む準備がある
手順
- レイアウトにCDNを追加(例: app/views/layouts/application.html.erb)
<script src="https://cdn.jsdelivr.net/npm/lodash@4.17.21/lodash.min.js"></script>
<script src="https://code.jquery.com/jquery-3.6.0.min.js"></script>
- config/webpack/environment.jsを編集
const { environment } = require('@rails/webpacker')
const webpack = require('webpack')
// ProvidePluginでグローバル変数を割り当て
environment.plugins.append('Provide', new webpack.ProvidePlugin({
_: 'lodash',
$: 'jquery',
jQuery: 'jquery'
}))
// externalsでバンドルを除外してグローバル参照にする
environment.config.set('externals', {
lodash: '_',
jquery: 'jQuery'
})
module.exports = environment
- webpacker-dev-serverを再起動して反映します。
確認方法
packs内のJSで直接_や$を使い、ブラウザで動作を確認します。
console.log(_.chunk([1,2,3,4],2))
console.log($.fn.jquery)
補足
CDNのバージョンやSRI、crossorigin属性を検討してください。ローカルでのテストと本番の設定を分けると安全です。
TypeScript環境での設定
概要
CDNで読み込んだLodashをTypeScriptで安全に使うには、型定義(@types/lodash)をインストールし、グローバル変数_の型を宣言するファイルを作成します。これでエディタの補完や型チェックが有効になります。
手順(簡単)
- 型定義のインストール
- npm: npm install -D @types/lodash
-
yarn: yarn add -D @types/lodash
-
グローバル宣言ファイルを作る
- プロジェクトルートにindex.d.ts(名前は任意)を置きます。
index.d.tsの例
import * as _ from 'lodash';
declare global {
const _: typeof _;
}
export {};
この宣言でwindowやglobalThisに読み込まれた_を型付きで使えます。
HTMLとTypeScriptの使い方例
HTMLでは先にCDNスクリプトを読み込み、その後ビルド済みのapp.jsを読みます。
<script src="https://cdn.jsdelivr.net/npm/lodash@4.17.21/lodash.min.js"></script>
<script src="./dist/app.js" defer></script>
TypeScript側ではそのまま_を使えます。
const doubled = _.map([1,2,3], n => n * 2);
console.log(doubled);
tsconfigの注意
index.d.tsをコンパイル対象に含める(”include” に追加)か、型ルート設定で認識させてください。特別な設定は不要ですが、エディタが型を拾わない場合はパスを確認してください。
補足
モジュールとして直接importしないため、バンドルを小さく保てます。型だけを開発時に利用する形になります。
ES Modules対応のCDN導入
概要
モダンなブラウザではES Modules(ESM)を直接利用できます。CDN上のESM版ライブラリを読み込むことで、ビルドツールを使わずにLodashを活用できます。必要な機能だけ個別に読み込むと通信量が減り、初期表示が速くなります。
importmapを使う例
importmapを使えばローカルで短い識別子で参照できます。HTMLに以下を置きます。
<script type="importmap">
{
"imports": {
"lodash": "https://cdn.jsdelivr.net/npm/lodash-es@4.17.21/lodash.js"
}
}
</script>
<script type="module">
import { debounce } from 'lodash';
// ここでdebounceが使えます
</script>
直接URLからimportする例
小さな機能だけ使う場合は個別ファイルを指定します。
// module スクリプト内
import debounce from 'https://cdn.jsdelivr.net/npm/lodash-es@4.17.21/debounce.js';
軽量化のコツ
- 必要な関数だけ個別にimportしてください。全体を読み込むとサイズが大きくなります。
- ブラウザキャッシュを活用するためバージョンを明示します。
対応ブラウザと注意点
type=”module”は現代的なブラウザでサポートしますが、古い環境は対応しません。その場合はビルドツールでトランスパイルしてください。ネットワーク経由の読み込みは初回で遅く感じることがあるため、重要なコードは遅延読み込みや事前フェッチを検討してください。
Lodash/fpの活用
概要
Lodashには関数型スタイル向けのlodash/fpがあり、すべての関数がカリー化され、引数の順序がデータ最後置きになります。副作用を減らして関数を組み合わせやすくする目的で使います。理解には慣れが必要なので、まず小さな実験から始めることをおすすめします。
CDNからの読み込み
ブラウザで使う場合はCDNから直接読み込めます。例:
<script src="https://cdn.jsdelivr.net/npm/lodash@4.17.21/lodash.min.js"></script>
<script src="https://cdn.jsdelivr.net/npm/lodash@4.17.21/fp.min.js"></script>
window.fpや.fpでアクセスできます。
基本的な使い方
カリー化により部分適用が簡単です。例:
const { map, filter, flow } = _.fp;
const add = x => y => x + y; // カリー化の例
const nums = [1,2,3];
const result = flow(
map(n => n * 2),
filter(n => n > 3)
)(nums); // [4,6]
flowやcomposeで処理をつなげると読みやすくなります。
TypeScriptでの型設定
型定義は@types/lodashが基礎になりますが、fp特有の型は完全ではありません。tsconfigでallowSyntheticDefaultImportsを有効にし、以下のように読み込むと扱いやすいです。
import fp from 'lodash/fp';
const doubled = fp.map((n:number)=>n*2);
ただし型推論が期待通りでない場合があるので、必要に応じて明示的な型注釈を使ってください。
注意点と運用のコツ
- 関数の引数順が通常のlodashと異なるため混同を避けてください。
- パフォーマンス要件が厳しい処理には事前にベンチマークを行ってください。
- ドキュメントや例が少ないため、小さなモジュール単位で導入して挙動を確かめると安全です。
パフォーマンス面での考慮
CDN利用時の基本的な注意点
CDNで読み込むと基本的にフルビルド(lodash 全体)が配信されます。結果としてバンドルサイズや初回読み込み時間が増えます。特にモバイル回線や初期表示速度を重視する場合は注意が必要です。
バンドルサイズを抑える選択肢
- バンドラ(Webpackなど)を使うなら、個別インポート例:
import debounce from 'lodash/debounce'。こうすると不要な関数を含めずに済みます。 - ESM対応の
lodash-esを使うことで、ツリーシェイクで未使用コードを取り除けます。 - どうしてもCDNを使う場合は、必要な処理をネイティブ実装(Array/Map/Textの標準メソッド)で置き換える検討も有効です。
読み込みタイミングとキャッシュ戦略
初期表示で必須でなければ遅延読み込み(dynamic import や defer)で遅らせてください。CDNはキャッシュ効率が高いですが、圧縮(gzip/brotli)やHTTPキャッシュヘッダを確認するとさらに効果的です。
測定と判断基準
バンドルアナライザやLighthouseで実際の影響を測ってください。1) 初回ロード時間、2) JSパース/コンパイル時間、3) キャッシュヒット率を評価基準にすると判断しやすいです。
必要なら、部分的にCDNを残しつつコア機能だけをバンドラで取り込むハイブリッド戦略も考えてください。したがって、プロジェクトの規模とユーザー環境を見て最適化方針を決めると良いです。












