第1章: はじめに
目的
本書は、Google Analytics 4(GA4)で「内部リンクのクリック数」を正しく計測し、記事内の回遊や導線を改善するための実践ガイドです。例えば関連記事リンクやページ内目次のクリックがどれだけ発生しているかを把握できます。
背景と必要性
GA4は多くの自動計測を行いますが、内部リンクのクリックをそのまま区別してくれない場合があります。本書では、拡張計測やpage_referrer、GTM(Google Tag Manager)を組み合わせて具体的に計測する方法を示します。実務でよくある課題—どのリンクが読者を次の行動に導いているか分からない—を解決します。
想定読者
ウェブ担当者、コンテンツ制作者、マーケターを想定します。専門的なプログラミング知識は必須ではありません。設定手順は段階的に説明します。
本書で学べること(例)
- 記事内リンクの基本的な考え方と注意点
- 拡張計測だけでどこまで分かるかの判断
- GTMでのカスタムイベント設計の概要
次章以降で、具体的な設定と分析手順を順を追って説明します。
GA4で内部リンククリック数を計測する理由と基本的な考え方
なぜ内部リンク計測が必要か
内部リンクのクリック数を把握すると、サイト内の回遊性や重要な導線、改善ポイントが見えます。ページビューだけでは、どのリンクがユーザーを次のページへ導いたか判断できません。内部導線の評価にはクリックの計測が欠かせません。
GA4の挙動(内部と外部の違い)
GA4は外部リンク(外部ドメインへのクリック)を自動計測しますが、同一ドメイン内のクリックは通常ページ遷移としてページビューに含まれます。したがって内部リンクのクリック自体は自動でイベント化されません。
基本的な考え方
内部リンクはイベントで記録します。クリック時に「event_name(例:internal_link_click)」を送信し、link_text、link_url、link_classes、page_locationなどのパラメータを付与します。分析ではこれらを使ってどのリンクがどれだけ機能したかを確認します。
計測で気を付ける点
- SPA(シングルページアプリ)ではルーティングイベントと重複しやすい
- 同一ドメイン内でもサブドメインは判定が異なる場合がある
- ハッシュリンクやJavaScriptで発生するクリックは個別対応が必要
実装の概要(流れ)
- 計測対象の定義(どのリンクを計測するか)
- クリックでイベントを発火させる仕組みを用意
- イベントに必要なパラメータを付与
- 重複カウントを防ぎ、データを確認・分析する
以上がGA4で内部リンククリックを計測する際の基本的な理由と考え方です。具体的な実装方法は次章以降で詳しく説明します。
GA4の拡張計測機能を活用した計測方法
概要
GA4ではクリック計測に「拡張計測機能(測定機能の強化)」とカスタムイベントの二つの方法があります。拡張計測は簡単に有効化できますが、内部リンクの詳細追跡にはカスタムイベントが有効です。
拡張計測でできること
- 設定で「測定機能の強化」をONにすると、自動で多くのクリックイベントを収集します。
- 外部リンク(アウトバウンド)は自動判定されるため、基本的な流出計測が手早くできます。
内部リンク追跡の課題
拡張計測は外部リンクと内部リンクの区別や、リンクテキスト・親要素情報の取得が限定的です。これではページ内の導線改善に必要な詳細が不足します。
カスタムイベントでの対応(手順)
1) 拡張計測をONにして基礎データを確保します。
2) GTMまたはサイト側のスクリプトでクリック検知を実装します。例:aタグのクリックを監視し、リンク先のホスト名が自サイトと同じか判定します。
3) 内部リンクと判定したら、イベント名(例: internal_link_click)と共にパラメータ(link_text, link_url, link_path, link_target)を送信します。
4) GA4のデバッグビュー・イベント一覧で受信を確認します。
検証と運用のコツ
- 優先的にデバッグビューで動作確認してください。イベント名・パラメータの命名規則を統一すると後の分析が楽になります。
- クリック頻度が高い場合はサンプリングや不要パラメータの削減を検討してください。
page_referrerを活用した内部リンク計測
概要
page_referrerはページビュー時に送られる「参照元URL」です。自サイトドメインが含まれる参照元を集計すると、サイト内のリンクから遷移した回数を把握できます。特別なタグを追加せずに計測できる実用的な方法です。
なぜ有効か
通常、あるページから別のページへ移動すると、次のページのpage_referrerに前のページURLが入ります。これを条件に集計すれば、内部リンク経由のページビューを抽出できます。
GA4での基本手順(探索を使う例)
- GA4の「探索(Explore)」を開きます。\
- 新しい「空白」レポートを作成します。\
- ディメンションに「page_referrer」「page_location」「ページタイトル」などを追加します。\
- 指標に「イベント数」や「新しいユーザー数」を追加します。\
- フィルタでevent_name==”page_view”を設定し、page_referrerに自サイトドメインを含む条件を入れます(例: page_referrer contains “example.com”)。\
- 表示をページ別や参照元別に分けて集計します。
応用例
- トータル内部リンク由来のページビュー数: フィルタだけで全体数を確認できます。\
- 特定ページへの内部リンククリック数: 行をpage_location(遷移先)にして、page_referrerにドメインを含む条件で絞ります。
注意点
- SPA(シングルページアプリ)の場合、履歴APIで遷移するとpage_referrerが期待通り入らないことがあります。\
- ブラウザのリファラーポリシーやリダイレクトで参照元が消える場合があります。\
- より厳密な計測が必要なら、GTMでクリックイベントを直接計測する方法を併用してください。
GA4データ探索での分析方法
概要
GA4の「データ探索」を使うと、内部リンククリックの傾向を可視化できます。自由形式では参照元やリンク先を行に置き、イベント数を値にして自サイトドメインで絞り込む手順が基本です。経路データ探索では、始点と終点の流れを確認できますが、ページ表示はタイトルのみの制約があります。
自由形式での手順(簡単な流れ)
- 新規の自由形式探索を作成します。
- 行に「page_referrer(参照元URL)」「page_location(ページURL)」や「link_url(リンク先URL)」を追加します。
- 値に「イベント数(event_count)」を設定します。
- フィルタで自サイトドメインを包含(例:page_referrerに「example.com」を含む)して内部リンクだけを抽出します。
- 表示をソートしてクリック多いリンク順に確認します。
実例:参照元に自社ドメイン、リンク先に自社ドメインを両方指定すると、内部移動のみ抽出できます。
経路データ探索の使い方と注意点
- 経路探索は「出発ページ→次のページ」の流れを可視化します。始点からの遷移数や終点への到達数が分かります。
- 表示はページタイトルが中心で、URLの表示が限定的です。ページタイトルが重複する場合は注意が必要です。
実務上のコツ
- ページURLとタイトルの紐付けが必要なときは、自由形式でURL一覧を作ってから経路探索で流れを確認すると分かりやすいです。
- セグメント(特定のページ群)を作ってから分析すると精度が上がります。
- データ量が多い場合は期間を絞って確認してください。
GTMを使用したカスタムイベント設定
概要
Google Tag Manager(GTM)でカスタムイベントを作れば、内部リンククリックを細かく拾えます。ここでは、準備からテストまでの手順を具体例を交えて説明します。
前提準備
- GTMコンテナとGA4の設定済みであること
- ビルトイン変数(Click URL, Click Textなど)を有効化
トリガー作成(例:同一ドメインの内部リンク)
- トリガー種類を「Click – Just Links」または「All Elements」に設定
- トリガー条件:Click URL が「contains example.com」
- 複数条件ならリンクテキストやクラス名も利用(例:Click Text contains “特集”)
タグ設定(GA4イベント送信)
- タグタイプ:GA4 Event
- 設定タグ:既存のGA4設定タグを選択
- イベント名:internal_link_click(任意の分かりやすい名前)
- イベントパラメータ例:link_url → {{Click URL}}, link_text → {{Click Text}}
テストと確認
- GTMのプレビューでクリックを確認
- GA4のDebugViewやリアルタイムでイベント受信を確認
- 同じクリックが複数送られないか、フィルタで検証
補足・運用のコツ
- 外部リンクはClick URLにドメインを含む条件で除外
- SPA(ページ遷移しないサイト)はクリック後の履歴変更も監視
- イベント名やパラメータは運用で統一し、分析しやすくする
以上の手順で、GTMを使った柔軟な内部リンククリック計測が可能です。
外部リンククリック数との計測方法の違い
背景
GA4は「外部(サイト外への)リンククリック」を自動で計測できます。イベント名やリンクドメインのパラメータで絞れば、特定ドメインへの遷移数や合計数を簡単に出せます。
外部リンクの自動計測の特徴
- 初期設定で有効な場合が多く、タグや追加設定が不要です。
- イベントにはリンクのURLやドメインが付与されるため、フィルタで分析しやすいです。
内部リンクとの違い(ポイント)
- 内部リンクは同一ドメイン内の移動なので自動カウントされないことが多いです。ページ遷移だけではイベントとして残らないため、クリック回数を知りたい場合は設定が必要です。
- 単一ページアプリ(SPA)では内部リンクの遷移が履歴操作だけで起きるため、特別なハンドリングが要ります。
実務上の注意点
- 外部はイベント名やlink_domainでフィルタします。内部はGTMでカスタムイベントを送るか、page_referrerで判別します。
- クロスドメインやリファラ除去の影響で外部判定がずれることがあります。テストを入念に行ってください。
簡単な比較まとめ
外部:ほぼ自動で分析可。ドメインで集計しやすい。
内部:追加設定が必要。GTMやカスタムイベント、リファラ条件の設計を検討してください。
カスタムディメンションの追加
目的
内部リンクの「どこへ飛んだか」を詳細に把握するため、カスタムディメンションlink_domainとlink_urlを追加します。これにより単なるクリック数だけでなく、リンク先のドメインやフルURLを分析でき、改善点が見つかりやすくなります。
準備
- 内部リンククリックイベントでlink_domainとlink_urlの情報を送信する仕組みを作ります。GTMやサイトのJavaScriptで、クリック時にイベントパラメータとして付与します。
- まずはDebugViewやリアルタイムで送信を確認します。ここで正しい値が来ていることを確かめてください。
GA4での設定手順
- 管理 > プロパティ > カスタム定義 > カスタムディメンションを開きます。
- 「新しいカスタムディメンション」を作成します。
- 名前: link_domain(表示名は分かりやすく)
- スコープ: イベント
- イベントパラメータ: link_domain
- 同様にlink_urlも作成します(イベントパラメータにlink_urlを指定)。
- 作成後、データが反映されるまで最長で24時間ほどかかる点に注意してください。送信直後はDebugViewで確認できます。
活用例と注意点
- レポートや探索でカスタムディメンションを軸にすると、特定の外部ドメインやページへの遷移傾向が見えます。
- URLは冗長になりやすいので必要に応じて正規化(パラメータ削除など)を行ってから送信すると集計しやすくなります。
- パラメータ名は半角英数で統一し、文字数制限に注意してください。
以上でカスタムディメンションの追加は完了です。導入後は少量のデータで動作を確認してから本格運用してください。












