はじめに
本調査は、ハンドメイド作品を個人事業主として販売する際に知っておきたい開業手続きや税務上のポイント、メリット・デメリットをまとめたものです。手作り品をネットショップやフリマ、委託販売で売る方が増えていますが、趣味の延長か事業として扱うかで必要な手続きや税金の扱いが変わります。
本書の目的
この章では、全体の見通しをわかりやすく示します。開業届の有無の判断基準、確定申告の要否、提出方法や節税の基本、注意点まで段階的に説明します。専門用語はできるだけ抑え、具体例を交えて解説します。
想定する読者
・趣味で作った作品を販売しているが、事業にするか迷っている方
・これから初めてネットやイベントで販売を始める方
・開業届や確定申告の基本を知りたい方
本ガイドで得られること
・個人事業主になる際の判断材料が得られます。
・開業届の書き方や提出手順が理解できます。
・確定申告の基礎と所得の考え方、控除や経費の扱いのポイントがわかります。
以降の章で順を追って具体的に説明しますので、まずは自分の販売形態や収入の見通しを整理してから読み進めてください。
個人事業主とフリーランスの違い
概要
フリーランスは会社に属さず個人で仕事をする人全般を指します。一方、個人事業主は税務署に「開業届」を出して正式に事業を開始した人を言います。ハンドメイドで起業する場合、開業届を提出すると個人事業主になります。
主な違い(分かりやすく)
- 手続き面:フリーランスは必ずしも届出が不要、個人事業主は開業届の提出が必要です。
- 税務面:個人事業主になると青色申告など税務上の選択肢が広がります。帳簿付けや控除の扱いが変わります。
- 社会的信用:開業届があると屋号での口座開設や助成金・融資申請で有利になることがあります。
ハンドメイド作家の具体例
趣味で年数回販売する場合はフリーランスの範囲でも問題ありません。継続的に販売し利益を得るなら、開業届を出して個人事業主として税務処理すると安心です。
いつ出すべきかの目安
売上が続く、事業として成り立つ見込みがある、銀行や取引先に対する信用が必要――こうした場合は開業届を出すと良いでしょう。青色申告を使えば控除のメリットも得られます。
開業届が必要かどうかの判断基準
開業届の提出は、ハンドメイド活動が「事業」として成立しているかで判断します。税務上は「独立」「継続」「反復」の3つの要件を満たすと事業とみなされ、開業届が必要になります。
3つの要件(独立・継続・反復)
- 独立:自分の意思で売買や受注を行い、他人の事業に頼らず収益を得ること。例)自分名義でオンラインショップを運営する、個人で受注を受ける。
- 継続:一時的ではなく繰り返し行うこと。例)月に何回か出品する、定期的にイベント出店する。
- 反復:同じような取引が繰り返されること。例)同じ種類の作品を複数回販売する、受注生産で継続的に受注を受ける。
具体的な判断例
- 開業届が必要な例:オンラインで継続販売している、定期的に委託販売やイベント出店している、注文を定期的に受けている場合。
- 開業届が不要な例:一度きりのフリマやバザー、趣味の延長でたまに売るだけの場合。プレゼント目的や試作品の販売なども不要です。
本業か副業かに関係なく、3要件を満たせば提出が必要です。迷う場合は税務署や税理士に相談してください。
確定申告の必要性と所得の基準
確定申告が必要となる人
個人で事業を行う場合、確定申告の必要性は“本業か副業か”で異なります。概ね本業なら所得(売上−経費)が48万円を超えると申告が必要です。副業の場合は年間所得が20万円を超えると申告義務が生じます。
所得の計算方法(わかりやすい例)
所得は売上から経費を差し引いた純利益で判断します。たとえば売上100万円で経費が30万円なら所得は70万円。こうした場合、本業なら申告が必要です。副業で年間所得が15万円なら、申告は基本的に不要です。
経費にできる主なもの
材料費、外注費、交通費、宣伝費、事務所の家賃や光熱費の按分、通信費、消耗品、設備の減価償却などが経費になります。自宅兼事務所は使用割合に応じて按分して経費計上します。
記録と領収書の保管
経費として認められるかは証拠書類で判断されます。領収書や請求書、通帳の記録は必ず保管し、日々の記帳を習慣にしましょう。
申告のタイミングと簡単な手続き
所得が基準を超えたら、翌年の確定申告期間に申告します。税額に応じて納付が必要です。初めての方は税務署や税理士に相談すると安心です。
開業届の内容と提出方法
開業届とは
「個人事業の開業・廃業等届出書」です。税務署に事業を始めたことを知らせるための書類で、提出すると税務上の手続きがスムーズになります。
主な記入欄と書き方の具体例
- 氏名・住所:本人の現住所を記入します。
- 屋号:お店の名前があれば記入。無ければ空欄でも構いません。例:『○○工房』。
- 職業(事業の種類):自由記入です。具体例として「ハンドメイド作家」「ウェブデザイナー」「小売業(雑貨)」などと書きます。専門用語は不要です。
- 事業の開始日:制作開始日や初取引日を記入します。例:初めて商品を販売した日や、業務委託で仕事を始めた日。
- 従業員数や給与等:該当する欄を正直に記入します。
提出方法と提出先
- 提出先は、届出者の住所地を管轄する税務署です。窓口へ持参、郵送での提出が一般的です。
- 提出は本人が行いますが、代理人でも提出できます(委任状があれば安心です)。
提出後の注意点
- 提出控えは必ず保管してください。銀行口座や助成金申請で求められることがあります。
- 青色申告を希望する場合は、『青色申告承認申請書』を併せて提出するか、期限内に申請してください。
個人事業主になるメリット
税金面での優遇
個人事業主は事業に関わる支出を経費に計上できます。たとえば仕事用のパソコンや通信費、営業に使う車の燃料代などを経費にして所得を下げ、税金を減らせます。青色申告を選べば、節税効果が大きくなります(簡単に言えば65万円または10万円の特別控除などの仕組みがあります)。
資金管理と会計の明確化
事業用の口座やクレジットカードを作ると、収入と支出が分かれて管理しやすくなります。帳簿を整えることで、どこにお金がかかっているかが見え、経営判断がしやすくなります。具体例:月ごとの売上や固定費を把握して無駄を削減できます。
信用性の向上
開業届を出すと対外的に事業を営んでいることの証明になります。取引先や顧客に安心感を与え、案件受注や支払い条件の交渉で有利になることがあります。
補助金・制度の活用
個人事業主向けの助成金や創業支援の制度に応募できるケースが増えます。相談窓口や税務署のサポートも受けやすくなります。
自由度と責任感
働き方を自分で決められる自由が増えます。一方で帳簿管理や税務の責任も生じますが、計画的に対応すると事業を安定させやすくなります。
開業届提出時の注意点とデメリット
扶養の確認
開業届を出すと収入の見込みや勤務状態が変わり、健康保険・税法上の扶養から外れる場合があります。被扶養者としての条件は加入先(会社の健康保険や国民健康保険)で違います。提出前に必ず加入先や配偶者の勤務先に相談し、想定年間収入で扶養要件を満たすか確認してください。
税金面の注意
年間事業所得が290万円を超えると個人事業税の課税対象になります。開業届を出すと税務署から都道府県税事務所へ情報が伝わり、課税の対象かどうか判定されます。税負担の増加や納税通知が来る可能性を見越して収支計画を立ててください。
実務負担とリスク
開業すると帳簿の作成や確定申告、社会保険の手続きなど事務作業が増えます。赤字でも届出後は事業としての報告義務が生じ、税務調査の対象になり得ます。収入が不安定な場合は手続き負担と給付喪失のバランスを検討しましょう。
対策
開業前に収支予測を作り、加入先に相談、場合によっては開始時期を調整します。青色申告の承認申請や簡単な帳簿の準備も有効です。税理士や社会保険労務士に相談すると安心です。
事業継続のための重要なポイント
個人事業を続けるには、開業届を出すだけで終わらせず、収入を安定させる実務が重要です。年間20万円超で開業届提出が勧められますが、長く続けるためには原価管理と集客を中心に取り組みましょう。
原価管理(コストを見える化する)
材料費や外注、通信費などを毎月記録します。具体例:材料が月3万円、外注2万円なら合計を把握して利益目標を設定します。単価ごとに利益率を計算すると値上げの判断がしやすくなります。
集客と顧客維持
複数の集客経路を持ちます。SNSで実例を発信したり、既存顧客に紹介をお願いしたり、メールで定期案内を送ると安定します。定期契約やサブスク型を用意すると収入が安定します。
価格設定と利益確保
コストに時間も加えて価格を決めます。たとえば材料3万円+作業時間分で5万円にするなど、目標利益を含めて設定してください。
資金繰りと備え
売上の未回収に備えて入金管理を徹底します。生活費の3〜6か月分を貯めると安心です。
記帳・税務・保険の習慣
領収書を保存し、毎月の記帳を習慣化します。税制のメリット(例:青色申告の特典)や国民年金・健康保険の手続きを確認してください。
継続のための心構え
顧客の声に耳を傾け改善を続けます。学びを習慣にして小さな改善を積み重ねると事業は安定します。












