はじめに
本レポートの目的
本レポートは、AWS S3(Simple Storage Service)の料金体系と実際のコスト計算を分かりやすくまとめた調査報告です。料金の仕組み、計算方法、利用例、コスト削減策、無料枠の活用までを網羅します。
想定読者
S3をこれから利用する個人・中小企業の担当者、既に利用しているが料金体系を整理したい人を想定しています。専門知識が無くても理解できるよう、具体例を交えて説明します。
本レポートの構成
全9章で構成します。第2章は基本的な料金要素、第3〜5章で容量・リクエスト・転送の各料金、第6章で実際の計算例、第7章で価格改定のポイント、第8章でコスト削減策、第9章で無料利用枠の活用法を解説します。
利用上の注意
料金はリージョンや為替で変動します。具体的な見積もりはAWSの最新料金表や請求コンソールで確認してください。
Amazon S3の基本的な料金体系
概要
Amazon S3は初期費用が不要で、使った分だけ支払う従量課金制です。月額の固定費は発生せず、必要な分だけ保存・利用できます。小さく始めて利用量に応じて増やせる点が特徴です。
料金の構成要素
- 保存容量:実際に保存したデータ量(GB)に応じて課金されます。保存は月単位で集計されます。
- リクエスト数:オブジェクトのアップロードやダウンロードなどの操作回数によって課金されます。種類ごとに単価が異なります。
- データ転送量:S3からインターネットや他のリージョンへ送るデータ量(転送アウト)に対して課金されます。リージョン内での転送は別扱いです。
実務でのイメージ
例えば、毎月50GBを保存し、頻繁にダウンロードが発生する場合は「保存容量」と「データ転送量」が主要コストになります。一方、バックアップのように保存のみでアクセスが少ない用途では保存容量が主な要因です。
ポイントと注意点
- ストレージクラス(標準、低頻度アクセス、アーカイブなど)で単価が変わります。
- 小さなファイルが大量にあるとリクエスト料が目立つことがあります。
- 見積もりは各要素を合算して行います。
保存されたデータ容量の料金
概要
S3 Standard(東京リージョン)では、保存したデータ容量に応じて段階的に単価が下がります。料金は「GB当たり・月額」で計算されます。つまり、1GBを1か月保存するとその分の料金が発生します。
料金の階層(目安)
- 最初の50TB/月:約0.025 USD/GB
- 次の450TB/月:約0.024 USD/GB
- 500TB以上:約0.021 USD/GB
このように、保存容量が増えるほどGB当たりの単価が下がります。小規模利用では最初の階層の単価が適用されます。
具体例:画像ファイル100GBを保存する場合
100GBをS3 Standardに1か月保存すると、最初の階層の単価が適用されます。
計算例:100 GB × 0.025 USD/GB = 2.5 USD
為替の目安を1 USD = 100 JPYとして換算すると、約250円/月となります。為替やプロバイダの表記方法で多少前後します。
注意点
- 上記はS3 Standardの容量料金のみで、リクエストやデータ転送、ライフサイクルでのクラス変更に伴う料金は別途発生します。
- 長期保存やアクセス頻度が低いデータは、他のストレージクラスを検討すると費用を下げられる場合があります。
- 請求は実際の使用量に基づき時間単位で細かく計算されますので、厳密な金額は請求画面で確認してください。
リクエスト数による料金
概要
S3のリクエスト料金は操作の種類で2つのTierに分かれます。Tier 1はPUT、COPY、POST、LIST、ライフサイクル移行などの書き込みや管理系操作、Tier 2はGET、SELECT、HEADなどの読み取り系操作です。リクエスト数に応じて課金されます。
Tierごとの単価
- Tier 1(PUT/COPY/POST/LIST 等):1,000回あたり約0.005 USD
- Tier 2(GET/SELECT/HEAD 等):1,000回あたり約0.0004 USD
具体例と計算方法
- GETリクエスト100万回:0.0004 USD × (1,000,000 / 1,000) = 0.4 USD → 月額で約50円(概算)
- PUTリクエスト10万回:0.005 USD × (100,000 / 1,000) = 0.5 USD
計算は「単価 ×(リクエスト数/1,000)」で求めます。為替や地域で料金は変わるので概算として扱ってください。
コストに与える影響と対策
- 小さなオブジェクトを頻繁に読み書きするとリクエスト数が増え、転送量よりもリクエスト料金が目立つ場合があります。
- 対策例:キャッシュ(例えばCDN)を導入してGET頻度を下げる、複数操作をまとめて行う(バッチ処理やマルチパートアップロードの利用を検討)など。
注意点
- LIST操作やライフサイクルによる移行もTier 1扱いになります。無駄な一覧取得や細かいライフサイクル設定はリクエスト増につながります。
- SELECTやHEADはTier 2でも別単価が適用される場合があるため、使い方に応じて料金を確認してください。
データ転送量による料金
概要
S3へのインバウンド(アップロード)は無料です。一方、アウトバウンド(インターネットへ送るデータ)は最初の100GB/月が無料で、その後は段階的に課金されます。転送量が増えるほど1GBあたりの単価が下がる仕組みです。
東京リージョンの主要な段階(例)
- 最初の100GB/月:無料
- 次の10TB:0.114 USD/GB
- 次の40TB:0.089 USD/GB
注意点と計算のポイント
- 転送は「アウトバウンド」が対象です。内部ネットワーク間の転送やCloudFront経由は別扱いになることがあります。
- 表示はUSD/GBなので、日本円換算では為替で差が出ます。
計算例
月間100万PVで約80GBの転送が発生するケースを考えます。80GBは無料枠の100GBに収まるため、アウトバウンド転送そのものの料金は0 USDになります。参考として、もし80GBが有料単価(0.114 USD/GB)で計上される場合は、80 × 0.114 = 9.12 USD、概ね約800円前後になります(為替により変動します)。
以上の点を踏まえ、まずは月間転送量を把握し、無料枠に収まるかどうかで費用感が大きく変わることを意識してください。
実際の料金計算例
以下では、具体的な前提を示してから、計算の流れと結果をやさしく説明します。計算式はシンプルに示します。
例1:30万PVの静的ページホスティング(目安:月額約8,500円)
前提:容量1GB、リクエスト数15回/PV、転送量2MB/PV。
– リクエスト数=300,000PV × 15 = 4,500,000回
– 転送量=300,000PV × 2MB = 600,000MB ≒ 586GB
– 容量=1GB
これらの合計に、S3の保存・リクエスト・データ転送の単価を当てはめると、目安で月額約8,500円になります。実際はリージョンや階層で差が出ます。
例2:1万PV規模のサイト(目安:月額約12円)
同様に1万PV、静的コンテンツで小容量の場合、リクエストや転送が少なく、概算で月額約12円となるケースがあります。小規模ならS3コストは非常に低く抑えられます。
例3:長期保存の比較(5TB保存)
- S3 Standardで5TB保存すると、保存コストが高めで目安は約16,445円/月。
- Glacierのような低頻度アクセス向け階層なら保存単価が低く、目安は約708円/月になります。
保存期間や取り出し頻度で大きく差が出ます。
例4:一般的なWeb構成(目安:月額約1,100円)
静的ファイル中心でアクセス量が中程度の構成では、保存+リクエスト+転送を合算して月額約1,100円になることがあります。CDNやキャッシュでさらに下げられます。
注意:ここに示した数値はあくまで例です。正確な請求額は利用リージョンと実際の単価に基づいて算出してください。
S3 Express One Zoneの価格改定
概要
2025年4月10日付でS3 Express One Zoneの料金が大幅に引き下げられました。主な変更は保存容量が31%減、PUT(書き込み)リクエストが55%減、GET(取得)リクエストが85%減、データのアップロード・取得料金が60%減です。
何が変わるか(平易な説明)
- 保存容量:同じデータ量でも請求額が31%安くなります。
- PUTリクエスト:オブジェクトを追加・更新する操作の料金が半分以下になります。
- GETリクエスト:読み取り操作の料金が大幅に下がり、頻繁に読み出す用途で恩恵が大きいです。
- データ転送(アップロード・取得):一回の転送にかかる費用が60%安くなります。
具体例
- 例1:保存料金が月1,000円だった場合、改定後は約690円になります。
- 例2:PUTリクエスト費用が100円だった場合、改定後は約45円に、GETが100円なら約15円になります。
活用のポイントと注意点
- 頻繁に読み書きするワークロードで、コスト削減効果が大きく出ます。
- One Zoneは単一のAZ(可用性ゾーン)にデータを置くため、耐障害性の要件を確認してください。
- コスト試算は実際の使用量(保存量、リクエスト数、転送量)で行ってください。
コスト削減アプローチ
概要
S3のコスト削減は、保存方法と運用の見直しで実現します。ここでは具体的な手法と実践手順を分かりやすく説明します。企業事例も紹介します。
主な手法
- ストレージクラスの最適化
- 頻繁に使うデータは標準、アクセスが少ないデータはGlacierやColdline相当へ移動します。料金差を具体例で示すと、長期保管で月額を大きく下げられます。
- ライフサイクルルールの導入
- 自動で古いオブジェクトを低コスト階層へ移すと人手を減らせます。30日や90日など利用状況に合わせて設定します。
- 重複排除と圧縮
- 同じファイルの複製を防ぎ、圧縮で容量を削減します。例えばログをまとめてgzipで保存すると容量が目に見えて減ります。
- リクエスト・転送の最適化
- 頻繁にアクセスする小さなオブジェクトをまとめて取得するなどでリクエスト数と転送量を抑えます。
企業事例(実践例)
ある企業はS3アーキテクチャを見直し、ライフサイクルの自動化とストレージクラスの見直しを行いました。その結果、2025年に月額コストを約30%削減し、特にストレージ料金の増加を抑える効果が出ました。
実践の手順(5ステップ)
- 現状のデータアクセス頻度と容量を可視化する
- 重要度に応じてストレージクラスを分類する
- ライフサイクルルールを作成・テストする
- 重複排除・圧縮を導入する
- 定期的に監視し設定を見直す
注意点
- 低コスト階層は取り出しに時間と追加費用がかかる場合があります。復元の要件を確認してください。
- 設定変更はまずテスト環境で確認し、運用影響を小さくしてください。
AWS無料利用枠の活用
概要
2025年7月にAWSの無料プランが更新されました。本章では、新しい枠組みをS3利用でどう活かすかを分かりやすく説明します。実践的な手順と注意点を中心にまとめます。
主な変更点(要点)
- 無料容量や期間の見直しが行われました。
- 一部のリクエストやデータ転送が無料枠に含まれるケースが増えています。
S3で無料枠を試せること
- 小規模なウェブサイトのホスティング(例: 数MB〜数GBまで)
- バックアップやテストデータの保存(限定的な容量で)
- PUT/GET等の基本的な操作の検証
注意点
- 無料枠を超えると通常料金が発生します。予想以上に転送やリクエストが増えると料金が出やすいです。
- 無料対象外の機能(ライフサイクルや特定のストレージクラスなど)に注意してください。
実践的な活用手順
- 使用見込みを見積もる(容量・リクエスト数・転送量)。
- 無料枠内で収まるようバケット設定を工夫する(公開設定やライフサイクルの簡易設定)。
- モニタリングを設定して超過を早期に検知する。
料金発生を防ぐチェックリスト
- 無料枠の容量・期間を確認する
- アクセスログや監視を有効にする
- テスト用と本番用を明確に分ける
以上を踏まえ、まずは小さな試行から始めると安心して無料枠を活用できます。












