はじめに
本書の目的
このドキュメントはCMS（コンテンツ管理システム）の選び方を分かりやすく伝えることを目的としています。CMSの種類と特徴、代表的な製品、種類別の比較表、選定時の重要ポイントを順に解説します。実務で使う視点を重視し、実例を交えて説明します。
CMSとは
CMSは文章や画像をまとめて管理し、ウェブサイトに公開する道具です。例えば、社内のニュース更新、商品ページの追加、ブログ運営などを専門知識が少なくても行えます。手作業でHTMLを書かずに済む点が最大の利点です。
想定読者と使い方
対象は、企業のウェブ担当者、制作会社、個人でサイト運営する方です。まず第2章で種類を理解し、気になる製品は第3章で詳細を確認してください。第4章の比較表で候補を絞り、第5章で最終判断のポイントを確認すると効率的です。
本書の構成
全5章で構成します。各章は短く要点をまとめるため、読みながら実際の導入検討に使えます。
CMSの種類と特徴
クラウド型（SaaS）
クラウド型は提供者のサーバー上で動くサービスです。導入が簡単で初期費用を抑えられます。非エンジニアでも管理画面から更新でき、バックアップやセキュリティはベンダーが行います。小規模サイトや広報、個人利用に向きます。例：サイト構築サービスやホスティング型CMS。
制約としてはカスタマイズに限界があり、機能追加や独自設計には向きません。運用が楽な反面、長期的なコストやベンダーロックインを確認してください。
パッケージ型（商用ライセンス）
パッケージ型はソフトウェアを購入して自社に導入します。初期費用が高いことが多いですが、サポートや機能が充実し、大規模な業務システムと連携しやすい特徴があります。専任の運用体制を整えれば柔軟に使えます。
導入時はライセンスや保守費用、アップデート方針を事前に確認してください。
オープンソース型
オープンソースはソフト自体は無償で利用できます。自由にカスタマイズでき、コミュニティによる拡張が豊富です。小規模〜大規模まで幅広く採用されます。例：WordPressやDrupal。
一方で、設定や保守、セキュリティ対策には技術者が必要で、ホスティング費や運用工数がかかります。
ヘッドレスCMS
ヘッドレスは管理（バックエンド）と表示（フロントエンド）を切り離し、API経由でコンテンツを配信します。複数の端末やアプリに同じコンテンツを配信する場合に有利で、自由度の高いデザインが可能です。フロントエンド開発の知識や初期設計が求められます。
主要なCMS製品の紹介
WordPress
世界で最も普及しているCMSです。操作が分かりやすく、テーマやプラグインで機能を追加しやすい点が魅力です。ブログや企業サイト、ECの簡易構築まで幅広く使えます。
Movable Type
日本でも古くから使われるCMSです。安定性が高く、更新履歴や権限管理を重視するサイトに向きます。運用ルールを守りやすい点が特長です。
Drupal
大規模サイトや複雑な要件に強いCMSです。柔軟な構造設計ができ、カスタマイズ性とセキュリティに優れます。開発者と連携して構築することをおすすめします。
Joomla!
中〜大規模の多機能サイトで選ばれるCMSです。拡張機能が豊富で、多言語サイトの構築にも向いています。
microCMS
国産のヘッドレスCMSです。コンテンツをAPIで提供し、フロントは自由な技術で開発できます。軽量で導入が速いのが利点です。
Kuroco
こちらも国産のヘッドレスCMSで、開発者向けの機能やセキュリティが整っています。認証や権限管理が必要なサービスに向きます。
HeartCore／ferret One
マーケティング機能を統合した商用CMSです。フォーム、ABテスト、解析連携などマーケティング施策をワンストップで行えます。非エンジニアでも運用しやすい設計です。
MODx／Concrete CMS
オープンソースのCMSで、柔軟なテンプレート設計や直感的な編集画面を備えています。独自デザインを重視するサイトに向きます。
CMSの種類別比較表
操作性
- クラウド型：管理画面が直感的で非技術者でも編集しやすいです（例：ドラッグ＆ドロップでページ作成）。
- ヘッドレスCMS：編集は可能ですが、表示部分は別途開発が必要なため技術者の関与が多くなります（例：API経由でコンテンツ取得）。
- オープンソース型：管理画面は製品によって差が出ます。初期設定や学習コストがやや高い場合があります。
カスタマイズ性
- クラウド型：テンプレート中心で素早く構築できますが、深いカスタマイズは制限されることがあります。
- ヘッドレスCMS：表示や機能を自由に設計でき、高度な要件に強いです（例：モバイルアプリやIoT連携）。
- オープンソース型：ソースを改変して自由に拡張できます。社内で技術力があれば柔軟に対応できます。
保守・管理
- クラウド型：運用やバックアップをサービス側が担うため負担が軽いです。
- ヘッドレスCMS：バックエンドは管理されることが多いですが、表示側の保守は自社で行います。
- オープンソース型：アップデートやセキュリティ対応を自社で管理する必要があります。
連携性
- クラウド型：提供するプラグインや連携機能で主要サービスとつながりますが、対応範囲はサービス毎に異なります。
- ヘッドレスCMS：API中心のため他システムやサービスと柔軟に連携できます。
- オープンソース型：豊富なプラグインやカスタム開発で幅広い連携が可能です。
導入コスト
- クラウド型：初期コストを抑えやすく、月額課金で運用できます。
- ヘッドレスCMS：ツール自体はクラウド型と同様に月額／利用料が発生しやすく、表示側開発費用が追加でかかります。
- オープンソース型：ソフト自体は無償が多く初期費用は低いですが、人件費や保守費が必要になります。
選び方の目安
- 手間を抑えてすぐ運用したいならクラウド型。
- 表示自由度や多様な連携が必要ならヘッドレスCMS。
- カスタマイズ重視でコストを抑えたい場合はオープンソース型。
CMS選定時の重要なポイント
操作性・ユーザーインターフェース
非エンジニアが日常的に使う場合、直感的な操作性が最優先です。WYSIWYGエディタ、ドラッグ＆ドロップでのページ編集、画像アップロードや公開設定が分かりやすいかを確認してください。実際に担当者に触ってもらうことが一番の検証方法です。
カスタマイズ性と拡張性
デザインの変更や機能追加がどれだけ容易かを見ます。テーマやプラグインの豊富さ、APIやテンプレートの編集方法をチェックしてください。簡単に見えても深い改修は技術者が必要になるため、将来の改変計画も考慮します。
保守・運用体制
更新頻度やセキュリティパッチの提供、公式サポートやコミュニティの活発さを確認します。導入後の運用担当者が困ったときに問い合わせ先があることは重要です。
導入コストとランニングコスト
初期費用だけでなく、ライセンス、ホスティング、プラグイン、保守人件費を合算してください。安価でも運用で手間が増えると総コストは高くなります。したがって総合的な費用試算が必要です。
セキュリティとバックアップ
SSL対応、ログイン試行制限、ファイル権限の管理、定期バックアップの自動化可否を確認します。脆弱性対策の実績があるかもチェックしてください。
性能・スケーラビリティ
表示速度や同時アクセスに対する強さを確認します。キャッシュ機能やCDN連携の有無、サーバー要件を事前に把握してください。アクセス増加時の拡張手順も明確にしておきます。
他システムとの連携
CRM、メール配信、決済、分析ツールなど既存システムとの接続が容易かを確認します。APIやWebhookの有無、データ移行のサポート内容も重要です。
選定チェックリストと実践的確認方法
- 実運用者によるトライアルで投稿・編集を行う
- テンプレート変更やプラグイン導入を試す
- バックアップ復元とアップデート手順を検証
- 総コストを3年単位で試算する
各項目を担当者と共有し、優先順位をつけて比較してください。操作性を重視しつつ保守性とコストのバランスを見極めることが選定成功の鍵です。
