はじめに
この文書は、ハンドメイド作品の販売に関する税金や確定申告について、わかりやすく丁寧に解説することを目的としています。副業としての販売、趣味の延長での出品、本業としての事業運営、専業主婦(主夫)の方の扱いなど、立場によって異なる税務上の注意点を順を追って説明します。
本章の目的
まずは全体像をつかんでいただくことが目的です。どのような場面で確定申告が必要になるのか、どんな手続きや準備が必要かを把握して、次の章で具体的な判断ができるようにします。
対象読者
- フリマアプリやイベントでハンドメイド作品を販売している方
- 副業として始めたいと考えている方
- 売上が増えて本業化を検討している方
- 家計の中で作品販売の扱いに迷っている専業主婦(主夫)の方
本書の使い方
各章で「判断基準」「手続き」「計算の基本」「節税のポイント」をやさしく示します。まずは記帳(売上と経費の記録)を習慣にしてください。領収書や発送伝票などの保存が後で役に立ちます。疑問が残る場合は税務署や税理士に相談すると安心です。
どうぞ無理なく読み進めてください。次章から具体的な判断基準や計算方法を順にご案内します。
ハンドメイド販売と税務申告の基本関係
1) ハンドメイドの売上は「所得」です
ハンドメイド作品の販売で得る収入は、原則として個人の所得として扱われます。贈与や一時的な家族間のやり取りでなければ、基本的に課税対象になります。
2) 副業でも一定額を超えれば申告が必要
副業で少額の収入でも、年間の利益(売上-必要経費)が一定額を超えると確定申告が必要です。たとえば、年間20万円を超える場合は、会社員でも自分で申告が求められます(該当する条件によります)。
3) 会社員と個人事業主の違い
会社員は給与に対して源泉徴収がありますが、ハンドメイド販売は源泉徴収されません。自分で売上や経費を集計し、確定申告で申告・納税します。個人事業主になるかどうかは、継続性や規模によって判断します。
4) 収入の計算と記帳の基本
売上や材料費、外注費、発送費などの経費を記録します。帳簿は簡単なノートやスマホアプリでも構いませんが、証憑(領収書や注文履歴)は保存しましょう。
5) 注意点
売上が少なく見えても利益が出ていれば課税対象になります。副業の規模が大きくなれば、事業届出や青色申告の検討も必要です。疑問があれば税務署や税理士に相談してください。
副業としてのハンドメイド販売における確定申告の基準
申告が必要となる基準
副業でハンドメイド販売を行う場合、年間の『所得』が20万円を超えると確定申告が必要です。ここでの所得とは、売上ではなく「売上−必要経費」の金額を指します。
所得と売上の違い(具体例)
例えば、売上が100万円で、材料費や梱包・発送費、販売手数料などの経費が70万円なら、所得は30万円になります。この場合は確定申告が必要です。売上だけで判断しないよう注意してください。
経費にできる主な項目(例)
- 材料費、工具費
- 梱包材・発送費
- 出店料や展示会のブース代
- フリマアプリの手数料や決済手数料
- 商品写真の撮影費、広告費
- 作業スペースの家賃・光熱費の按分
注意点
- 給与所得者が副業で得た所得が20万円以下でも、住民税や会社への申告義務について確認が必要です。自治体や勤務先の取り扱いで異なる場合があります。
- 経費にするには領収書や記録を保存してください。税務署からの問い合わせに備えます。
この章では副業の基本ルールを簡潔に説明しました。次章では専業主婦(主夫)の場合の基準を詳しく解説します。
専業主婦(主夫)の場合の確定申告基準
概要
専業主婦・主夫がハンドメイド販売で得た「利益」が38万円を超えると、確定申告が必要になります。ここで言う利益は、売上から材料費や発送費などの必要経費を差し引いた額です。
「利益」の具体例
利益=売上−経費。例えば、売上50万円、材料費や梱包送料などの経費が10万円なら利益は40万円で、38万円を超えるため申告が必要です。売上だけでなく経費も必ず計算してください。
申告が不要な場合
利益が38万円以下なら所得税の課税対象にはなりませんので、原則として確定申告は不要です。ただし、医療費控除や還付を受けたい場合は申告した方が良いことがあります。
申告が必要になったら
所得が38万円を超えたら、確定申告書を作成して税務署に提出します。市区町村や税務署の窓口、国税庁の確定申告書作成コーナーを利用すると手続きが分かりやすいです。
注意点
・経費として認められるものを漏らさないよう領収書を保管してください。
・配偶者の年末調整や扶養の扱いに影響する可能性があるため、状況によっては早めに相談してください。
本業としてのハンドメイド販売における確定申告基準
概要
本業でハンドメイド作家をしている場合は、継続的な販売活動を前提に税務上「事業」として扱われます。所得が48万円を超えると確定申告が必要です。
確定申告が必要な基準
所得=売上−経費です。1年間の所得が48万円を超えれば申告義務が発生します。給与など他の所得がある場合は合算して判断します。
事業所得としての扱い
継続的に販売する場合は事業所得で申告します。開業届を出すと税務署での各種手続きがスムーズになります。帳簿と領収書を日々整理してください。
青色申告のメリットと手続き
青色申告は65万円(要複式簿記)または10万円の控除が受けられます。赤字を翌年以降に繰り越す制度もあります。始めるには「青色申告承認申請書」を税務署へ提出します。
所得計算の具体例
売上80万円、経費30万円→所得50万円→申告必要。
注意点
経費にできるものは材料費、道具、発送費、家事按分した家賃などです。帳簿は正確に保管してください。
所得税の計算方法と税率
計算の流れ
ハンドメイド副業の所得は原則として収入から必要経費を差し引いた金額(雑所得)です。その雑所得を他の所得と合算し、所得控除を差し引いて課税所得を求めます。最後に税率をかけて所得税額を算出します。
具体的な手順(簡単な例付き)
- 収入−必要経費=雑所得
例)売上30万円−材料費10万円=所得20万円 - 雑所得+給与など他の所得=合計所得
- 合計所得−所得控除(基礎控除など)=課税所得
控除の例:基礎控除、社会保険料控除、配偶者控除など - 課税所得に応じた税率を適用して税額を計算
具体例:課税所得が250万円の場合
– 最初の1,950,000円に対して5%=97,500円
– 残り550,000円に対して10%=55,000円
– 合計の所得税額=152,500円(さらに復興特別所得税が加算されます)
税率(代表例)
- 〜1,950,000円:5%
- 1,950,001〜3,300,000円:10%
- 3,300,001〜6,950,000円:20%
- 6,950,001〜9,000,000円:23%
- 9,000,001〜18,000,000円:33%
- 18,000,001〜40,000,000円:40%
- 40,000,001円〜:45%
注意点
- 所得税は段階課税(超えた部分にだけ高い税率がかかります)。
- 復興特別所得税(所得税額の約2.1%)が上乗せされます。
- 正確な税額は控除の種類や金額で変わるため、申告前に控除の適用を確認してください。
消費税に関する重要な知識
課税の基準
消費税は、原則として「年間の課税売上高」が1,000万円を超えると課税事業者になります。たとえば年間売上が800万円なら、原則として消費税の納税義務はありません。ただし売上が1,000万円に近づく場合は注意が必要です。
免税事業者と課税事業者の違い
免税事業者は消費税を預かって納める義務がありません。課税事業者になると消費税を顧客から受け取り、国に納めます。課税になれば販売価格に消費税分を上乗せする必要が出ます。
軽減税率(食品関連)
食品や飲料の一部には軽減税率(8%)が適用されます。ハンドメイドで食品や飲料を扱う方は、商品が対象かどうか確認してください。たとえば持ち帰り用の焼き菓子は軽減税率が適用される場合が多いです。
事業拡大時の実務ポイント
売上が増えて課税対象になったら、帳簿を整え、経費にかかった消費税を差し引く(仕入税額控除)仕組みを理解してください。価格に消費税をどう反映させるか、事前に検討すると混乱を避けられます。
手続きと相談先
年間の売上見込みを定期的に確認し、疑問があれば税務署や税理士に相談してください。早めの準備が負担を軽くします。
経費計上による節税対策
経費が節税に効く理由
売上から経費を差し引いた利益に税金がかかります。経費を正しく計上すれば課税対象の所得が減り、所得税や住民税を抑えられます。
経費として認められやすい具体例
- 材料費:布・ビーズなど作品に直結する費用
- 梱包・送料:商品を送るための箱や送料
- 備品・工具:ミシンやカッターなど購入費(耐用年数が長い場合は減価償却)
- 外注費:委託した加工やデザイン料
- 通信費・広告費:ネットショップの手数料、広告費用
- 研究・勉強費:制作技術の講座や書籍代
- 家事按分:自宅の一部を作業場に使う場合、その割合を経費にできる
青色申告のメリット
青色申告を選ぶと、青色申告特別控除(65万円または10万円)や家族への給与の計上、赤字の繰越しなどの恩恵を受けられます。帳簿を整える手間は増えますが節税効果が大きいです。
家事按分の考え方と計算例
自宅の光熱費や通信費を仕事と私用で分ける方法です。例えば、ネット回線月5,000円を作業で50%使うなら2,500円を経費にします。使用時間や面積で合理的に按分してください。
領収書・記帳のポイント
領収書は日付・金額・内容が分かるよう保存します。帳簿はこまめにつけ、データでの保存や会計ソフトの活用が便利です。税務調査に備えて証拠を残しましょう。原則、帳簿類は一定期間保存が必要です。
節税の注意点
個人的な費用を無理に経費にするのは避けてください。税務署は理由の説明がつかない支出を否認します。節税は合法的に行い、記録を残すことが大切です。
相談先
分からない点は税務署や税理士、無料の確定申告相談窓口に相談してください。会計ソフトのサポートを利用するのも有効です。
フリマアプリでの販売と課税対象の判断
概要
フリマアプリで家の不用品を売る場合、多くは「生活用動産の譲渡」に当たり、基本的に課税対象になりません。対して、ハンドメイド作品や仕入れて販売するものは事業収入になり得ます。具体例を交えてわかりやすく説明します。
不用品(生活動産)の扱い
使っていた洋服や家具をアプリで売るとき、購入価格より安ければ原則非課税です。たとえば5年前に買ったコートを2千円で売れば課税対象になりません。売却が少数で臨時的なら税務上「生活の範囲」と判断されやすいです。
ハンドメイドや仕入れ品との違い
自分で作ったアクセサリーを継続的に売っていて年間所得が20万円を超えると確定申告が必要です。仕入れて転売する場合も同様です。頻繁に出品して利益を追求するなら事業扱いになります。
判定のポイント(実務的)
・販売の頻度・継続性
・利益の有無と金額
・販売目的(趣味か営利か)
記録の取り方
売上や送料、手数料はアプリの履歴で管理してください。確定申告が必要になったとき、履歴と領収書が役に立ちます。












