はじめに
目的
本レポートは、AWS Lambdaの無料利用枠に関する最新情報と仕様変更を分かりやすくまとめることを目的としています。2025年3月時点の基本スペック、注意点、そして2025年7月に予定されている大幅改革や新無料プランの詳細まで扱います。
対象読者
- 個人開発者や学生:プロトタイプや学習でのコスト把握に役立てたい方。
- スタートアップや中小企業:運用コストの見積もりや設計方針を検討する方。
- クラウド設計者・エンジニア:無料枠を前提にシステム設計を行う方。
具体例を挙げると、個人でLambdaを使ってWebhookを試す場合や、スタートアップが無料枠でPoCを回す場合に参考になります。
本レポートの構成
本書は全9章で構成します。第2章で現行の基本スペックを説明し、第3章で制限や注意点を整理します。第4・第5章で2025年7月の改革と新プランの詳細を扱い、第6章で新旧の比較を行います。第7章は他の主要サービスの無料枠、第8章は実践的な活用例、第9章は設計時の重要ポイントを解説します。
注意事項
本レポートは2025年3月時点の情報に基づいて作成しています。実際の利用や請求はAWSコンソールや公式ドキュメントで最終確認してください。
AWS Lambda無料枠の基本スペック
概要
AWS Lambdaには、継続的に適用される「常に無料(Always Free)」の枠があります。2025年3月時点では、月間で「リクエスト100万件」までと「40万GB-秒」のコンピューティング時間が無料です。これらは無期限で適用されます。
無料枠の内訳
- リクエスト: 月間1,000,000リクエストまで無料です。つまり関数が呼ばれる回数がこれに該当します。
- コンピューティング時間(GB-秒): 月間400,000 GB-秒まで無料です。これは関数の実行時間と割り当てたメモリ量の積で計算します。
GB-秒の見方と計算例
GB-秒は「割り当てたメモリ(GB)」×「実行時間(秒)」で求めます。
例1: メモリ128MB(0.125GB)、実行時間100ms(0.1秒)の場合
0.125GB × 0.1秒 = 0.0125 GB-秒(1回あたり)
→ 100万回実行すると 12,500 GB-秒になります。
例2: メモリ512MB(0.5GB)、実行時間500ms(0.5秒)の場合
0.5GB × 0.5秒 = 0.25 GB-秒(1回あたり)
→ 100万回実行すると 250,000 GB-秒になります。
実用的な目安
日常的なAPIエンドポイントやバッチ処理で、軽い処理(短い実行時間・メモリ小)を行うなら、無料枠だけで数十万〜百万人規模の呼び出しをカバーできます。重めの処理や高メモリ必要な処理はGB-秒を消費しやすいので注意してください。
適用範囲と注意点
無料枠はアカウント単位で適用されます。複数リージョンや複数関数で合算されます。無料枠を超えた分は通常の料金で課金されます。
無料枠の注意点と制限事項
概要
AWS Lambdaの無料枠は便利ですが、適用範囲に制限があります。ここでは、よく見落としがちな点と運用時の注意を具体例を交えて説明します。
無料枠に含まれない代表項目
- データ転送費用:外部ネットワークや他リージョンへ送るデータは別料金です。大きなファイルを頻繁に送るワークロードは費用がかかりやすいです。
- ストレージ・関連サービス:S3、DynamoDB、RDS、ECRなどはそれぞれ別の課金対象です。Lambdaからこれらを呼ぶだけでも利用量に応じて請求されます。
- ログと監視:CloudWatchのログ収集や長期保存、X-Rayのトレースは無料枠に含まれない場合があります。ログが大量に出る関数はコスト増に注意してください。
- プロビジョンド・コンカレンシーや専用のリザーブド設定:これらは無料枠に含まれず追加料金が発生します。
リソース設定と料金の関係(重要)
Lambdaはメモリ設定と実行時間で課金が決まります。メモリを増やすと処理速度が上がることが多く、結果として総GB-秒が下がる場合もありますが、設定次第で無料枠を超えやすくなります。例:メモリ512MBで実行時間0.3秒なら1回あたり0.15 GB-秒です。これを100万回実行すると約150,000 GB-秒になり、無料枠の上限と比較して把握が必要です。
同時実行数とスロットリング
アカウントやリージョンには同時実行数の上限があります。急に呼び出しが増えるとスロットリング(拒否)が発生し、機能障害につながることがあります。必要ならばリザーブドやプロビジョンドを検討してください。
運用上の対策
- モニタリングとアラート:BillingアラートやCloudWatchメトリクスで早めに検知します。
- ログ削減:詳細ログは抑え、必要時のみ出力・短期保存にする。
- データ転送の最適化:同一リージョン内のサービス利用やデータ圧縮を検討する。
- コスト見積もりを行う:トラフィックパターンごとに試算し、無料枠を超えた場合の影響を把握する。
以上が主な注意点と制限事項です。適切な設計と監視で無駄な課金を抑えられます。
2025年7月の無料利用枠大幅改革
背景と概要
2025年7月15日にAWSの無料利用枠が大幅に改革され、従来の「12ヶ月無料利用枠」から新しい無料プランへ移行しました。現在は「常に無料枠」「旧無料枠(従来の12ヶ月)」「新無料枠」の3つに分類されます。
各カテゴリの位置づけ
- 常に無料枠:常時提供される無償のサービス枠です。今後も継続して利用できます。
- 旧無料枠:これまでの新規アカウント向け12ヶ月の枠を指します。名称のとおり従来の仕組みです。
- 新無料枠:2025年7月15日以降に適用される新しい無料プランです。適用条件や対象サービスが旧枠と異なる場合があります。
ユーザーへの影響
変更により、どの枠が自分のアカウントに適用されるかを確認する必要があります。特に新規利用者は、新無料枠の適用範囲を事前にチェックしてください。既存利用者も、サービス利用の継続性や課金条件に差が出るかを確認すると安心です。
実務的な対応ポイント
- AWSコンソールの「請求とコスト管理」や「無料利用枠」ページで現状の枠を確認してください。
- 重要なワークロードは一度テストし、無料枠の超過がないか監視アラートを設定しましょう。
- インフラをコード化している場合は、無料枠の変更に合わせてしきい値や自動スケール設定を見直してください。
簡単な例
テスト用の小さなLambda関数やストレージは、旧枠では問題なかったものが新枠では上限が違うことがあります。まずは対象サービスごとにどの枠が適用されるか確認し、必要なら利用量を調整してください。
新規ユーザー向けの新無料プランの詳細
概要
新無料プランは新規アカウント向けに設計された特別枠です。期間は最大6ヶ月、合計で最大200ドル相当のAWSクレジットが利用できます。サインアップ時にまず100ドル相当が付与され、指定された簡単なアクティビティを完了するとさらに100ドル相当が追加されます。
クレジットの使い方(イメージ)
クレジットはAWSの複数サービスに適用できます。たとえばLambdaで短時間の関数を多数試す、S3に少量のデータを置く、EC2で小さなインスタンスを短期間動かす、といった使い方が考えられます。クレジットは実際の請求に対して充当されます。
期限とアカウントの扱い
クレジットの有効期間は最大6ヶ月で、期間終了またはクレジット消費時点で無料枠が終了し、アカウントは通常の請求に移行するか閉鎖されます。事前に通知が来る仕組みが一般的なので、利用状況は定期的に確認してください。
実務上の注意点
- クレジット残高は請求ダッシュボードで確認します。予算アラートを設定して超過を防いでください。
- テスト時は小さなリソース単位で試し、不要なリソースはすぐ停止・削除します。
- クレジットが切れる前に重要データのバックアップや料金プランへの切替を計画してください。
このプランは新しい試作や学習にとても有用です。クレジットを賢く使って、実際の運用での費用や挙動を事前に把握することをおすすめします。
常に無料枠と新無料枠の比較
概要
常に無料枠は無期限で利用でき、Lambdaの月間100万リクエストやDynamoDBの25GB、CloudWatchの基本機能などが対象です。新無料枠は6カ月間または付与クレジットが尽きるまでの期間限定で、短期間にまとまった利用を想定します。
主な違い(具体例で説明)
- 利用期間:常に無料枠は無期限、例)小規模APIなら月100万リクエストまで安心です。新無料枠は6カ月やクレジット上限までで、短期プロトタイプに向きます。
- 適用範囲:常に無料枠は日常的な軽負荷に最適。新無料枠は新規ユーザーへ広くリソースを試用させるため、短期で高負荷の試験に役立ちます。
- リスク:常に無料枠は継続利用の安心感があります。新無料枠はクレジット消費後に利用制限やアカウント問題が発生する可能性があります。
選び方の目安
- 長期運用や本番近くのサービスは常に無料枠を前提に設計してください。例)ログ保持や低頻度のAPI。
- 6カ月以内のPoCや負荷試験は新無料枠で短期集中して試してください。
運用上の注意点
- 監視と予算アラートを必ず設定し、クレジット残高や利用状況を確認してください。
- リソースにタグを付けて追跡し、必要なら自動停止やスロットルを設定します。
こうした違いを踏まえ、目的と期間に合わせてどちらを使うか判断してください。
Lambda以外の主要AWSサービスの無料枠
AWSの無料利用枠はLambda以外にも複数のサービスで用意されています。ここでは常に無料で使えるものと、新しい無料枠で利用可能になる主要サービスをわかりやすく紹介します。
常に無料のサービス
- DynamoDB:小規模な開発やテスト用途での簡単なキー・バリュー型データ保存に向きます。例えば、ユーザーの設定やセッション情報などを保存するのに便利です。
- CloudWatch:基本的なメトリクスやログの収集で利用できます。アプリの稼働状況を把握する簡単な監視に役立ちます。
- Glue Data Catalog:データカタログとしてメタデータ管理を行えます。ETLの前処理でメタ情報だけ管理したい場合に有用です。
新しい無料枠で利用できる主なサービス
- EC2(t3.micro / t4g.micro):軽量なウェブサーバーや開発環境に向きます。小規模サイトやCI環境の試験運用に適しています。
- RDS(MySQL / PostgreSQL / MariaDB / SQL Server):リレーショナルデータベースを手軽に試せます。小規模アプリや開発用途での利用を想定しています。高性能なインスタンスは対象外です。
利用時の注意点
- ストレージやネットワーク、追加のオプション(例:ライセンスやバックアップ)は無料枠対象外になる場合があります。運用前に請求ダッシュボードで想定コストを確認してください。
- 無料枠は設計の参考になりますが、本番負荷や高性能要件には向きません。必要に応じてリソースを拡張する計画を立ててください。
身近な例として、開発中のウェブアプリをEC2とRDSで動かし、CloudWatchで監視、DynamoDBやGlue Data Catalogで補助的なデータ管理をする構成が考えられます。これらを組み合わせると、低コストで検証環境を整えやすくなります。
フルスタック開発での無料枠活用
概要
LambdaとAPI Gateway、DynamoDBを組み合わせれば、フロントからバックエンドまで無料枠内で完結するアプリが作れます。静的サイトをS3に置き、APIはLambda+API Gateway、データはDynamoDBで扱う構成が基本です。
推奨アーキテクチャ(例)
- フロントエンド: S3ホスティング(静的ファイル)
- API: API Gateway → Lambda(短時間実行、低メモリ設定)
- データ: DynamoDB(オンデマンド読み書き)
- 認証(必要なら): Amazon Cognito無料枠を利用
実装ポイント
- Lambdaはメモリを最小限にして実行時間を短く保ちます。起動時間を短縮するために依存を小さくします。
- APIは一つの関数で複数エンドポイントを処理すると無料枠の呼び出し数を抑えられます。
- DynamoDBは一回の操作で必要な項目をまとめて読み書きします。
コスト最適化の具体策
- テストはローカルやステージングで行い、本番リクエストを節約します。
- ログ出力を最小にしてCloudWatchの料金を抑えます。
- リソースは自動削除・短命インフラにして不要な請求を防ぎます。
運用時の注意
無料枠は上限を超えると課金が発生します。利用状況はCloudWatchや請求アラートで監視してください。小規模アプリなら月額5ドル未満で収まることが多いですが、負荷増加時は設計見直しが必要です。
無料枠設計時の重要な考慮点
設計を俯瞰する理由
無料枠はサービス単体ではなく、連携する全体で費用影響が出ます。たとえばLambdaは無料でも、ログを保存するS3やCloudWatchのデータ転送で課金が発生することがあります。最初に全体図を描き、無料対象と有料発生箇所を洗い出します。
無料枠対象と対象外の確認方法
各サービスの無料枠は条件が異なります。実例として、Lambdaの実行回数は無料でも、外部API呼び出しやファイル転送は無料枠対象外です。料金ページを読み、メトリクス(リクエスト数、データ転送量、ストレージ量)ごとに確認してください。
サービス連携で陥りやすい落とし穴
- 自動で作られるリソースに注意:VPC接続でENIが作成されると課金対象になります。
- ログ肥大化:詳細ログを無制限に保存するとストレージ費用が増えます。例としてCloudWatch Logsの保持期間を短く設定します。
リセラー契約・データ転送の注意
リセラー経由やエッジ配信では、CloudFrontや転送量に別途料金がかかる場合があります。国内外への転送やS3間コピーなど、帯域に関わる処理は事前に見積もってください。
運用と監視のポイント
無料枠を超える前にアラートを設定します。コストアラート、ログのサンプリング、利用頻度の低い機能の停止を定期的に行うと安全です。
設計チェックリスト(簡易)
- 全サービスの無料枠条件を洗い出す
- データ転送の発生箇所を特定する
- 自動作成リソースの有無を確認する
- ログ保持とサンプリング方針を決める
- アラートと定期レビューを設定する
以上を踏まえて設計すれば、無料枠の恩恵を最大化しつつ意図しない課金を防げます。












