はじめに
本書の目的
本ドキュメントは、ジュエリー制作におけるワックス技法、特にロストワックス製法を分かりやすくまとめた入門書です。初めての方でも制作の流れと注意点を理解できるよう、写真や具体例を交えて解説します。
誰に向くか
趣味で指輪や小物を作りたい方、工房での基礎を学びたい方、職人を目指す学生まで広く役立ちます。工具や材料の基本知識があれば読み進めやすいです。
本書で学べること
- ロストワックス製法の全体像(なぜこの方法が使われるか)
- ワックス加工の基本技法(削る、整える、接着するなど)
- 指輪ワックス原型の具体的な手順(設計から仕上げまで)
注意点と準備
制作は細かい作業が多く、切削や加熱など危険を伴います。換気・保護具を整え、工具の使い方を確認してから始めてください。安全第一で進めます。
ロストワックス製法とは
定義と名前の由来
ロストワックス製法は、ワックス(蝋)で原型を作り、それを鋳型に置き換えて金属にする技法です。工程の途中でワックスが溶けて失われることから「ロスト(消失)」と呼ばれます。ジュエリー制作で広く使われる伝統的な方法です。
おおまかな流れ
- ワックスで原型を成形します。細かな彫りや石座などをワックスで作ります。
- 原型を耐火性の素材で囲って鋳型を作ります(埋没)。
- 加熱してワックスを溶かし出し、空洞に金属を流し込みます。
- 鋳造後に余分を切り落とし、磨いて仕上げます。
特徴と利点
- ワックスの形どおりに金属が再現されるため、細部の表現が得意です。複雑な模様や中空構造も可能です。少量生産やオリジナル作品に向いています。
注意点
ワックスの表面や厚み、接合部の処理が仕上がりに直結します。気泡や収縮を防ぐための配慮が必要です。精密に作らないと後工程での手直しが増えます。
主な用途
指輪やペンダントなどのジュエリーのほか、小さな彫刻や工芸品の鋳造にも使われます。
ロストワックス製法の全工程
ステップ1:ワックス原型の制作
まずワックスで原型を作ります。ワックスは柔らかく切ったり削ったりできます。指輪なら幅の印をマジックで付け、ノコギリで線の内側をまっすぐ切ります。細部はヤスリやカービングツールで整えます。
ステップ2:湯道(スプルー)の取付け
金属が流れる道として湯道を取り付けます。太めのワックス棒を湯道にして、原型が確実に固定される向きで接続します。重心や流れを意識すると良いです。
ステップ3:石膏で固める(埋没)
フラスコに入れて埋没材(石膏)を流します。気泡が入ると欠陥になりますから、振動テーブルで振動させるか真空で脱泡します。
ステップ4:ワックスの溶解
石膏を炉で温め、ワックスを溶かして型内の空洞を作ります。ワックスが完全に抜けるよう温度管理に注意します。
ステップ5:金属の流し込み
空洞に溶けた金属を注ぎます。金属は十分に熱して流れやすくします。湯道の位置で気泡の入りやすさが変わるので注意します。
ステップ6:金属の取り出し
石膏を割って金属を取り出します。石膏破壊後は湯道を切り、余分な部分を整えます。
ステップ7:仕上げ・研磨
湯道切除、ロウ付け、荒仕上げ、耐水ペーパーや研磨剤で磨きます。最後にバフで光沢を出し、マット仕上げも選べます。磨きで表情が決まります。
ワックス加工の基本技法
はじめに
ワックス加工は指輪原型づくりで最も触れる部分です。ここでは硬いワックス(リングワックス等)と柔らかいワックスそれぞれの基本技法を、具体例を交えてわかりやすく説明します。
硬いワックスの基本技法
- 鋸引き
ワックスソーで余分な部分を切り落とします。切断面は粗くなるので、次にヤスリで整えます。細い曲線はゆっくり動かすと破損を防げます。 - ヤスリ掛け
粗い番手から順に掛けて形を整えます。バリは斜めに当てると取りやすく、指輪幅は定規で確認すると正確です。 - 彫刻・削り
彫刻刀やリューターで模様や段差を作ります。力を入れ過ぎず、少しずつ削ると失敗が少ないです。細部はルーペで確認します。 - 研磨
最後に紙やすり→コンパウンドで滑らかにします。鏡面にするかマットにするかで手順を分けて進めます。
柔らかいワックスの基本技法
- カットとトリミング
ハサミやナイフで切って形を整えます。刃はよく切れるものを使うと切り口がきれいになります。 - ロールとこねる
麺棒やローラーで厚さを均一にします。手にくっつく場合はタルカム(滑り粉)や微量のパウダーを使います。 - エンボス加工
型やスタンプで模様を転写します。軽く押して確認し、必要に応じて周囲を整えます。
仕上げと注意点
道具は清潔に保ち、小まめに確認しながら作業してください。熱や強い力で変形するため、力加減と温度管理に気をつけると良い結果が出ます。
指輪ワックス原型制作の具体的なステップ
STEP1:幅の印をつける
指輪の幅を定規で測り、ワックスに軽く印をつけます。印は薄く、後で削れる余地を残すと失敗が少ないです。
STEP2:印に沿ってカットする
印の外側を目安にまっすぐ切ります。線の内側に入らないよう、ワックスをしっかり固定して切ると精度が上がります。
STEP3:リーマーで内径を整える
ドリルやリーマーで内径を削ります。少しずつ削り、指に合うサイズで確認しながら進めます。
STEP4:厚みのマーキング
コンパスや丸いテンプレートで内側に線を引き、ワックスを回して均一な線をつけます。厚みは複数回測り、バランスを確認します。
STEP5:糸ノコで細部を切る
糸ノコで余分な部分を切り落とします。刃をゆっくり動かし、焦らずにカーブや角を丁寧に切ります。
STEP6:ヤスリで厚みを整える
粗めから細かめの順にヤスリを使い、厚みを均一にします。横方向に動かして断面を平らに整えます。
STEP7:幅を均一に仕上げる
最後に幅を全周で確認し、細かい凹凸をフィニッシュヤスリでならします。鏡面仕上げは金属に鋳造後に行うため、ワックスでは形と寸法に注意します。
ポイント:作業は少しずつ進め、こまめにサイズや左右対称を確認します。手を固定して作業すると精度が上がります。












