はじめに
概要
本ドキュメントは「Web通信」についてやさしく解説する入門書です。Webがどのように動くかを、HTTP通信の定義や通信の流れ、関連技術(WebサーバーやDNSなど)を含めて順を追って説明します。初心者から中級者の方が、全体像をつかめるようにまとめました。
目的
読者が日常で目にするWebページやアプリが、どのようにデータをやり取りしているかを理解できることを目指します。基礎を押さえることで、トラブル時の切り分けや学習の次のステップが取りやすくなります。
対象読者
・プログラミングを始めたばかりの方
・Webサービスの仕組みを知りたい非エンジニアの方
・基礎を復習したい中級者の方
本書の構成と読み方
章は段階的に学べるように並べています。まず全体像をつかみ、その後でHTTPの詳しい仕組みや重要な特徴、メソッドやステータスコード、サーバーやDNSの役割へ進みます。例や図でイメージしやすく説明しますので、実際の画面やブラウザの開発者ツールを触りながら読むと理解が深まります。
学び方のコツ
用語は必要最小限に留め、具体例で補足しています。まずは流れをつかみ、疑問が出たら該当章を読み返してください。
Web通信とは何か
簡単な定義
Web通信とは、WebブラウザとWebサーバーが決められたルールに従って情報をやり取りすることです。代表的なルールがHTTP(Hypertext Transfer Protocol)です。テキストや画像、動画などのデータを送受信して、私たちがWebページを見られるようにします。
主な要素
- Webブラウザ:ChromeやSafariのように、ページを表示するソフトです。ユーザーの操作を受けて通信を開始します。
- Webサーバー:Webページや画像などのデータを保管し、ブラウザからの要求に応じて返します。
- リクエストとレスポンス:ブラウザが要求(リクエスト)を送り、サーバーが応答(レスポンス)を返します。
- URL:どの情報を要求するかを示す住所のようなものです。
具体的な流れ(簡単な例)
- ブラウザでURLを入力する。
- ブラウザがそのURLに対してリクエストを送る。
- サーバーがリクエストを受け取り、該当するデータを返す。
- ブラウザが受け取ったデータを画面に表示する。
身近な具体例
- ニュース記事を読むとき:記事のHTMLがサーバーから送られて表示されます。
- 画像を見るとき:画像ファイルが別のリクエストで取得されます。
- フォーム送信:ユーザーの入力をサーバーに送り、結果が返ります。
よくある誤解
「インターネットとWebは同じ」と思われがちですが、インターネットは世界中の多くの機器をつなぐ巨大なネットワークで、Webはその上で動くサービスの一つです。Web通信はそのサービスを成り立たせる具体的なやり取りを指します。
この章では、まずWeb通信の全体像を掴むことを目標にしています。次章ではインターネットとWebの関係をもう少し詳しく見ていきます。
第3章: インターネットとWebの関係性
インターネットとは
インターネットは情報を送り届けるための土台です。通信はデータを小さなパケットに分けて送ります。パケットは運搬票つきの荷物のように宛先を持ち、届いた先で元のデータに戻ります。主にTCP/IPという約束事(プロトコル)で動きます。
Webはその上にある仕組み
Webはインターネットの上で動く情報のやり取りの方法です。Webページや画像はHTTPというルールでやり取りします。例えると、インターネットが道路網で、Webは道路を使うバスや郵便のサービスです。
実際のやり取りの流れ
ブラウザがリクエストを送ると、データはパケットに分かれインターネットを通ります。目的地のサーバーで組み立てられ、応答が同じように返ってきます。この流れでWebページが表示されます。
なぜ分かれているのか
役割を分けると設計や改良が楽になります。土台を変えずにWebの機能だけ改良でき、別のサービス(メールや音声)も同じ土台で動きます。これが柔軟で拡張しやすい理由です。
HTTP通信の仕組み
概要
Webサイトを見るとき、ブラウザ(クライアント)とWebサーバーがやり取りします。クライアントがURLを入力すると、Webページを要求するHTTPリクエストが送られます。サーバーはそのリクエストに応えてデータを返します。
クライアントとサーバーの役割
クライアントは表示したいページを指定してリクエストを送ります。サーバーは受け取ったリクエストを処理し、必要なファイルやデータを用意して応答を返します。例えると、レストランで注文を出して料理が届く流れに似ています。
URLとリクエストの流れ
URLは目的地を示す住所のようなものです。ブラウザはその住所へHTTPリクエストを送ります。リクエストにはどのページが欲しいかや、画像やCSSも含めて要求が書かれます。
動的ページの処理
ページが動的(利用者ごとに変わる)場合、Webサーバーはデータベースに問い合わせて情報を取得します。例えば商品ページなら在庫や価格をデータベースから取り出してHTMLを作成します。
サーバーからの応答とステータス
サーバーは処理結果と一緒に応答を返します。正常なら「200 OK」のようなステータスメッセージを付け、HTMLや画像などのデータを送ります。ファイルは小さなデータのかたまり(パケット)に分けて送られ、受け取ったブラウザが組み立てます。
ブラウザでのレンダリング
ブラウザは受け取ったHTMLを解析し、画像やスタイルシートを追加で要求してページを描画します。ユーザーは最終的に画面でコンテンツを確認できます。
HTTP通信の重要な特徴
1. リクエストとレスポンスの独立性(ステートレス)
HTTPは各やり取りを独立したリクエストとレスポンスで処理します。たとえば、ページ内の画像や文章はそれぞれ別のリクエストで取りに行きます。サーバーは基本的に前後のやり取りの状態を保持しません。
2. 状態の扱い:クッキーとセッション
状態が必要なときは、ブラウザ側のクッキーやサーバー側のセッションを使います。ログインの例では、サーバーが発行したトークンをクッキーに入れておき、次のリクエストで本人を確認します。
3. 接続の効率化:持続接続と同時送信
TCP接続を使い回す「持続接続(Keep-Alive)」で手間を減らします。新しい接続を作るより応答が速くなります。HTTP/2やHTTP/3は同じ接続で複数のデータを同時に送れるため、さらに効率が上がります。
4. 高速化の工夫:キャッシュと圧縮
ブラウザやCDNがデータを一時保存するキャッシュで、同じデータを何度も取りに行く必要が減ります。さらにサーバー側で圧縮(例:gzip)すると転送データ量が小さくなり表示が速くなります。
5. コンテンツの識別:MIMEタイプと文字コード
レスポンスにはContent-Typeが付いており、例としてtext/htmlやimage/pngを指定します。文字化けを防ぐために文字コード(UTF-8など)も指定します。これでブラウザが正しく表示できます。
HTTPメソッド
HTTPメソッドとは
HTTPメソッドは、クライアントがサーバー上のリソースに対してどんな操作をしたいかを示す指示です。例えば「取得したい」「作りたい」「更新したい」といった意図を表します。通信の約束ごとの一つで、適切に使うとやり取りが分かりやすくなります。
主なメソッドと使い方
- GET:リソースを取得します。副作用を起こさない「読み取り」用です。例)記事を表示する。
- POST:新しいリソースを作成したり、処理を実行したりします。通常は非冪等です。例)フォーム送信で投稿を作る。
- PUT:リソース全体を置き換えます。同じリクエストを繰り返しても結果は同じ(冪等)です。例)ユーザー情報を丸ごと更新する。
- PATCH:リソースの一部を更新します。部分更新に使います。
- DELETE:リソースを削除します。冪等と考えられます(何度呼んでも同じ状態)。
- HEAD:GETと同じヘッダーだけを取得します。本文は不要なときに使います。
- OPTIONS:サーバーがサポートするメソッドを問い合わせます。
安全性と冪等性
GETやHEADは安全(副作用がない)と見なされます。PUTやDELETEは冪等であるため、失敗時の再試行に向きます。POSTは一般に非冪等なので注意が必要です。
実務でのポイント
- 作成はPOST、全体更新はPUT、部分更新はPATCHを基本とします。
- GETに副作用を入れないこと。キャッシュが効く場面が増えます。
- 認証や入力検証を必ず行い、不正な操作を防いでください。
HTTPステータスコード
HTTPステータスコードは、HTTPリクエストの結果を表す3桁の数字です。ブラウザやサーバーはこの数字で通信の状態を伝えます。よく見る例は「200 OK」で、リクエストが正常に処理されたことを意味します。
ステータスコードの分類(簡単な目安)
- 1xx: 情報。処理中であることを示します。日常ではあまり見ません。
- 2xx: 成功。リクエストが期待通り処理されました(例: 200、201)。
- 3xx: リダイレクト。別の場所へ移動するよう指示します(例: 301、302)。
- 4xx: クライアント側の問題。URL間違いや認証不足で発生します(例: 400、401、403、404)。
- 5xx: サーバー側の問題。サーバー内部でエラーが起きています(例: 500、502)。
よく見るコードと具体的な意味
- 200 OK: ページやデータが正常に返りました。普段はこれです。
- 301 Moved Permanently: 恒久的に別のURLへ移動しました。ブックマークの更新が必要です。
- 302 Found: 一時的に別のURLへ移動しています。ブラウザは自動で移動します。
- 404 Not Found: 指定されたリソースが見つかりません。URLの入力ミスやファイル削除が原因です。
- 403 Forbidden: 権限がなくアクセスできません。ログインや権限確認が必要です。
- 500 Internal Server Error: サーバー側の問題で処理できません。時間を置いて再試行するか管理者へ連絡します。
状況の確認方法と対応の流れ
ブラウザの開発者ツールのネットワークタブでステータスを確認します。404や403ならURLや認証を見直します。500系なら時間をおいて再試行し、頻発する場合はサイト管理者に状況を伝えます。リダイレクトが意図しない場合は、転送先のURL確認やキャッシュのクリアを試してください。
Webサーバーの役割
概要
Webサーバーは、ブラウザなどのクライアントからのHTTPリクエストを受け取り、対応するコンテンツを返します。HTMLや画像、CSS、JavaScriptなどの静的ファイルを配信するのが基本の役割です。必要に応じてアプリケーションサーバーと連携し、動的な処理結果を返します。
主な機能
- リクエスト受信とレスポンス送信:クライアントの要求に対して適切なファイルやエラーコードを返します。
- ファイルの配信:効率的に静的コンテンツを配ります。キャッシュ制御で負荷を下げます。
- 接続管理:同時接続をさばいて応答性能を保ちます。
静的コンテンツと動的コンテンツの扱い
静的なファイルはWebサーバーが直接返します。動的な処理が必要な場合は、Webサーバーがアプリケーションサーバー(例:PHP、Node.js、Pythonのフレームワーク)へリクエストを渡し、生成されたHTMLなどを受け取って返します。
セキュリティと設定
TLS(HTTPS)を使って通信を暗号化します。アクセス制御やログ記録、リクエストの制限を設定して不正アクセスや負荷を防ぎます。設定ミスは情報漏えいにつながるので注意が必要です。
実際の運用での役割
負荷分散やキャッシュ、監視といった仕組みと組み合わせて安定的にコンテンツを配信します。小規模サイトでは単独のWebサーバーで十分ですが、アクセスが増えれば複数台で分散します。
DNSの役割
DNSとは
DNSはドメイン名(例:www.example.com)を、コンピュータが使うIPアドレスに変換する仕組みです。人間にとって覚えやすい名前を、機械が理解できる番号に結び付けます。
なぜ必要か(身近な例)
電話帳の名前で相手を探すイメージです。住所ではなく「山田太郎さん」と呼べば通話できるように、ドメイン名でウェブサイトにアクセスできます。
動作の流れ(簡単に)
- ブラウザがドメイン名を問い合わせます。
- DNSサーバーが対応するIPアドレスを返します。
- ブラウザはそのIPに接続してページを取得します。
キャッシュとTTL
DNSは応答を一定時間保存(キャッシュ)します。TTLという時間で有効期限を管理します。変更直後に古い場所へ誘導されるのは、キャッシュが残っているためです。
セキュリティと信頼性の注意点
DNSの情報が改ざんされると偽のサイトへ誘導されます。信頼できるDNSや暗号化技術(例:DNS over HTTPS)を使うと安全性が高まります。
日常での影響
サイトが突然見えなくなる、移転後に古い場所が表示される、といった問題はDNSに起因することが多いです。必要に応じてDNS設定を確認したり、公開DNSを試したりすると解決の手がかりになります。
まとめ:Web通信の全体像
概要
Web通信は、TCP/IPという土台の上でHTTPなどのルールが動き、ブラウザ(クライアント)とサーバーがやり取りします。ユーザーがURLを入力すると、まずDNSがドメイン名をIPアドレスに変換します。次にブラウザがサーバーにHTTPリクエストを送り、サーバーがレスポンスを返します。
主な要素と役割
- TCP/IP:データを確実に届ける道筋を作ります。例えると道路網です。
- DNS:名前(example.com)を住所(IP)に変えます。電話帳のような役目をします。
- HTTP:やり取りの約束事です。請求(リクエスト)と返事(レスポンス)を規定します。
- Webサーバー:要求に応じてページやデータを返します。倉庫のように商品を渡す役割です。
日常の流れ(簡単な例)
- ブラウザがDNSに問い合わせ、IPを取得します。
- ブラウザがサーバーへHTTPリクエストを送ります。
- サーバーがHTMLや画像を返し、ブラウザが表示します。
覚えておきたいポイント
- 名前(ドメイン)と住所(IP)は別物です。
- HTTPはリクエスト・レスポンスの約束です。
- セキュリティ(TLS)やキャッシュが体験の速さと安全を左右します。
この流れを押さえると、Webで何が起きているかが見えやすくなります。












