はじめに
本調査は「AWS 運用」に関する検索キーワードの分析結果と、実務で役立つ運用の考え方や具体的な対応方法をまとめたものです。本書は、クラウド環境で安定してサービスを提供したい方、運用を見直したい方、外部委託を検討している方を主な対象としています。
本章では、調査の目的と本書の構成、読んで得られることを簡潔に説明します。以降の章では、まずAWS運用の基本的な定義や押さえておきたいポイントをわかりやすく解説し、その後で日常的な運用業務の分類、設計の指針、自動化・可視化の手法、効率化や外部委託の選び方まで順に取り上げます。
なぜAWS運用が重要か
– クラウドでは設定や仕組みがそのまま運用に直結します。たとえばバックアップ設定の有無で障害対応の難しさが変わります。
– 適切な運用はコスト管理やセキュリティ対策にも直結します。無駄なリソースや設定ミスを放置すると費用やリスクが増えます。
本書を読むことで得られること
– AWS運用の全体像がつかめます。具体的な日常作業と優先順位がわかります。
– 自動化や可視化の方向性がわかります。どこから手を付ければ効果が出るかイメージできます。
– 外部委託のメリットと判断基準を理解できます。
以降の章は順を追って実践的に使える知識を提供します。まずは全体像を把握して、必要な箇所から取り組んでいきましょう。
AWS運用の定義と基本概念
AWS運用とは
AWS運用とは、クラウド上のシステムを安定して動かすための管理・保守・最適化のことです。日々の状態を監視し、障害対応や性能・コストの改善を行います。身近な例でいうと、電気や設備を点検してビルを快適に保つような仕事です。
主な役割と具体的な作業
- 監視とアラート設定
- サーバーの負荷やサービスの応答時間を監視します。例えばCPU使用率が長時間高いときに通知を出し、原因調査を始めます。
- OS・アプリの管理
- 定期的にソフトウェアの更新やセキュリティパッチを適用します。ログを確認して異常を早く見つける運用が重要です。
- リソース調整とコスト管理
- 利用状況に合わせてサーバーの数や性能を調整します。無駄なリソースを減らすことで費用を抑えます。予約や割引の活用も含みます。
- セキュリティ管理
- アクセス権を最小限にし、認証や暗号化を整えます。定期的なバックアップと復旧手順の確認も行います。
運用組織と役割分担
運用は一人で全部を担うことは少なく、役割を分けて進めます。日常の監視を担当するオペレーター、改善や自動化を進めるエンジニア、運用方針を決めるマネージャーなどが連携します。
なぜ重要か
クラウドは柔軟ですが放置するとコスト増や障害につながります。定期的な観察と調整を続けることで、安定性と効率を両立できます。
AWS運用の主要な3つの業務領域
1. 稼働状況の監視
稼働監視は障害の早期発見とサービス品質維持の基盤です。Amazon CloudWatchでCPU・メモリ・ディスク・ネットワークやアプリログを収集し、閾値を設定してアラートを発報します。例:Webサーバーの応答時間が5秒を超えたら通知する。アラートはチケット発行やSlack通知に連携し、担当者がすぐ対応できる運用フローを作ります。
2. OSやアプリケーションのバージョン管理
セキュリティ向上と安定稼働のために定期的なパッチ適用が必要です。AWS Systems ManagerのPatch ManagerでOSの脆弱性修正を自動化し、Automationで複数インスタンスに同じ手順を適用します。実運用では、まずステージング環境で検証し、問題なければ本番に展開する手順(メンテナンスウィンドウ)を定めます。例:月一回のセキュリティパッチ、四半期ごとの機能アップデート確認。
3. 定期的なリソースの調整と最適化
リソースの棚卸しで使われていないインスタンスや未使用のストレージを削除します。定期的にメトリクスを見てサイズを見直し、必要に応じてスケールアップ/ダウンを実行します。費用対効果を高めるために、長期利用が確実なリソースはReserved InstancesやSavings Plansを検討します。具体例:アクセスが少ない時間帯はAuto Scalingで台数を削減する、1年以上稼働するDBインスタンスは割引プランを契約する。
各領域でのポイントは「自動化」と「手順書の整備」です。監視とパッチ、最適化のルールを明確にし、担当者が迷わず対応できる状態にします。
AWS Well-Architectedフレームワークに基づく運用設計
概要
AWS Well-Architectedの6つの柱(運用上の優秀性、セキュリティ、信頼性、パフォーマンス効率、コスト最適化、持続可能性)を軸に運用設計を行います。各柱が重なり合うことで、安全で効率的、かつコスト意識の高い運用が実現します。
6つの柱と運用設計
- 運用上の優秀性:運用手順を定義し、定期的に見直します。例:障害対応手順や運用ランブックの整備。自動化(定期バックアップ、リソースのライフサイクル管理)で人的ミスを減らします。
- セキュリティ:アクセス権限の最小化と監査ログの収集を行います。例:ID管理、ログ保管、脆弱性の定期スキャン。
- 信頼性:冗長化と復旧計画を用意します。例:自動フェイルオーバー、バックアップからの復旧手順。
- パフォーマンス効率:負荷に応じたスケール設計と監視で効率を保ちます。例:自動スケールや性能監視アラート。
- コスト最適化:使用状況の可視化と無駄削減。例:未使用リソースの削除や割引プランの活用。
- 持続可能性:電力やリソース消費を意識した設計。使わない時間帯の停止などで資源を節約します。
具体例:運用設計の実践
運用設計は文書化と自動化を両輪で進めます。まずチェックリストを作り、監視アラートや定期ジョブで実行する仕組みを用意します。例えば、夜間の不要インスタンス停止をスクリプト化し、コストと環境負荷を同時に削減します。
評価と改善の流れ
定期的に各柱に対する評価を実施し、発見事項を改善計画に落とし込みます。小さな改善を繰り返すことで運用の成熟度が上がります。したがって、評価と改善を運用の標準プロセスに組み込みます。
運用管理の自動化と可視化
概要
AWS Systems Manager(以降 SSM)は、仮想サーバやインスタンスの状態を一元で見える化し、日常的な運用作業を自動化します。代表的な機能を使えば、SSHポートを開けずに接続したり、複数台へ同時に操作を実行したりできます。
主な機能と具体例
- Session Manager: SSHやRDPポートを開放せずにEC2へ接続できます。例えば、管理者はブラウザやCLIから安全にログインし、接続ログをCloudWatchへ記録します。
- Run Command: 複数インスタンスへ同時にコマンドを配布できます。例:ソフトウェアのインストールや設定反映を一括で実行します。
- Automation: 定型作業を手順化して自動実行します。例:定期パッチ適用、バックアップ停止・再開、構成変更の適用などです。
- Inventory / State Manager / Patch Manager: インスタンス情報の収集、望ましい状態の維持、脆弱性修正の適用を支援します。
- Parameter Store と Secrets Manager: パスワードや設定値を安全に保存し、スクリプトから参照できます。
実務での進め方(手順例)
- SSMエージェントを有効化し、インスタンスに適切なIAMロールを付与します。
- 少数台でSession Manager接続やRun Commandを試験運用して動作確認します。
- Automationで手順書(Document)を作成し、タグで対象を絞って段階的に展開します。
- ログをCloudWatchやS3に集約し、監査や障害解析に備えます。
注意点
- IAMは最小権限で設計してください。必要な操作だけ許可することが重要です。
- SSMエージェントのバージョン管理とネットワーク要件を確認してください。
- ログの保存先や保持期間を決め、運用ルールを整備してください。
可視化との組合せ
SSMのダッシュボードやExplorer、CloudWatchダッシュボードを組み合わせると、インスタンスの稼働状況や自動化実行の結果を分かりやすく可視化できます。運用チームはまず小さな自動化から始め、段階的に範囲を広げることをおすすめします。
運用効率化と外部委託の選択肢
なぜ効率化が重要か
AWSの運用は監視、コスト管理、パッチ適用、セキュリティ対応など業務が多岐にわたります。手作業が多いとミスや遅延が発生しやすく、サービス品質に影響します。効率化は安定性とコスト削減に直結します。
自社でできる効率化の手段
- 自動化:定期作業はスクリプトやワークフローで自動化します。例:定期バックアップやインスタンス停止の自動化。
- 可視化:メトリクスやログをダッシュボードにまとめ、異常を早期発見します。例:CPUやネットワークの閾値アラート。
- 標準化:手順書やテンプレートで作業を統一し人的ミスを減らします。
外部委託を検討する場面
- 人手や専門知識が不足しているとき
- 24時間監視や緊急対応が必要なとき
- コスト最適化やセキュリティ強化を短期間で実現したいとき
委託先の選び方と契約のポイント
- 実績と専門領域を確認します(例:運用保守、セキュリティ、コスト最適化)。
- サービス範囲とSLAを明確にします(対応時間、復旧目標など)。
- コミュニケーション方法と報告頻度を決めます。
- 秘匿情報やアクセス権限の管理方法を契約で定めます。
最後に
自社で効率化を進められる部分は優先して自動化し、残る負荷や専門性の高い領域を外部に委託するハイブリッド運用が現実的です。運用コストとリスクを見比べ、段階的に移行することをお勧めします。












