はじめに
概要
本書は、Webサーバーの基礎を初心者向けにやさしく整理したガイドです。サーバーとは何か、どんな役割を持つのか、クライアントとどのようにやり取りするのかを具体例を交えて説明します。実際のサーバー構築手順や、ドキュメントルートの重要性、学習の進め方も扱います。
本書の目的
- 基本用語を身近な例で理解すること
- 実際に手を動かして学べるよう導くこと
- サーバーサイドの学習へ自然に進めること
たとえば、あなたが自分のパソコンで「自分だけのサイト」を公開する場面を想像してください。最初はローカルで動かし、慣れたらレンタルサーバーやクラウドへ移す流れを示します。
対象読者
- 初めてサーバーに触れる方
- Web制作を始めたばかりの方
- 自分で簡単なサイトを公開したい方
専門的な背景は不要です。ソフトや用語は必要に応じて丁寧に補足します。
読み方のヒント
各章で概念の説明→具体的な手順→注意点の順に進めます。実際の操作を試すと理解が深まります。難しい用語は例に置き換えて説明しますので、わからない用語はまず読み飛ばしてから戻ると読みやすいです。
章構成の案内
第2章以降で順に学びます。まずはサーバーの役割を押さえ、その後に構築と運用、最後にサーバーサイドの位置づけを学びます。
ご不明点があれば、次の章を読み進める前に質問ください。
Webサーバーの基本概念と役割
サーバーとは
サーバーは、ネットワーク上で他の機器にサービスを提供するコンピューターです。たとえば、ホームページを表示したり、写真を保存したり、メールの送受信を仲介したりします。常に動き続けることで、他の機器がいつでも利用できる状態を保ちます。
主な役割(やさしい例付き)
- Web表示:ブラウザがページを見たいとき、サーバーがファイルを渡します。例)お店のサイトを開くと商品ページが届く。
- データ保存:写真や書類を預けておけます。例)クラウドに写真を置くと、どこからでも見られます。
- メール送受信:メールを預け、相手に届けます。例)メールボックスがサーバーです。
サーバーの種類(簡単に)
- Webサーバー:Webページを配る役。例)Apache、Nginx(専門名は補足)
- メールサーバー:送受信を管理する役
- ファイルサーバー:ファイルを共有する役
- アプリケーションサーバー:動くプログラムを提供する役
- DNSサーバー:ドメイン名をIPに変える案内役
動作のイメージ
ブラウザでURLを入力→リクエストが届く→サーバーが該当のデータを探す→返答(レスポンス)を送る。これを短時間で繰り返します。
運用のポイント
常時接続、適切なバックアップ、アクセスが集中したときの対策が大切です。負荷や安全性に注意して運用します。
クライアント・サーバモデルの理解
モデルの概要
Webは「クライアント(利用者のブラウザ)」と「サーバー(ウェブ上の提供側)」がやり取りして動きます。クライアントがページを見たいと要求すると、サーバーがその要求に応じて返答を送ります。単純に言えば、質問に対して答えを返す関係です。
リクエストとレスポンスの流れ
- ブラウザがURLを指定してサーバーにリクエストを送ります。例: ページを表示してほしい。
- サーバーはリクエストを受け取り、必要な処理を行います。静的なファイルならそのまま返します。
- 動的な場合はサーバー側のプログラムが動いて、データベースを参照しHTMLを作りレスポンスを返します。
動的コンテンツの具体例
たとえばログイン処理。ブラウザはユーザー名とパスワードを送ります。サーバーはデータベースを照会して一致すれば個別のページを作り、結果を返します。検索機能でも、入力を受けて該当データを取り出しHTMLに埋め込みます。
状態管理の考え方
HTTPは基本的に状態を持たない仕組みです。各リクエストは独立しています。そこでクッキーやセッションを使い、誰が誰かを識別して買い物かごなどを維持します。
覚えておきたいポイント
- リクエストとレスポンスの循環を意識すること
- 動的処理はサーバー側でデータ取得と組み立てを行うこと
- セキュリティや入力検証を忘れないこと
ドメインとサーバーの関係性
ドメインは「住所」
ドメインはインターネット上の住所のようなものです。たとえば「example.com」が住所にあたり、人はこの名前を使ってサイトにアクセスします。文字列を覚えやすくする役割があります。
サーバーは「家」
サーバーはホームページのファイルやデータを保管する場所です。サーバーのIPアドレスは数字の住所で、実際にデータを返すのはサーバーです。
DNSの仲介役
DNSはドメイン名をサーバーのIPに翻訳します。ドメイン登録業者で設定したAレコードやCNAMEで、どのサーバーに向けるか決まります。
よくある構成例
- 1ドメイン→1サーバー(個人サイト)
- 1ドメイン→複数サーバー(負荷分散)
- 複数ドメイン→1サーバー(共用ホスティング)
ドメインをサーバーに向ける基本手順
- ドメインを取得
- ホスティングのIPやネームサーバーを設定
- DNSの反映を待つ(数分〜48時間)
注意点
SSL証明書はドメインに紐づきます。ドメイン設定を変更したときは証明書やメール設定も見直してください。
サーバー構築の実践的なステップ
1. 準備
まず目的を決めます。静的サイトか動的サイトか、WordPressを使うかで必要なソフトが変わります。クラウドを使う場合は回線やVPCなどのネットワーク範囲も確認します。
2. HTTPサーバーを入れる
代表的な選択はApacheかNginxです。パッケージ管理でインストールし、起動・自動起動設定を行います。例:aptやyumでインストールしてサービスを有効にします。
3. ファイルをアップロードする
SFTPやscpでサーバーにファイルを送ります。公開用のディレクトリ(例:/var/www/html)に置きます。ローカルで動作確認をしてから本番へ反映すると安全です。
4. 権限と所有者の設定
公開ディレクトリの所有者とパーミッションを適切に設定します。一般的にはwww-dataなどのユーザーに所有させ、書き込み権限は必要最小限にします。
5. ドメイン取得とDNS設定
ドメインを取得し、AレコードでサーバーのIPを指します。TTLやサブドメインも忘れず設定してください。
6. PHPとデータベースの導入
動的サイトならPHPやMySQL(またはMariaDB)をインストールします。php-fpmと連携する設定を行い、動作確認をします。
7. ファイアウォールとセキュリティ
ファイアウォール(ufwやfirewalld)で必要なポートだけ許可します。SSHは鍵認証にしてパスワードを無効にすることを推奨します。
8. データベースの作成
アプリ用のデータベースと専用ユーザーを作成し、パスワードは強固なものにします。接続情報はアプリ側に安全に設定します。
9. 必要ならWordPressを入れる
WordPressを使う場合はダウンロードして設置、wp-config.phpにDB情報を入れ、ブラウザでインストールウィザードを完了させます。
10. クラウドの場合のネットワーク図作成
クラウドならサブネット、ルート、セキュリティグループを図にして可視化します。構成が分かりやすくなり、運用ミスを減らせます。
各ステップは一つずつ確かめながら進めると失敗が少なくなります。初心者はテスト環境で練習することをおすすめします。
ドキュメントルートの重要性
ドキュメントルートとは
ドキュメントルートは、Webサーバーが公開用ファイルを探す「基準フォルダ」です。たとえばApacheでは/var/www/html、Nginxでは/usr/share/nginx/htmlがよく使われます。ブラウザでURLを指定すると、サーバーはまずこのフォルダ内を探します。
役割と挙動
主な役割は公開対象の管理です。アクセスされたパスに対して、ドキュメントルートを基にファイルを返します。index.htmlがあれば自動で表示され、なければエラーやディレクトリ一覧になります。
設定例(簡易)
- Apache:
DocumentRoot "/var/www/html" - Nginx:
root /usr/share/nginx/html;
設定後はサーバーを再起動して反映します。
注意点とベストプラクティス
- 秘密情報や設定ファイルを置かない。
- ファイル権限は最小限に設定する(例: 644, ディレクトリは755)。
- ディレクトリ一覧表示を無効にする。
公開範囲の確認方法
ブラウザやcurl -I http://localhost/で応答を確認します。意図しないファイルが見える場合は、配置場所や権限、設定を見直してください。
初心者向けの学習アプローチ
全体の進め方
まずは小さな成功体験を重ねます。環境構築→基本動作の確認→ルーティングや簡単なAPI→セッション・認証という順で段階的に学ぶと理解しやすいです。
環境構築(具体例)
ローカルで始めます。WindowsやMacならXAMPPやMAMPで簡単にWebサーバーを立てられます。より実務に近づけたい場合はVirtualBoxで仮想マシンを作り、またはDockerでコンテナに慣れると良いです。
基本動作の確認
サーバーを起動してブラウザでアクセスするだけでも学びになります。静的ファイル(HTML・画像)を表示し、URLを変えて別ページが出るか確かめましょう。
ルーティングとAPI設計(やさしい例)
ルーティングはURLと処理を結び付ける仕組みです。たとえば「/users」でユーザー一覧を返し、「/users/1」で個別情報を返す、といった簡単な設計から始めます。GETとPOSTの違いも簡単なフォームで試してください。
セッション管理と認証
セッションはユーザーを識別する仕組みです。ログイン機能を作り、クッキーやトークンで状態を保つ方法を学びます。まずはシンプルなユーザー名・パスワードで実装してみましょう。
サーバーの種類と仮想化技術
オンプレミス(自分でサーバーを管理)、クラウド(外部サービス)、ハイブリッド(両方利用)の特徴を理解します。仮想マシンはOSごと複数を動かせ、コンテナ(Docker)は軽量で環境差を減らせます。
学習のコツと練習法
短い課題を繰り返すことが近道です。小さなWebアプリを作り、動かして壊して直す経験を重ねてください。エラーは学びのチャンスと捉えると進みやすいです。
よくあるつまずきと対処法
ポート番号の競合、権限エラー、設定ファイルの書き間違いが多いです。ログを確認し、検索や公式ドキュメントを参照する習慣を付けましょう。
最後に
焦らず一歩ずつ学ぶことが大切です。小さな成功を積み上げて、自信を持って次の章へ進んでください。
サーバーサイドプログラミングの位置づけ
概要
サーバーサイド言語はウェブの裏側で動き、利用者の画面には見えない処理を担当します。例えば、ログインの確認や投稿の保存、商品の在庫確認などを行います。
どこで動くか
コードは利用者のブラウザではなく、サーバー上で動きます。ブラウザは結果だけを受け取り、表示します。これにより秘密情報や複雑な処理を安全に扱えます。
主な役割
- 動的なコンテンツ生成:同じページでもログイン状態や入力内容で内容を変えます。
- データベース操作:投稿やユーザー情報を保存・取得します。
- 認証と権限管理:本人確認や操作できる範囲を決めます。
- 外部サービス連携:決済や地図情報などをつなぎます。
具体例
- お問い合わせフォームで送信内容を保存し、管理者に通知する。
- オンラインショップでカート内の在庫を確認し注文を確定する。
学習の進め方
まずは簡単なフォーム処理やデータの保存から始めます。次にログイン機能やAPI連携を試すと実務に近づきます。実際に手を動かすことが上達の近道です。












