はじめに
本書の目的
この章では、AWS ダイレクトコネクトの全体像をわかりやすく紹介します。本書は基本概念、仕組み、利点、構成要素、接続方式、適用シーンを順に解説します。これにより、導入の判断や設計の第一歩が進められます。
背景:なぜ専用線接続が注目されるのか
クラウドと自社システムをつなぐ際、インターネット経由は手軽ですが、通信の遅延や一定の帯域を常に確保するのが難しい側面があります。AWS ダイレクトコネクトは、専用線を使ってAWSと直接つなぎ、安定した通信と高いセキュリティを実現します。たとえば、金融取引データや医療画像の転送、大容量バックアップの定期転送などで効果を発揮します。
読者対象
本書は以下の方を想定しています。
– クラウド接続の導入を検討しているIT担当者
– ネットワーク設計に関心があるエンジニア
– 専用線接続のメリットを経営や関連部門に説明する必要がある方
専門的な前提知識は不要です。用語は必要最小限にし、具体例で補足します。
本書の読み方
各章は独立して読みやすく構成しています。まず本章で全体像をつかみ、続く章で具体的な仕組みや構成要素を順に確認してください。導入を検討する際は、自社の要求(帯域、費用、運用体制)と合わせて読み進めると役立ちます。
AWS ダイレクトコネクトとは
概要
AWS ダイレクトコネクトは、オンプレミス(自社データセンターやオフィス)とAWSクラウドをインターネットを介さずに専用回線でつなぐサービスです。標準のイーサネット光ファイバーを使い、ユーザー側のルーターとAWS側のルーターを直接接続して、プライベートな通信路を確立します。
接続の仕組み(かんたんな説明)
物理的には光ファイバーが両者をつなぎます。論理的には”仮想インターフェース”を作り、社内ネットワークとAWSのVPC(仮想ネットワーク)を相互にやり取りします。設定はルーターの経路情報を交換することで行います。
インターネット接続との違い
通常のインターネットは公衆網を経由しますが、ダイレクトコネクトは閉域網です。そのため、通信の安定性とセキュリティが向上します。例えば、大きなファイル転送やデータベースの同期で遅延やパケットロスを抑えやすくなります。
利用の具体例
・毎晩大容量のバックアップをAWSに送る。回線の品質が鍵になります。
・オンプレミスの業務アプリをAWS上のデータベースと連携する。応答性が向上します。
セキュリティと品質
物理的に分離された経路を使うため、盗聴リスクを低くできます。回線帯域を明確に確保できるので、予測しやすい性能を得られます。設定や回線選びで費用対効果を考えることが大切です。
AWS ダイレクトコネクトの主な利点
概要
AWS ダイレクトコネクトはインターネットを経由せずに専用回線でAWSと接続します。ここでは、利用者にとって特に有益な点を分かりやすく説明します。
セキュリティの向上
専用回線を使うため、データが公開ネットワークを通りません。外部からの盗聴や改ざんリスクが減り、機密データのやり取りに安心感があります。例えば、社内の顧客情報をクラウド上のデータベースとやり取りする場合に有効です。
安定した通信と低遅延
専用線は回線品質が高く、通信速度が安定します。大量のデータ転送やリアルタイムな処理(音声・映像配信、決済処理など)で遅延が少なく、予測しやすい性能を得られます。
プライベートIPでの通信
オンプレミスのサーバーとVPC内のリソースをプライベートIPで直接通信できます。インターネット経由のNATや公開IPを使わず、社内ネットワークと同じ感覚で運用できます。
帯域とコストの見通し
専用帯域を割り当てることで必要な帯域を確保しやすく、長期的には大量データの転送料や運用コストの最適化につながる場合があります。
運用面の利便性
既存ネットワークとの統合が進めやすく、トラフィックの制御や監視も行いやすくなります。ハイブリッドクラウド環境の一部として運用管理が楽になります。
AWS ダイレクトコネクトの構成要素
コネクション(物理ポート)
コネクションは専用のイーサネット物理ポートです。専用接続(Dedicated)は1 Gbps、10 Gbps、100 Gbpsなどの帯域を単一ユーザーが物理ポート単位で占有します。たとえば、データセンターから毎日大きなバックアップを送る企業は10 Gbpsを専有して安定した転送を確保できます。
ホスト型接続(Hosted)はパートナー事業者が物理回線を用意し、複数のお客様に細かい帯域(例えば50 Mbps〜10 Gbps)を割り当てます。コストを抑えたい小規模環境や段階的に増やしたい場合に向きます。
仮想インターフェイス(VIF)
VIFは論理的なインターフェイスで、物理コネクション上に複数作れます。主に2種類あります。
– パブリックVIF:S3やDynamoDBなどのパブリックAWSサービスに接続します。インターネットを経由するよりも遅延や変動が少なくなります。
– プライベートVIF:VPC内のリソース(EC2やRDSなど)へ直接接続します。社内ネットワークをVPCと直結するイメージです。
論理分離はVLANタグなどで行い、同じ物理回線を複数用途で安全に使えます。
ダイレクトコネクトゲートウェイ
ダイレクトコネクトゲートウェイは1つのVIFから複数のVPCへ接続できる仕組みです。複数リージョンのVPCをまとめて接続したい場合や、接続管理をシンプルにしたい場合に便利です。たとえば本社ネットワークを1本のVIFで東京と大阪の複数VPCに接続できます。
接続方式の詳細
専用接続と仮想インターフェイス
専用接続は物理的な1本の回線を使います。その回線内に複数の仮想インターフェイス(VIF)を作成できます。例えば1本の回線で自社のVPCとS3などのAWSサービスへ同時にアクセスすることが可能です。仮想インターフェイスごとに経路を分けられるため、使い分けが簡単です。
LAG(帯域の拡張と冗長化)
LAGは複数の専用接続を束ねて1つの論理回線にする仕組みです。帯域を引き上げるだけでなく、片方の回線が切れても通信を保つ冗長化にも役立ちます。実務では回線を別経路や別ラックで接続することで障害耐性を高めます。
グローバル接続の利用例
グローバル接続を使うとAWSのバックボーン経由で別リージョンへ直接つなげます。たとえば東京オフィスからダイレクトコネクトで接続し、東京リージョンのVPCと米国リージョンのリソースへ低遅延でアクセスできます。遠隔地とのデータ転送量が多い場合に有効です。
実務上のポイント
帯域設計は将来のトラフィックも見越して余裕を持たせます。LAGを使う場合は各回線の同等設定や運用監視を整えると安定します。仮想インターフェイスは用途(VPC向け/サービス向け)で分けると管理が楽になります。
適用シーン
金融機関・決済システム
高い機密性と可用性が求められる金融分野で有効です。例えば、銀行間の取引データや決済処理を専用線でやり取りすると、盗聴リスクを減らし通信の遅延を抑えられます。
医療機関・電子カルテ
患者データを安全にクラウドへ送る場合に適しています。画像や診療記録を確実に転送できるため、遠隔診療やバックアップに向きます。
大規模データ転送・機械学習
大量のログや解析データを定期的に移す場合、専用回線はコストと時間を節約します。例えば、数テラバイト単位の学習データをクラウドへ移すときに効果的です。
ミッションクリティカルなシステム
製造ラインや決済基盤など停止が許されない仕組みで有効です。通信の安定性と低遅延が障害予防につながります。
ハイブリッドクラウド構成
オンプレミスとクラウドを連携する場面で利便性が高いです。例えば、社内データセンターとクラウドを常時接続してアプリを分散させるときに向きます。
メディア配信・ライブ映像
高画質動画のリアルタイム配信では、帯域が安定する専用回線が役立ちます。突発的なトラフィック増にも強いです。
産業IoT・エッジ連携
工場や基地局から集めるセンサーデータを確実に送る用途に適します。運用監視や迅速な応答を求める場面で有効です。












