はじめに
本記事の目的
本記事は、AWS(Amazon Web Services)が提供する主要なストレージサービスをやさしく解説することを目的としています。専門用語をできるだけ少なくし、具体例を交えて違いと使いどころを分かりやすく説明します。これにより、自分の用途に合ったストレージを選びやすくなります。
誰に向けて書いているか
クラウド初心者から、現場でストレージ選定に関わるエンジニアや担当者まで幅広く想定しています。技術的な深掘りが必要な方には、後の章で具体的な特徴や比較を示します。
この記事で学べること
- オブジェクト、ブロック、ファイルの三種類の基本イメージ
- Amazon S3、EBS、EFS、FSxの特徴と代表的な用途
- ストレージ選びの考え方と実際の判断ポイント
読み方の案内
まず本章で全体像と目的をつかんでください。続く章でサービスごとの詳しい説明と比較、選び方のポイントを順にお読みいただければ、実務で使える知識が身に付きます。疑問点があれば、章ごとに戻って具体例を参照してください。
AWSストレージの全体像
概要
AWSは用途や性能、コスト、アクセス方法に応じて複数のストレージを提供します。主にオブジェクト、ブロック、ファイルの三つに分かれ、それぞれ向く使い方が異なります。
主なストレージの種類とイメージ
- オブジェクトストレージ(例:S3)
- ファイルを“鍵付きの箱”で保管するイメージです。大量データの保存や公開配信、バックアップに向きます。
- ブロックストレージ(例:EBS)
- サーバーに直接つながる“仮想ハードディスク”のイメージです。データベースやOSのディスクとして使います。
- ファイルストレージ(例:EFS / FSx)
- 共有フォルダのイメージです。複数のサーバーで同じファイルにアクセスしたい場合に便利です。
アクセス方法の違い
- HTTP経由でアクセスするサービス(オブジェクト)
- サーバーにブロックとして接続する方式(ブロック)
- ネットワーク経由でファイルを共有する方式(ファイル)
性能とコストのざっくり比較
- 高スループットで大量保存:オブジェクトが有利(低コストで容量拡張しやすい)
- 高IO性能・低遅延:ブロックが有利(ディスク性能に依存)
- 共有アクセス:ファイルが有利(同時アクセスに強い)
選び方のポイント(簡潔)
- 大量データや公開配信ならオブジェクト
- データベースやOSならブロック
- 複数サーバーで共有するならファイル
利用シーンの具体例
- バックアップ・ログ保管:オブジェクト
- トランザクションDB:ブロック
- ウェブアプリの共有ストレージ:ファイル
以上がAWSストレージの全体像です。次章では各サービスを詳しく見ていきます。
オブジェクトストレージ ー Amazon S3
概要
Amazon S3はファイル単位(オブジェクト)で保存するストレージサービスです。HTTP経由で扱え、ほぼ無制限にデータを増やせます。耐久性が高く、長期保存や配信に向きます。
特徴
- オブジェクト毎にメタデータを付けられます。検索や管理に便利です。
- スケールが自動で、大量のログや画像・動画に強いです。
ストレージクラス(例)
- 標準(頻繁アクセス向け)
- 低頻度アクセス(コスト重視)
- グレイシャー(アーカイブ、取り出しに時間がかかる)
主なユースケース
- ログ保存、静的Webホスティング、メディア配信、バックアップやデータレイク構築など。例えば、ECサイトの画像配信や解析用のログ保管に向きます。
運用での注意点
- オブジェクト単位での更新は置換になる点に注意してください。小さな変更でも全体を再アップロードします。
- アクセス制御やライフサイクルルールでコスト最適化すると良いです。
ブロックストレージ ー Amazon EBS
概要
Amazon EBS(Elastic Block Store)は、EC2インスタンスに接続して使うブロック単位のストレージです。ローカルディスクのように振る舞い、OSやデータベースのディスクとして利用します。高頻度・低遅延のアクセスが必要な用途に向いています。
主な用途
- RDBMSやトランザクション処理のデータディスク
- アプリケーションサーバの永続ディスク
- OS(ブート)ディスク
種類と特長
- 汎用SSD(gp3/gp2): バランスの取れた性能で多用途向け。具体例:中小規模のDB
- プロビジョンドIOPS(io2/io2 Block Express): 高IOPSが必要なミッションクリティカルなDB向け
- スループット最適化HDD(st1)/コールドHDD(sc1): 大容量で連続読み書きが多いワークロード向け
パフォーマンスと拡張
ボリュームはオンラインでサイズや性能を変更できます。IOPSやスループットの要件に合わせて選び、必要に応じて追加でボリュームをアタッチします。
バックアップと復元
EBSスナップショットを使い、差分バックアップが可能です。スナップショットから新しいボリュームを作成して復元できます。
セキュリティ
暗号化を有効にすると、データは保存時と転送時に保護されます。アクセスはIAMで制御します。
利用時の注意点とベストプラクティス
- 重要なデータは定期的にスナップショットで保護しましょう
- IOPSやスループット要件を事前に評価してボリューム種別を選んでください
- マルチAZの高可用性はEBS単体では難しいため、レプリケーションや冗長構成を検討してください
ファイルストレージ ー Amazon EFS / Amazon FSx
概要
ファイルストレージは複数のインスタンスから同時に読み書きできる共有ストレージが必要なときに使います。ファイル単位でアクセスできるため、従来のネットワーク共有と同じ感覚で利用できます。
Amazon EFS(Elastic File System)
EFSはNFSプロトコルで提供され、主にLinux環境の共有ストレージ向けです。容量は自動的に増減し、数百台のサーバーから同時アクセスできます。例として、CMSのウェブサーバー群やホームディレクトリ、コンテナ間での共有ボリュームに向きます。スループットは自動バーストかプロビジョニングで調整します。
Amazon FSx の種類と特徴
- FSx for Windows File Server: SMBでWindowsサーバーと親和性が高く、Active Directory統合やファイル属性をそのまま使えます。ユーザーのホームや社内共有に適します。
- FSx for Lustre: 高スループット・低レイテンシを求める解析やメディア処理、機械学習のデータ準備に強みがあります。
- FSx for NetApp ONTAP / OpenZFS: スナップショットやデータ重複排除、圧縮など高度なデータ管理機能が必要な場合に選びます。
選び方のポイント
- OSとプロトコル(LinuxならEFS、WindowsならFSx for Windows)を優先する
- 同時接続数とスループット要件を確認する
- スナップショットやデータ管理機能が必要かでFSxの選択を検討する
運用上の注意
バックアップ(スナップショット)やアクセス制御を設計してください。コストは使用量と性能設定で変わるため、想定負荷で試算することをおすすめします。
S3とEBS・EFS・FSxの違いまとめ
比較表
| ストレージ | 種類 | 主な用途 | アクセス方法 | コスト/特徴 | 例 |
|---|---|---|---|---|---|
| Amazon S3 | オブジェクト | 長期保存・配信、バックアップ | HTTP API(REST) | 無制限・容量単位で安価、ライフサイクル設定可能 | Web画像配信、バックアップ保管 |
| Amazon EBS | ブロック | DBやOSのルートディスク | EC2にブロック接続 | 高性能(IOPS)、ボリューム単位課金、スナップショット可 | RDSやEC2のDBディスク |
| Amazon EFS | ファイル | 複数EC2で共有するLinuxファイル共有 | NFSプロトコル | 弾力的に拡張、同時多数接続向け | コンテンツ管理システムの共有ストレージ |
| Amazon FSx | 専用ファイル/ブロック | Windows共有、HPC、NetApp互換など用途特化 | SMB/NFS/プロトコル依存 | ファイルシステム固有の最適化、性能保証オプションあり | Windowsファイルサーバ、HPC用高速ストレージ |
選び方のポイント
- 長期保存や静的配信ならS3を選びます。例:公開サイトの画像やアクセス頻度の低いログ保管。
- データベースやOSディスクはEBSが適します。高いIO性能と低レイテンシが必要なときに有利です。
- 複数サーバで同じファイルを読み書きする場合はEFSを選びます。共有ホームディレクトリやCI環境に向きます。
- Windowsネイティブ共有や特定ワークロード(HPC、NetApp機能)にはFSxが便利です。
用途に合わせてアクセス方式と性能要件(スループット、IOPS、同時接続)を優先して選んでください。
ストレージ選択のポイントとユースケース
選択時の主要ポイント
ストレージを選ぶ際は次を確認します。
– 用途: ログや画像など「大量保存」ならS3、データベースのディスクならEBS、複数サーバで同じファイルを使うならEFS/FSx。
– 性能: 高I/O・低遅延が必要ならEBS。読み取り中心で帯域が重要ならS3。
– コスト: 長期保存はS3の低コスト階層を活用。頻繁アクセスはEBS/EFSが割高な場合がある。
– 拡張性・可用性: 自動で容量拡張するS3やEFSは運用負担が少ない。
– プロトコル/互換性: Windowsのファイル共有はFSx for Windows、NetApp用途はFSx for ONTAP。
代表的なユースケース
- S3: バックアップ、静的サイト、配信。例: ウェブ画像やログ保存。
- EBS: データベースやトランザクション処理。例: RDBのルートボリューム。
- EFS: コンテナや複数EC2での共有ファイル。例: ウェブアプリの共有アップロード領域。
- FSx: ハイパフォーマンスファイルサーバやWindowsアプリ。例: ファイルサーバ移行やHPCの高速共有。
運用上の注意
暗号化やアクセス制御を設定し、バックアップやライフサイクルルールを定義します。コストは使用パターンで変わるので、試験的に小さく始めて監視しながら調整することをお勧めします。
進化するAWSストレージサービスと最新動向
S3 VectorsとAI/機械学習向け最適化
Amazon S3はオブジェクト保存だけでなく、AIや機械学習で使いやすい機能を増やしています。たとえばS3 Vectorsはベクトル検索に適したデータ保存を想定しており、類似検索やレコメンドの処理を簡潔にします。具体例として、画像の特徴ベクトルをS3に格納し高速に検索する構成が考えられます。
FSxシリーズと高性能ファイルサービス
FSxは高性能なファイルシステムをマネージドで提供します。NASや高IOPSが必要なアプリケーションで有効です。金融やメディア処理など、低遅延で大量データを扱う用途に適しています。
多様化と細分化の進行
用途に応じてストレージを細かく選べるようになっています。オブジェクト、ブロック、ファイルといったカテゴリが機能面で被る部分も増え、設計時に目的を明確にすることが重要です。
運用性・コスト・ガバナンスの進化
ライフサイクル管理やアクセス制御、暗号化など運用面の自動化が進みます。コスト最適化のための階層化やアクセス頻度に基づく運用設計がますます重要です。
今後の注目点
相互運用性、データ重力、セキュリティとガバナンス、そしてAI統合がキーポイントです。設計時にこれらを考慮すると、将来の変更に柔軟に対応できます。












