はじめに
本章の目的
本章では、本記事全体の目的と読み方をやさしく説明します。本記事は、Amazon Web Services(AWS)の障害情報を正しく把握し、業務やシステム設計に役立てることを目的としています。具体例として、サービス選定の参考や復旧手順の改善、障害対応訓練の材料とする方法を示します。
誰に向けた記事か
クラウドを使うエンジニア、SRE、開発チームのリーダー、運用担当者、経営者まで幅広く役立ちます。専門用語は最小限に抑え、実際の画面や事例を例にして説明しますので、初めて障害履歴を調べる方でも理解できます。
本記事の構成と読み方
第2章では障害情報の確認方法(公式ダッシュボードや外部情報源)を案内します。第3章は代表的な過去の障害事例を分かりやすく解説します。第4章ではユーザー別の最適アクションを提案し、第5章で障害情報の構造と注意点を深掘りします。章ごとに実践できるポイントを示しますので、自分の目的に合わせて読み進めてください。
AWS障害情報・履歴の確認方法
概要
AWSの障害履歴は公式と非公式の複数ルートで確認できます。用途に応じて使い分けると、早く正しい判断ができます。
AWS Health Dashboard(アカウント固有)
アカウントに影響したイベント(障害・メンテナンスなど)を確認できます。過去90日分が表示され、該当リソースや影響範囲、イベントIDが分かります。例:自分のアカウントで使うRDSに障害が出たかを確認するときに便利です。
Service Health Dashboard(全体ビュー)
リージョンとサービス別に現在のステータスや過去の履歴(おおむね1年)を見られます。特定リージョンだけ絞り込めるので、広域障害か局所的な問題か判断できます。例:EC2が東京リージョン全体で落ちているかを確認する。
AWS Post-Event Summary(事後報告書)
重大な障害ではAWSが詳細な報告書を出します。原因や影響範囲、対策(再発防止策)が記載されます。復旧後の原因確認や社内報告に役立ちます。
外部まとめサイト・SNS
TwitterやReddit、専門のステータス監視サイトは速報性に優れ、現場ユーザーの声が分かります。ただし公式情報で裏取りする習慣をつけてください。
実務的な確認手順(簡易チェックリスト)
1) 自分のアカウントのHealth Dashboardをまず確認。
2) Service Health Dashboardで該当リージョン/サービスの広域状況を確認。
3) 公式のPost-Event Summaryを探す(重大障害時)。
4) SNSや外部サイトで現場状況を補足。
5) 必要ならAWSサポートへ問い合わせ。
利用時のポイント
- アラートはSNSやメールで自動通知する設定をおすすめします。
- API/CLIで履歴を取得すると自動化に役立ちます。
- 外部情報は参考に留め、最終判断は公式発表で行ってください。
代表的な過去のAWS障害事例
2025年4月15日 東京リージョンAZ障害
概要: 東京リージョンの一部アベイラビリティゾーンで約1時間障害が発生し、EC2や関連サービスに影響しました。
影響: 単一AZに依存していたシステムで停止や接続障害が発生しました。
対応・学び: マルチAZ設計や自動フェイルオーバーの検証が重要です。短時間でも可用性設計が効果を発揮します。
2025年10月19日-20日 米国大規模ネットワーク障害
概要: 米国で発生した大規模ネットワーク障害が複数サービスに波及しました。
影響: 世界的にレイテンシ上昇やサービスエラーが発生し、クロスリージョン通信が不安定になりました。
対応・学び: 重要な機能はリージョン冗長化や通信経路の多重化で備えると良いです。
2021年2月 東京リージョン冷却システム障害
概要: データセンターの冷却システム異常でサーバー温度が上昇し、EC2やストレージに影響しました。
影響: 一部ハードウェアの性能低下や自動シャットダウンが発生しました。
対応・学び: ハードウェア依存を減らす設計と予備リソースの確保が有効です。
2021年9月 東京リージョンネットワーク障害
概要: ネットワーク機器のソフトウェアバグが原因で通信障害が発生しました。
影響: 大手企業を含め多数のサービスで接続障害やレスポンス低下が生じました。
対応・学び: 構成変更時のロールバック手順や監視の強化が必要です。
2020年11月25日 米国バージニア北部リージョンKinesis障害
概要: OSのスレッド上限超過でKinesis関連の多数サービスが高レイテンシやエラーを起こし、約17時間続きました。
影響: 長時間のサービス劣化でデータ処理やログ収集に支障が出ました。
対応・学び: 負荷時の挙動確認とリソース上限の監視、段階的なスケール戦略が重要です。
障害履歴情報の活用方法・ユーザー別の最適アクション
AWSの障害履歴は単なる記録ではなく、日々の対応や中長期の判断に役立ちます。ここでは、利用者別に実践できる活用法を具体例とともに示します。
システム管理者
- 公式履歴と速報を同時に監視して、影響範囲(リージョン/サービス)を素早く把握します。
- 履歴を基に復旧手順やチェックリストを整備します。例:どのサービスを先に復旧するかの優先順位表。
- 定期的に過去の障害を使って演習を行い、手順の有効性を検証します。
開発チーム
- 障害ログやタイムラインを突き合わせ、再現と原因分析を行います。例:同じAPIで同じエラーが繰り返されていないか確認。
- 分析結果からリトライやタイムアウトの調整、フォールバック処理を設計します。
- 再発防止のため、コード変更やデプロイ手順の改善をチームで合意します。
ビジネスプランナー
- 複数年分の履歴で傾向を分析し、SLAやリスク許容度を見直します。
- BCP(事業継続計画)や顧客向け対応テンプレートを作成します。例:障害時の報告フォーマットと連絡フロー。
- 分析結果を基に、投資や回復力向上の優先順位を決定します。
共通でできること
- EventBridgeなどで自動通知を組み、障害発生時の初動を自動化します(例:ステータスページ更新やオンコール通知)。
- SNSやコミュニティ情報で現場の状況を補完し、ユーザーの実情を把握します。
- 長期履歴をグラフ化して傾向を可視化し、運用報告やBCP策定に活用します。
AWS障害情報の詳細構造と注意点
1) 障害情報の主要フィールド
- イベント名:何が起きたかを短く表す名称(例:EC2ネットワーク障害)
- 影響リージョン/サービス:対象となるリージョンやサービス名(例:ap-northeast-1、RDS)
- 重要度(Severity):影響範囲の大きさを示す指標
- タイムライン:開始時刻・終了時刻・更新時刻の履歴
- 影響範囲:影響を受けたリソースやユーザー数の概算
- 原因と対応状況:暫定対応や恒久対応の説明
- イベントID/参照リンク:追跡用の識別子と詳細ページ
2) 表示期間と長期分析の注意
- Health Dashboardは過去90日分、Service Health Dashboardは過去12か月分を表示します。長期で傾向を見るなら定期的にデータを取得して保存してください。CSVやJSONで出力し、月次でアーカイブすると管理しやすいです。
3) 実務での扱い方(具体例)
- 取得項目は上記の主要フィールドを全て保存します。例:イベント名、開始/終了時刻、リージョン、ステータス、更新履歴。これを社内の障害台帳と突合すると再発防止に役立ちます。
4) 注意点と落とし穴
- 表示はUTCや英語表記の場合が多く、時刻と表記の扱いに注意してください。
- 同時に複数イベントが発生すると関連を見誤ることがあります。イベントIDで突合しましょう。
- 更新が遅れることや簡潔な説明に留まることがあり、必ずログやモニタリング結果と合わせて確認してください。
- 公開情報は英語が中心ですが、日本語のまとめや公式日本語解説も増えています。社内向けには日本語で要約して共有すると理解が進みます。
5) 運用上の推奨アクション
- 定期エクスポートのスケジュール化(例:週次または月次)
- タイムゾーンの統一とタイムスタンプ保存
- イベントIDでの突合と、関係ログ(監視ログやアプリログ)との紐付け
- 閲覧権限の適切な管理と、外部公開時の機密情報除去
上記を守ると、障害履歴から有益な知見を取り出しやすくなります。












