はじめに
本書の目的
この章では、本記事の目的と読み方をやさしく説明します。ハンドメイド作家や副業で作品を販売している方が、確定申告や税務調査について不安を減らし、日々の活動を安心して続けられるように、必要な知識と具体的な対策を分かりやすくまとめました。
なぜ税の知識が必要か
作品を売って収入が発生すると、税の手続きが関係してきます。たとえば、ネット販売(例:minne、Creema、メルカリ等)やイベント出店での売上は、一定額を超えると申告義務が生じます。税金の手続きを放置すると、思わぬ追徴や手間が発生します。本書はそうしたリスクを未然に防ぐことを目的としています。
本記事で得られること
- 確定申告が必要になる基準や自分でできる簡単な帳簿のつけ方
- 税務調査に関する基本的な知識と、調査が入ったときの対応法
- 経費として認められるもの・認められにくいものの具体例
- 申告漏れや誤りが見つかったときの対応、税理士の活用メリット
読み方のアドバイス
まずは第2章で収入と申告の基礎を確認してください。実務的な対応や帳簿のつけ方は、第4〜6章を順に読むと役立ちます。専門的な対応が必要になった場合は、第8章の税理士活用を参考にしてください。
安心して活動を続けられるよう、少しずつ準備を進めていきましょう。本書がその手助けになれば嬉しいです。
ハンドメイド販売の収入と確定申告の必要性
確定申告が必要になる基準
ハンドメイド販売で得た所得は、年間の「所得」が基準になります。副業(会社員や主婦など)の場合は年間の所得が20万円を超えると確定申告が必要です。専業でハンドメイドを行う場合は年間所得が48万円を超えると申告が必要です。
「所得」とは何か(具体例で説明)
所得とは売上から必要経費を引いた金額です。たとえば年間売上が30万円、材料費15万円、販売手数料3万円なら所得は12万円となり、副業なら申告は不要です。売上だけで判断せず経費を差し引いて計算してください。
副業と専業の区別の目安
副業か専業かは、働き方や生活の中心がどちらかで判断します。明確な線引きはありませんが、収入だけでなく時間や継続性も参考になります。専業扱いになると基礎控除の適用などが変わる点に注意してください。
申告しない場合のリスク
確定申告をしないと、税務署に申告漏れが発覚した際に追徴課税や延滞税、無申告加算税を招く可能性があります。また税務調査の対象になることもあります。領収書や帳簿は必ず保管し、早めに相談や申告を行うことをおすすめします。
税務調査とは?対象になる条件と現状
税務調査の基本
税務調査は、税務署が申告内容の正確さを確認するために行う調査です。主に書類の照合や口頭での確認を通じて、所得や経費の記載が正しいかをチェックします。個人のハンドメイド販売者も対象になります。
どんな人が対象になりやすいか(具体例)
- 売上や入金が急に増えた人(例:SNSで話題になり短期間で受注が増加)
- 申告していない、または申告内容に不自然な点がある人
- 経費の領収書が揃っていない、出金と事業内容の整合性がとれない人
- マーケットプレイスや決済サービスの報告で目立つ取引がある人(例:クレジット決済やPayPalの入金記録)
なぜ小規模事業者も調査対象になりやすいのか
マイナンバー制度やインボイス制度、電子帳簿保存の普及で、税務署は金融機関や事業者間の取引情報を把握しやすくなりました。したがって「バレないだろう」という考えは危険です。
調査の種類と初期の流れ
- 書面による確認:まず書類提出や電話での問い合わせがあります。多くはここで解決します。
- 実地調査:書類で不明点が残る場合、税務署職員が事業所や自宅を訪れることがあります。事前に連絡が入り、日時が調整されます。
不安がある方は、普段から帳簿や領収書を整理しておくことが基本です。必要なら税理士に相談してください。
税務調査が入った場合の対応方法
税務調査の連絡を受けたら、まず落ち着いて準備します。以下の手順で対応するとスムーズです。
事前準備(書類整理)
- 帳簿(売上帳・仕入帳)や領収書、請求書を年代順にまとめます。
- プラットフォームの販売履歴、入金明細、銀行通帳、クレジット明細も用意します。
- 経費の根拠(材料の納品書、送料の領収書、作業に使った通信費など)を揃えます。
具体例:ネット販売ではサイトのCSVや送付先の控えが重要です。領収書がない場合は銀行履歴や注文データで補えます。
調査当日の対応
- 税務署の質問には誠実に答えます。わからない点は調べて後で回答すると伝えます。
- 不明確な説明は避け、事実だけを示します。必要なら税理士の同席を依頼します。
- 書類は整理して提示し、コピーを取られても構いませんが、サインする前に内容を確認します。
- 長時間になれば一時中断や持ち帰りを申し出る権利があります。
帳簿に不備や申告漏れが見つかった場合
- 不備が確認されたら、修正申告や更正に応じる必要があります。追加徴収や延滞税・加算税が発生することがあります。
- 自主的に訂正するとペナルティが軽くなる場合があります。税理士と相談し対応を進めます。
調査後の対応
- 調査で指摘された点は書面で受け取り、期限内に支払いや手続きを行います。異議がある場合は審査請求や異議申立ての手段があります。
- 今後のために帳簿の付け方や経費の保管方法を見直します。
実務的には、日頃から領収書や販売データを整理し、税理士に相談できる体制を整えておくと安心です。
ハンドメイド作家が気をつけるべき帳簿・経費管理
経費になるタイミング
材料費や副資材を買った時点で全額が経費になるわけではありません。売上原価は「期首在庫+当年仕入-期末在庫」で計算します。例えば期首に在庫が0、年内に毛糸を10個仕入れ、年末に使わず残ったのが3個なら、販売に使った7個分だけがその年の経費です。
帳簿に記録する項目(具体例付き)
- 日付:購入日や販売日
- 取引先:店舗名やネットショップ名
- 金額:税込・税抜を分けて記載すると便利
- 勘定科目:材料費、消耗品費、外注費など
- 用途メモ:どの作品に使ったか、または在庫用か
例)2025-04-10 手芸店A ¥2,000 材料費 ビーズ(在庫用)
領収書・レシートの保管
紙は折れないように保管し、紛失が心配な場合は写真で保存しておきます。デジタル化すると検索が楽になります。
棚卸(在庫管理)の実務ポイント
定期的に在庫数を数え、期末在庫を確定します。ラベルを付けて保管場所を分け、材料ごとに単価を決めておくと計算が簡単です。売れ筋と残りやすい素材を分けて管理すると無駄が減ります。
小さな注意点
私的流用した材料は事実をメモしておき、必要なら経費から差し引きます。また、口座やカードの明細と帳簿が一致するように定期的に照合してください。
税務調査のリスクを減らすためのポイント
正確な帳簿作成と日々の記録
売上や経費は日付・金額・取引相手・用途を必ず記録します。手書きの帳簿でも構いませんが、クラウド会計ソフトやエクセルに入力しておくと検索や確認が楽になります。例えば、イベントでの売上は「イベント名・日付・合計金額」を記録します。
証憑(領収書・レシート)の保管方法
領収書やレシートは原本を保存し、紙が傷む場合はスキャンしてデータ保存も行いましょう。購入用途ごとにファイルやフォルダで分けると調べるときに便利です。少なくとも5年程度は保管すると安心です。
申告書は丁寧に記入する
収入や経費の内訳をできるだけ詳しく書きます。たとえば材料費としてまとめて申告する場合でも、主要な仕入先や用途をメモしておくと説明が簡単です。誤りに気づいたら早めに訂正・相談してください。
青色申告・開業届など制度を活用する
青色申告を選ぶと帳簿の要件を満たしつつ節税メリットが得られます。家族に給与を支払って経費にできるなど、制度を正しく使うことで合法的にリスクを下げられます。
私的支出と事業支出を分ける
自宅兼作業場の家賃や光熱費は、仕事で使う割合を基準に按分します。買い物も私用と事業用は領収書を分け、事業用のみを経費にしましょう。あいまいな扱いは調査の際に指摘されやすいです。
定期的なチェックと専門家への相談
年に一度は帳簿を見直し、売上増や経費の変化があれば早めに対応します。不安があるときや調査対応が心配なときは税理士に相談すると安心感が得られます。
調査に備える心構え
税務署から連絡が来たら落ち着いて対応し、求められた書類を迅速に整理・提出します。正直に説明し、説明できる根拠(領収書や取引履歴)を用意しておくと調査の不安を減らせます。
申告漏れや誤りがあった場合のリスクと対応
主なリスク
申告漏れや誤りが税務調査で見つかると、追徴課税・延滞税・過少申告加算税などの負担が発生する可能性があります。たとえば、売上の一部を記録し忘れると、追加で税金を支払うだけでなく、延滞分の利息に相当するものも請求されます。故意でなくても、帳簿の不備や領収書の欠落は問題になります。
発覚したときの一般的な流れ
- 税務署が指摘する。2. 調査結果に基づき更正や追徴が通知される。3. 必要なら修正申告や納付を行う。この過程で説明が不十分だと、加算税が上乗せされることがあります。
具体的な対応方法
- まず事実確認を行い、どの期間・どの金額に誤りがあるか整理します。実例を挙げると、イベント売上の抜けや材料費の領収書不備などです。
- 修正申告を早めに行うことで、ペナルティが軽くなる場合があります。自主的に申告することで税務署の評価が変わります。
- 証憑(領収書や銀行取引の記録)を丁寧に揃え、説明資料を作成します。
税理士への相談と交渉
過去分の誤りが大きい場合や税務署とのやり取りが不安な場合は、税理士に相談してください。税理士は修正申告の作成や税務署との交渉を代行できます。交渉により加算税の軽減や分割納付の提案が可能になることがあります。
日常でできる予防策
- 日々の記帳を習慣化し、月ごとに振り返る。
- 領収書はデジタル保存でも可だが、整理ルールを決める。
- 小さな疑問も早めに専門家に相談する。
これらを続けることで、申告ミスの発覚時にも落ち着いて対応でき、余計な負担を減らせます。
税理士を活用するメリット
概要
税務調査の立会いや確定申告の代理業務を税理士に依頼すると、精神的な負担が軽くなり安心して対応できます。税法の知識と調査対応の経験を活かして、追徴税額の交渉や誤りの是正を行います。
税務調査での役割
税理士は税務署とのやり取りを代行できます。調査時は立会いをして事実関係を整理し、必要な書類を説明します。追徴が想定される場面では、過去の処理や合理的な説明を示して減額につなげる交渉を行います。
節税・申告のサポート
日常の帳簿チェックや経費の整理で、適切な節税策を提案します。副収入の扱いや領収書の整理方法など、ハンドメイド作家の実情に合わせた助言が受けられます。
税理士の選び方
調査の立会経験があるか、ハンドメイドや小規模事業の対応実績があるかを確認しましょう。料金体系は時間制か顧問料かで異なります。初回相談で相性や対応の丁寧さを確かめると安心です。
依頼時の準備
委任状や過去の確定申告書、帳簿や領収書を揃えておくとスムーズです。疑問点は早めに相談し、記録を残してやり取りするとトラブルを防げます。
費用対効果の考え方
税理士費用は節税や追徴回避で十分に回収できる場合が多いです。初めての不安を減らす保険と考えると利用価値が高いでしょう。
まとめ:ハンドメイド作家が税務調査に備えるために
ハンドメイド販売は個人でも税務調査の対象になります。日々の記録と正しい申告が安心につながります。
要点
- 確定申告は売上と経費を分けて申告します。経費の具体例:材料費(布・ビーズ)、梱包・発送費、出店料、宣伝や写真撮影の費用など。
- 領収書やレシートは保存します。電子データでも保存できますが、ルールに沿って整理してください。
日々の習慣
- 売上は販売日ごとに記録します。
- 経費は用途ごとに分けて帳簿に書きます。自宅で作業する場合は光熱費や家賃を按分して記録するとよいです(例:作業スペースが全体の20%ならその分を経費にする)。
- 年に1回、申告前に領収書と帳簿を見直します。
調査が来たら
- 落ち着いて書類を提出し、事実を正直に説明します。調査官の求めに応じて資料を出す準備をしておくと対応が早くなります。
税理士の活用
- 計算や書類整備、調査対応で不安がある場合は税理士に相談すると負担が減ります。必要なときは早めに依頼してください。
最後に、制度の変化(マイナンバー、電子帳簿の仕組みなど)で求められる対応は変わります。日々の記録を習慣にし、分からない点は専門家に相談することで、安心して制作活動を続けられます。












