第1章: はじめに
本書の目的
本書は、Webサーバーとブリッジ構成で起こりやすい障害の原因、現象、対策を分かりやすく解説します。実務で使える点検手順やトラブル時の着手順を中心にまとめています。専門用語は最小限にし、具体例で補足します。
想定読者
ネットワークやサーバーを運用するエンジニア、運用担当者、技術を学ぶ学生を想定しています。初心者でも理解できるよう基礎から順に説明します。
本書の使い方
各章は以下の流れで構成します。まず基本構成を示し、次に起こりやすい障害例、観察されるエラーや現象、原因と具体的対策を解説します。最後にクラウドやセキュリティ機器に特有の注意点を扱います。図やチェックリストを参照して、実際の障害対応に役立ててください。
用語の扱い
「ブリッジ」はネットワークの橋渡しをする機器として説明します。難しい用語は具体例で補いますので、まずは読み進めてください。
Webサーバーとブリッジの基本構成
役割の概略
Webサーバーは、ブラウザやアプリからのリクエストを受けてHTMLや画像、API応答を返す装置(ソフトウェア)です。ブリッジ(Bridge)は、異なるネットワークの通り道をつなぐ機器や仮想機能で、データをそのまま次へ渡します。専門用語を噛み砕くと、橋渡し役だと考えると分かりやすいです。
代表的な構成例
- 物理L2ブリッジ:別フロアやVLANをまたぐ環境で、スイッチやブリッジがフレームを転送します。例えば、サーバールームの物理サーバーを社内ネットワークにつなぐ場合です。
- 仮想ブリッジ:ハイパーバイザ上の仮想スイッチ(例:Linuxブリッジ、OVS)が複数の仮想マシンを同一ネットワークに接続します。VMと物理NICをつなぐ橋渡しになります。
- クラウド/API中継:クラウドのロードバランサやAPIゲートウェイが、外部と内部リソースを仲介します。レイヤーは異なりますが、役割は橋渡しです。
- セキュリティ機器のインライン/ブリッジ配置:WAFやIPSを通信経路に挟み、通信を解析して必要なら遮断します。インラインだと流れを止める可能性があるため設計で注意が必要です。
運用で押さえるポイント
- 通信経路が増えると障害点も増えます。冗長化や監視が重要です。
- 設定ミスで通信がループしたり遅延したりします。ログと状態監視で早期発見を目指します。
以上が、Webサーバーをブリッジ構成で運用するときの基本像です。
ブリッジ構成で発生する主な障害例
ネットワーク経路の断絶・遅延
ブリッジが介在することで経路が増え、機器故障やケーブル抜けで通信が途切れやすくなります。例えばスイッチポートの障害で特定サーバーだけ応答しなくなることがあります。対処はまず物理接続とリンク状態を確認し、pingやtracerouteで経路を追います。
IPアドレス割り当てトラブル
DHCPや静的設定の競合でIP重複や割り当て漏れが起きます。例:同じIPを複数台で割り当てて接続が不安定になるケースです。対処はアドレス一意性の確認とDHCPサーバーのログ確認です。
ファイアウォール・プロキシ設定ミス
ブリッジ経由でのフィルタが期待どおりに動かず通信遮断が起きます。例:ポートフィルタの間違いでHTTPだけ通らない場合があります。設定差分のレビューとログ確認で原因を特定します。
リソース不足・高負荷
ブリッジ処理によりCPUやメモリが逼迫しパケット落ちが発生します。例えば大量アクセスで橋渡し装置のCPU使用率が上がり遅延が顕在化します。監視でリソース状況を把握し、負荷分散やスケールアウトを行います。
DNS障害
名前解決ができないとサービス全体が利用不可になります。例:ブリッジ内部のDNSリゾルバが応答しなくなると外部アクセスも失敗します。nslookupやdigで確認し、フォールバック設定を用意します。
サービス停止・メンテナンスによる一時的サービス不可
サーバやブリッジ機器のメンテナンスで一時的にサービスが止まります。運用で事前告知と冗長化を行い、メンテ中の監視を強化します。
障害発生時の代表的なエラー・現象
概要
ブリッジ構成のWebサーバーで障害が起きると、利用者側でいくつかの典型的なエラーや現象が見られます。ここでは代表的な事例と、簡単な原因のあたり方を分かりやすく説明します。
1) 503 Service Unavailable
症状: ブラウザに「503 Service Unavailable」が表示されます。サーバーが一時的に処理できない状態です。
原因例: Webアプリやバックエンドの過負荷、プロセス停止、接続先の応答なし。
対処: サーバー負荷やプロセス状態を確認します。バックエンド(アプリやDB)への接続状況も調べます。
2) 接続タイムアウト/接続拒否
症状: ページが長時間読み込まれない、あるいは接続を拒否される。
原因例: ネットワーク断、ファイアウォール設定、サービス停止。
対処: ネットワーク経路の疎通確認(ping/traceroute)、ポート開放状況の確認を行います。
3) DNSエラー(名前解決失敗)
症状: ドメイン名でアクセスできないが、IPではつながる場合がある。
原因例: DNS設定誤り、TTL切れ、DNSサーバー障害。
対処: DNSレコードと転送先の設定を確認します。ローカルのキャッシュクリアも試します。
4) レスポンス遅延・断続的な切断
症状: ページ表示が遅い、途中で接続が切れる。
原因例: 帯域制限、ネットワーク断続、サーバーのリソース不足。
対処: ネットワーク統計やサーバーのCPU/メモリ、ログを確認して原因を絞ります。
各現象は複数の原因が絡むことが多いので、ログや監視データを順に確認することが早期復旧につながります。
主な障害原因と具体的な対策
1) IPアドレス関連(静的IP設定と予約)
静的IPの誤設定や重複で通信が止まります。対策は設定値の二重確認とDHCP予約の活用です。具体例:設定ファイルや管理画面でIP/ネットマスク/ゲートウェイを確認し、固定機器はMACベースで予約します。
2) ネットワーク・ブリッジ障害(監視と再起動、経路確認)
ブリッジの切断やインターフェース不整合が原因です。監視ツールでリンク状態を監視し、自動再起動スクリプトを用意します。経路確認はルーティングテーブルとARPテーブルをチェックしてください。
3) ファイアウォール・プロキシ設定不備
ポートやルールの抜けでサービスが遮断されます。ルール一覧を定期点検し、ログでブロックを確認します。プロキシ経由の通信はプロキシ設定と例外リストを見直します。
4) リソース不足・高負荷(監視と増強、ロードバランサやCDNの活用)
CPU・メモリ・IOが不足すると応答遅延や停止が起きます。リソース監視でしきい値を決め、自動スケールやサーバ追加、ロードバランサ/CDNで負荷分散します。
5) DNS障害(設定確認とキャッシュクリア)
DNS誤設定や伝播遅延で名前解決ができなくなります。ゾーン設定とネームサーバ情報を確認し、クライアント側のDNSキャッシュをクリアします。
6) サービス停止・メンテナンス(事前告知とアクセス制御)
予定外の停止は影響が大きいです。事前告知を行い、メンテ中はアクセス制御やフェイルオーバーを用意します。ロールバック手順を明確にしてください。
クラウド・仮想化環境でのブリッジ障害(Azure Arcの例)
概要
クラウドや仮想化環境では、物理環境と違うポイントでブリッジに関する障害が起きます。代表例はコントロールプレーンのIP設定ミス、管理用VMのネットワーク断絶、ディスク性能不足です。Azure Arcのような管理エージェントはクラウド側のAPIに常時接続するため、ネットワークやプロキシの小さな不備が大きな障害につながります。
主な原因と現象
- IPアドレスの競合やDHCP割当の変更でコントロールプレーンが到達不能になる。
- 管理用VM(Arcエージェント稼働)のネットワーク断絶でコントロール信号が届かない。
- ディスクのIO性能不足によりサービスがタイムアウトして停止する。
- ファイアウォールやプロキシでAPI通信(通常443/TCP)がブロックされる。
具体的対策
- IPはクラウドの「予約IP」かホスト側で静的割当にする。DHCPリース切れでIPが変わらないようにします。
- エージェント再起動やネットワークデーモン再起動後にIPロストがないか確認する(ip addr や cloud-init ログを確認)。
- ファイアウォール/プロキシはAzure側のAPIエンドポイントとポートを許可する。プロキシ認証情報はエージェント側に正しく設定します。
- ディスクはIOPSを監視し、必要ならプレミアムSSDなど高性能ディスクに変更する。ログやデータは別ディスクに分離します。
トラブルシュート手順(簡易)
1) 管理VMへアクセスし、ネットワーク状態を確認(ip addr / ping / curl)。
2) エージェントログを確認(例: journalctl -u azcmagent)。
3) ファイアウォール/プロキシ経路を検証(curlでAPI疎通)。
4) ディスク遅延はfio等でベンチマークし、必要ならディスク種別を変更。
注意点
- 再起動による一時的なIP変更や、クラウド側のメンテナンスでネットワーク設定が変わる場合があります。自動化や監視で早期検知できるようにしてください。
セキュリティ対策機器(WAF等)のブリッジ構成と障害
導入形態とリスク
WAFなどをブリッジ(インライン)で置くと、通信が必ず機器を通ります。そのため機器故障やソフト障害で通信が止まり、Web全体が不通になるリスクが高まります。例えば、WAFのプロセス停止で応答が返らなくなるケースがあります。
障害発生時の影響例
- Webサイト全体がダウンする
- レスポンス遅延や断続的な接続切断が発生する
- ログが取得できず原因追跡が難しくなる
構成面での対策
- 冗長化:アクティブ/スタンバイやアクティブ/アクティブで冗長化し、フェイルオーバーを用意します。
- バイパス機能:障害時に自動で経路を切り替えるバイパススイッチや“fail-open”モードを用意します。
- 非インライン運用の併用:検知はタップ(ミラー)で行い、必要時のみインラインに切替える構成も有効です。
運用面での対策
- ヘルスチェックと自動復旧:定期的な監視と自動での再起動・切替を設定します。
- ログと通知:syslogやSIEMで異常を早期検知し、アラートを確実に送る仕組みを整えます。
- 定期検証:ドリル(障害模擬)やファームウェア更新の影響確認を定期的に実施します。
実例のヒント
小規模なら二台でのHA+バイパススイッチ、大規模ならロードバランサの前後でWAFを配置し、片側の障害をもう片側で吸収する構成が現実的です。
運用と設計の両方を整えることで、WAF導入による単一障害点を避け、安全に運用できます。












