はじめに
本書の目的
本記事は、AWSのルートテーブル(Route Table)について、役割や基本構造、設定手順、運用時の注意点までを分かりやすく解説します。VPC内の通信経路を理解し、適切な設計と運用ができることを目的とします。
対象読者
クラウド初心者から中級者までを想定します。ネットワークの専門家でなくても、実務で使える知識を身につけたい方に向けています。
本記事の構成と進め方
第2章以降で概念→構成要素→設定例→運用の順に説明します。具体例を交え、実際の設定時に迷わないよう丁寧に進めます。本章では全体像をつかんでいただくことを目標とします。
前提と注意点
VPCやサブネットの基本概念を知っていると理解が速くなります。以降は専門用語を必要最小限にし、具体例で補足します。
ルートテーブルとは何か?その役割とイメージ
概要
ルートテーブルは、VPC内で「どこへ送るか」を決める指示書です。パケットが来たときに宛先を見て、どの経路(サブネット、インターネット、別のVPCなど)へ送るかを選びます。街の道路地図や標識に例えると、データの進行方向を示す案内板です。
イメージ(地図のたとえ)
想像してください。車(データ)が交差点(サブネット)に来たとき、標識(ルート)が「左は市内、右は高速」と示します。同じようにルートテーブルがあれば、パケットは迷わず目的地へ向かいます。
主な役割
- サブネット間の通信経路を決める
- インターネットへの出入口を指定する(インターネットゲートウェイ経由)
- 他のVPCやオンプレミスへの接続経路を管理する(ピアリング、VPN、Transit Gatewayなど)
具体例
- 社内サーバー同士のやり取りはVPC内の経路で完結します
- 外部と通信する場合は、ルートがインターネットゲートウェイを指します
- 別のVPCへ接続する際は、ピア接続を指すルートを追加します
次章では、ルートテーブルの内部構造と項目について詳しく見ていきます。
ルートテーブルの構造と基本要素
ルートエントリとは
ルートテーブルは複数のルートエントリで成り立ちます。各エントリは「どこへ行くか」と「どこに送るか」を示します。具体例を使うと理解しやすいです。
宛先(Destination)
宛先はIPアドレスの範囲を示します。例:10.0.1.0/24、0.0.0.0/0。/24や/16などの数値は範囲の広さを表します。数値が大きいほど範囲が狭く、より具体的です。
ターゲット(Target)
ターゲットはその宛先へ送る先を指します。代表的なものはインターネットゲートウェイ(Internet Gateway)、NATゲートウェイ、サブネット内のローカル接続などです。例:10.0.1.0/24 → ローカル、0.0.0.0/0 → igw-xxxx(インターネットへの出口)
最長一致ルール(Longest Prefix Match)
ルート選択は最も具体的な宛先(数値が大きい)を優先します。例として、10.0.0.0/16と10.0.1.0/24がある場合、10.0.1.5への通信は/24のエントリを使います。順番ではなく長さで決まる点が重要です。
デフォルトルートの役割
0.0.0.0/0は全ての宛先を表す「デフォルト」です。インターネット接続を許可するには通常、このエントリをインターネットゲートウェイやNATに向けます。
実際の例(イメージ)
- 10.0.0.0/16 → local(同一VPC内)
- 10.0.1.0/24 → eni-abc(特定のネットワーク機器へ)
- 0.0.0.0/0 → nat-xyz(外向け)
これらを組み合わせて、期待する通信経路を明確にします。
ルートテーブルの関連付けと運用
概要
ルートテーブルはサブネット単位で関連付けて使います。関連付けがないサブネットにはVPC作成時に自動生成される「メインルートテーブル」が適用されます。
関連付けの基本
・1つのサブネットは1つのルートテーブルにのみ関連付けられます。複数のサブネットは同じルートテーブルを共有できます。
・新しいルートテーブルを作り、サブネットに明示的に関連付けることで挙動を変えられます。
公開/非公開の典型例
・パブリックサブネット:0.0.0.0/0をIGW(インターネットゲートウェイ)に向けるルートを持ちます。
・プライベートサブネット:デフォルトルートをNATゲートウェイに向け、外向き通信だけを許可します。
運用上の注意点
・ルート変更や関連付けの切替は即時反映されます。変更前に影響範囲を確認してください。
・ルートは最も具体的なプレフィックスが優先されます(/24より/16は一般的に広い)。
・誤った関連付けで通信が失われるため、テスト環境で動作確認を行ってから本番へ反映してください。
管理のヒント
・わかりやすい名前やタグを付け、用途(public/private、アプリ名、AZなど)を記録すると運用が楽になります。
・変更履歴を残し、ロールバック手順を用意しておくと安心です。
ルートテーブルの設定手順とCLI例
前提
簡潔に言うと、ルートテーブルはVPC内の通信ルールです。ここではコンソール操作とAWS CLIでの代表的な手順をわかりやすく説明します。例はプレースホルダ( など)を置いていますので、実環境のIDに置き換えてください。
コンソール操作の流れ
- VPCダッシュボードで「ルートテーブル」を選択し「作成」します。VPCを指定して保存します。
- 作成したルートテーブルを選び、ルートタブで「ルートの編集」→「ルートを追加」。0.0.0.0/0 をIGWに向けます(IGWは事前にアタッチ)。
- 「サブネットの関連付け」タブで該当サブネットを関連付けます。
CLI手順(例)
1) ルートテーブルの作成
aws ec2 create-route-table –vpc-id
→ 結果から RouteTableId を控えます(例 rtb-0123…)。
2) インターネットゲートウェイへデフォルトルート追加
aws ec2 create-route –route-table-id –destination-cidr-block 0.0.0.0/0 –gateway-id
3) サブネットとの関連付け
aws ec2 associate-route-table –route-table-id –subnet-id
補足と注意点
- IGWが未作成なら aws ec2 create-internet-gateway と attach を先に実行します。IDの確認は describe-* コマンドで行います。
- メインのルートテーブルを変更するとすべての未関連付けサブネットに影響します。必要に応じて個別に関連付けしてください。
セキュリティ・応用設計 ─ Transit Gatewayやピアリング接続
概要
VPCピアリングでは双方のルートテーブルに相互ルートを追加します。アクセスは最小権限で設計し、不要な通信を許可しないことが重要です。Transit Gateway(TGW)は多数のVPCやオンプレミスを一元管理でき、経路制御を柔軟に行えます。
VPCピアリングの設計ポイント
- ルート追加は双方向で行います。片方だけでは通信しません。
- セキュリティグループやネットワークACLでアクセスを絞ります。例えば管理用のみSSHを許可するなど具体的に制限します。
- CIDR重複を避けます。重複時はルートが競合して通信不能になります。
Transit Gatewayの活用例
- ハブ&スポーク:中央のTGWにVPCを接続し、経路テーブルで通信可否を制御します。
- 中央集約型のセキュリティ:トラフィックを検査用アプライアンス経由で送るルートを作成できます。
- オンプレ連携:VPNやDirect Connectと統合して単一の経路管理ができます。
設計の実務的ヒント
- TGWではアタッチメントごとにルートテーブルを作り、意図しないトラフィック分離を実現します。
- 重要な通信は明示的に許可し、デフォルトルートは極力与えません。したがって不要な横断を防げます。
- フローログやCloudWatchでルートの動作と異常を監視します。
注意点
- VPCピアリングは経路の中継(トランジティブ)をサポートしません。複数VPC間で中継が必要ならTGWを利用します。
- ルート変更は通信に直結するため、変更前に影響範囲を確認してください。
運用上の注意点とベストプラクティス
はじめに
ルートテーブルの誤設定は通信障害につながります。ここでは日常運用で気を付けるポイントと実践的な対策を丁寧に説明します。
よくあるトラブルと原因
- ルートの競合やオーバーラップ:広いプレフィックスが狭いものを上書きして意図しない経路に導くことがあります。
- デフォルトルートの誤指定:0.0.0.0/0を誤ってプライベートに向けると外部接続が遮断されます。
- 伝播設定ミス:Transit GatewayやVPNの伝播を誤ると不要な経路が追加されます。
サブネット設計の注意点(具体例)
- パブリック:0.0.0.0/0 → IGW。直接公開するリソースに適用します。
- プライベート:0.0.0.0/0 → NAT Gateway。内部からの発信を許可し受信は制限します。
例を想定して、常にどのサブネットがインターネット経由か明確にします。
変更管理と検証
- まずテスト環境で変更を検証します。実運用では段階的にロールアウトし、問題時のロールバック手順を用意します。
- 変更時は影響範囲をドキュメント化し、メンテナンス時間帯に行うと安全です。
監視・自動化・ドキュメント
- VPC Flow LogsやCloudWatchで通信状況を監視し、異常をアラート化します。
- ルートテーブルはInfrastructure as Code(例:CloudFormation/Terraform)で管理し、差分でレビューします。
- タグ付けと運用手順書(Runbook)を整備すると対応が速くなります。
トラブル時の簡易チェックリスト
- ルートテーブルのエントリ確認
- サブネットのアソシエーション確認
- セキュリティグループ/NACLのルール確認
- VPC Flow Logsで通信の有無確認
- 必要ならステージングで再現テスト
最後に
日常的な監視と自動化、変更前の検証を徹底すると障害を未然に防げます。運用ルールを定めて継続的に改善してください。
まとめ ─ ルートテーブルを活用したAWSネットワーク設計
背景と要点
AWSのルートテーブルは、VPC内と外部への経路を決める交通整理の役割を果たします。複数のルートテーブルを用途ごとに分けることで、公開系と非公開系の通信を明確に分離できます。
設計の基本方針
- 分離:パブリックとプライベートでルートを分け、不要な直通を避けます。したがって、WebはIGWへ、DBはNATや専用接続へ向けます。
- 簡潔性:ルートは必要最小限に絞り、冗長な経路を作らないようにします。
- 再利用性:同じポリシーのサブネットは同一ルートテーブルを使い、管理負荷を下げます。
運用上のポイント
- 変更はステージングで検証してから本番へ反映します。
- ルートテーブルはIaC(テンプレート)で管理し、差分を追跡します。
- タグや命名規則を整え、誰が何を変更したか分かるようにします。
実践チェックリスト
- パブリック/プライベートの分離ができているか
- 必要な経路だけが存在するか
- ルーティングの優先度(最長一致)を理解しているか
- 変更履歴とテスト手順が整備されているか
これらを踏まえ、用途とセキュリティ要件に応じてルートテーブルを計画・運用すると、安全で柔軟なクラウドネットワーク設計が実現できます。












