はじめに
本資料の目的
本資料は、Webサイトのリニューアルに関する手順と成功のポイントを、実務に役立つ形でまとめたものです。単なるデザイン変更にとどまらず、課題の解決や事業目標の達成を目的とした戦略的な進め方を示します。
サイトリニューアルとは
サイトリニューアルは、見た目の刷新だけでなく、情報設計、コンテンツの整理、技術的な改善、運用体制の見直しなどを含む包括的な作業です。ユーザーの利便性向上や成果(問い合わせ・購買・登録など)の改善を目指します。
誰に向けた資料か
- 企業の担当者(マーケティング、事業、広報)
- プロジェクトマネージャーやディレクター
- デザイナー・開発者
初めてリニューアルに関わる方にも、実務経験者にも役立つ内容を意識しています。
使い方
章ごとに工程を追って読んでください。自社の規模や目的に合わせて取捨選択し、チェックリストや注意点を実務に活かしてください。
サイトリニューアルの全体像と目的の明確化
リニューアルは何を達成するためか
サイトリニューアルは単なる見た目の変更ではありません。ユーザーの使いやすさ向上、問い合わせや購買の増加、運用負荷の軽減など、具体的な課題解決とビジネスゴール達成を目指すプロジェクトです。最初に「なぜリニューアルするのか」を明確にします。
目的を具体化する方法
目的は可能な限り定量化します。例えば「月間お問い合わせ数を20%増やす」「ページ滞在時間を30秒延ばす」「更新作業を半分に短縮する」などです。具体例を示すと、ECサイトならカート離脱率の低下、コーポレートサイトなら採用応募数の増加が目的になります。
関係者と目的の共有
社内(経営、営業、CS、IT)と外部(制作会社、マーケ担当)を早期に巻き込みます。関係者ごとに期待値が異なるため、目的と優先順位を文書で共有すると認識齟齬を防げます。ワークショップやキックオフで合意形成を図ります。
期待効果とKPI設定
期待する効果をKPIに落とし込みます。流入(訪問数)、行動(CTAクリック率、コンバージョン率)、体験(ページ速度、モバイル表示)、運用(更新時間、エラー件数)などを指標にします。短期・中期・長期で目標値を分けると管理しやすくなります。
スコープと制約の定義
全ページを刷新するのか、一部改修か、予算・期間・リソースの制約を明確にします。範囲を絞るほど成果を出しやすくなります。
最初にやること(チェックリスト)
- リニューアル目的を1〜2行で定義する
- 関係者リストと役割を決める
- 主要KPIを3〜5個に絞る
- 予算とスケジュールの目安を提示する
- 初期のユーザー調査・アクセス分析を予定に入れる
以上を起点に、具体的な現状分析と設計に進みます。
現状分析と課題抽出
概要
現状分析はリニューアルの基礎です。アクセス解析やユーザーアンケート、ヒートマップ、競合調査などで事実を集め、UI/UX、SEO、コンテンツ、導線、デザイン、機能の観点から課題を洗い出します。課題は定量データと定性データの両方で裏付けしてください。
調査手法(具体例)
- アクセス解析:PV、直帰率、離脱ページ、コンバージョン率を確認します。
- ユーザーインタビュー/アンケート:なぜ離脱するか、期待と実際のギャップを聞きます。
- ヒートマップ:クリック・スクロールの偏りを確認します。
- 競合調査:競合の導線や訴求ポイントを比較します。
観点別のチェック項目
- UI/UX:操作が分かりにくい場所、スマホでの使い勝手。
- SEO:主要キーワードでの掲載状況、メタ情報の最適化。
- コンテンツ:情報が古い・不足している・重複しているか。
- 導線:CTAの分かりやすさ、問い合わせまでのステップ数。
- デザイン:ブランド性、一貫性、視認性。
- 機能:フォームの不具合、読み込み速度、アクセシビリティ。
課題の優先順位付け
影響度(業績への影響)と実行難易度でマトリクス化します。高影響・低難易度は即対応、高影響・高難易度は段階的に計画します。各課題に対して改善後のKPIを設定し、効果を測定できるようにします。
進め方のポイント
- 事実に基づく課題化を優先します。感覚だけで判断しないでください。2. 小さく試して検証する習慣をつけます。3. ステークホルダー間で課題と優先度を合意して進めます。
具体例
例:ランディングページの離脱率が高い→ヒートマップでファーストビューに問題があると判明→CTAが目立たない、フォームが長い→優先度は高、まずフォーム簡略化とCTA強化を実施し、CVR改善を測定します。
目的・ゴール設定と戦略立案
目的を明文化する
まずリニューアルの目的を具体化します。例:CVR(問い合わせ率)の向上、ブランド認知の強化、SEOによる流入増加、運用負荷の軽減。目的ごとに得たい効果を一文で書くとぶれません(例:6か月で問い合わせ数を30%増やす)。
KGI・KPIの設定
KGI(最終成果)とKPI(途中指標)を決めます。例:KGI=月間問い合わせ数、KPI=流入数・直帰率・平均滞在時間・CTAクリック率。数値目標と計測方法を明記します。
ターゲット(ペルソナ)の再設定
主なユーザー像を複数作ります(年齢・職業・課題・情報接触経路)。具体例:30代製造業の営業、課題は製品選定の手間。ペルソナに基づく導線設計が重要です。
競合分析と差別化ポイント
競合サイトの強み・弱みを洗い出し、自社の優位点を整理します。価格・機能・導入事例・サポート体制などで差を出します。
Web戦略(情報設計・コンテンツ方針)
サイト全体の役割を決め、主要ページの目的とコンテンツ方針を定めます。例:トップは信頼獲得、製品ページは比較しやすさ、導入事例は具体的成果を示す。
実行計画と優先順位
短期・中期で取り組む項目を並べ、優先順位と必要リソースを明確にします。ローンチ後の測定計画もここで決めます。
測定と改善のルール
KPIの定期チェック頻度と改善サイクルを決めます。仮説→実施→検証のサイクルを回し、効果を数値で追います。
企画・設計フェーズ
チーム編成と役割分担
プロジェクトマネージャー(進行・調整)、情報設計者(IA)、デザイナー、開発者、コンテンツ制作者、運用担当、主要ステークホルダーをそろえます。各自の責任範囲を明確にし、週次ミーティングや意思決定ルールを決めて関係者を巻き込みます。
サイトマップ作成(情報構造の設計)
ターゲットごとに必要なページを洗い出し、階層を整理します。具体例:トップ/サービス/導入事例/料金/よくある質問/ブログ/お問い合わせ。ユーザーの動線を意識して主要導線と代替導線を決めます。
ワイヤーフレーム(ページ設計)
各ページで必要な要素(見出し・本文・画像・CTA・フォーム)を配置します。スマホ・PCでの表示を想定したレスポンシブ設計を作成し、クリックの流れを簡易プロトタイプで確認します。
原稿・素材準備
テキストは目的(購入・問い合わせ・認知)に合わせて作成し、図表や画像は解像度・ライセンスを確認します。動画やアイコンも事前にフォルダで管理し、代替テキストやメタ情報を整えます。
予算・スケジュールと制作会社選定
マイルストーン(要件確定・デザイン・開発・検証・公開)を設定し、余裕を見たバッファを入れます。制作会社は実績・技術力・コミュニケーション力・サポート体制で選び、見積もり・契約範囲(成果物・納期・保守)を明示して発注します。
デザイン・制作・開発
デザイン制作
ワイヤーフレームを基に、ブランドイメージと使いやすさを両立するビジュアル案を作ります。色やフォント、写真の使い方を具体的に決めます(例:コールトゥアクションはブランド色で目立たせる、本文は読みやすいフォントにする)。レスポンシブ設計を意識し、スマホ・タブレット・PCでの見え方を想定します。アクセシビリティも配慮し、コントラストや代替テキストを確認します。
コーディング・システム開発
デザイン確定後にHTML/CSS/JavaScriptで実装します。コンポーネント単位で作り、再利用性を高めます。CMS導入や既存データ移行が必要な場合は、管理画面の画面設計と権限設計も行います。パフォーマンス対策として画像の最適化や遅延読み込み(例:必要なときだけ画像を読み込む)を実施します。
動作確認・テスト
各種端末・ブラウザで表示と操作をチェックします(例:フォーム送信、決済フロー、メニューの挙動)。機能テスト、表示崩れやタップ領域の確認、SEOの基本チェック(title、meta、見出し構造、読み込み速度)を行います。ステージング環境で最終確認し、バックアップとロールバック手順を用意して公開準備を整えます。
公開・運用・改善
はじめに
リニューアル公開は終わりではなく新しい始まりです。公開前の準備、公開直後の監視、日々の運用と改善を丁寧に回すことで、長期的な成果につなげます。
公開前の最終チェック
- 技術面:SSL、リダイレクト(301)、リンク切れ、フォーム動作、ページ速度を確認します。バックアップとロールバック手順も用意します。
- 表示確認:主要ブラウザ・スマホでレイアウトと機能を実機でチェックします。
公開の手順
DNS切替やサーバ差し替えは業務時間外やアクセスが少ない時間帯に行います。段階公開(限定公開→順次公開)やメンテナンス表示を使うと安全です。関係者へ切替予定を事前連絡します。
初期監視と対応
公開後72時間は重点監視期間に設定します。エラーログ、サーバ負荷、コンバージョンの急変を確認し、問題発生時はロールバックや緊急対応フローを速やかに実行します。
運用体制の整備
担当者を明確にし、日次・週次のチェックリストと報告ルートを作ります。更新ルールやコンテンツ運用の手順書を整備し、自動バックアップやデプロイを導入すると負担が減ります。
効果測定と改善サイクル
KPI例:PV、CVR、滞在時間、直帰率、問い合わせ数。アクセス解析やヒートマップで課題を発見し、A/Bテストで改善を検証します。定期的に成果を評価し、優先順位を付けて対応します。
よくあるトラブルと対処
- ページ遅延:画像最適化やキャッシュ設定で改善します。
- フォーム不具合:ログ確認と再現手順で原因特定します。
- SEO変動:301リダイレクトやメタ情報を見直します。
最後に
公開・運用・改善を継続的に回すことが、サイトの成長と成果につながります。小さな改善を積み重ねていきましょう。
サイトリニューアルで失敗しないための注意点・成功のコツ
1) 関係者間の認識合わせを最優先にする
目的、ターゲット、KPIを早い段階で書面化し、関係者全員で共有します。例:売上向上、問い合わせ数増など具体値を入れておくとズレが減ります。
2) 現状分析と設計を省略しない
アクセス解析やユーザー行動の把握を丁寧に行い、課題を数値で示します。設計フェーズでワイヤーフレームやユーザージャーニーを作ると後戻りを防げます。
3) 要件定義は詳細に、優先順位を明確に
必須要件と欲しい機能を分け、フェーズごとに実装計画を立てます。スコープコントロールで納期遅延を防げます。
4) テスト計画と品質担保を徹底する
単体、結合、ユーザーテストを段階的に行い、想定外の表示崩れや動作不備を早期発見します。
5) 公開時のリスク対策と段階的公開
全体公開の前にステージングや限定公開で問題を洗い出します。公開直後はモニタリングを強化します。
6) コミュニケーションを密に保つ
定例ミーティング、進捗報告、決定事項の記録を習慣化します。責任範囲を明確にして意思決定を早くします。
7) 公開後の運用と改善設計
公開は終点でなくスタートです。指標を定期的に確認し、改善サイクルを回します。
代表的なサイトリニューアル手順(工程別)
1. 目的・課題整理
リニューアルの理由、解決したい課題、達成したい目標を明確にします。例:お問い合わせ数を月50件増やす、採用応募の質を上げる。
2. 現状分析
アクセス解析、競合調査、ユーザーインタビューで現状を把握します。具体例:直帰率や流入経路、競合の導線比較。
3. ゴール・戦略設計
KGI・KPIを設定し、ターゲットや導線、情報設計を決めます。例:トップ→製品紹介→お問い合わせの3クリック内に収める。
4. 体制構築/制作会社選定
プロジェクトリーダー、担当者を決め、外部パートナーの実績や相性で選びます。RFPや見積もり比較を行います。
5. 設計(サイトマップ等)
サイトマップ、ワイヤーフレーム、必要原稿・素材を準備します。優先度の高いページを先に作る計画にします。
6. デザイン・開発
デザイン案作成、コーディング、CMS構築を進めます。レスポンシブや表示速度の確認も行います。
7. テスト・確認
動作確認、ブラウザ・デバイスチェック、SEO、セキュリティ、入力フォームの動作を最終確認します。
8. 公開・運用開始
サイト公開後は効果測定を継続し、改善を繰り返します。アクセス変化やCVRを週次・月次でレビューします。












