はじめに
読者の皆さまへ
ハンドメイド作品を制作・販売する皆さまへ。本記事は在庫管理が苦手な方や、これから整えたい方に向けて書きました。日々の制作と販売を両立しやすくするために、実践的でわかりやすい方法をやさしく解説します。
本記事の目的
在庫の過不足を減らし、材料や時間の無駄を防ぐことが目的です。具体的には在庫の記録方法、簡単なツールの使い方、複数ショップやイベント出品時の注意点まで扱います。日々の作業負担を少しでも軽くする手助けを目指します。
対象読者
個人でハンドメイドを販売している初心者〜中級者向けです。忙しくて細かい管理ができない方、売上や制作数をもう少し正確に把握したい方に役立ちます。
読み方のポイント
本書は基礎から応用、実践へと進みます。第2章で在庫管理の重要性を確認し、第3章以降で具体的な手順やツールを試してください。すぐに実行できるチェックリストも用意しますので、日常の作業に少しずつ取り入れてください。必要な部分だけを拾って読むこともできます。
ハンドメイドにおける在庫管理の重要性
なぜ在庫管理が重要なのか
ハンドメイド作家にとって在庫は「作品を作るための命」です。材料が不足すると制作が止まり、売りたいタイミングで商品を出せません。逆に材料や完成品が余ると保管コストや劣化のリスクが増え、無駄な出費になります。正確な在庫管理は制作計画と販売計画を両立させ、安定したものづくりとビジネスの基盤を作ります。
在庫不明が招く具体的なリスク
- 材料不足で受注に応えられない(例:人気商品を作る糸が足りない)
- 過剰仕入れで資金が滞留する(例:ビーズを大量に買いすぎて使い切れない)
- 複数チャネルでの二重販売(例:ネットとイベントで同じ一点を売ってしまう)
- 売上や原価の把握が曖昧になり、価格設定や利益管理が難しくなる
複数ショップ・イベント出品時の注意点
複数チャネルで販売すると在庫の重複や同期ミスが起こりやすくなります。小さな工房ほど、手作業での更新忘れが命取りです。出品前後に必ず在庫を確定し、売れたらすぐに記録する運用が重要です。
在庫管理がもたらすメリット
正しく管理すれば、制作の無駄を減らし機会損失を防げます。製作スケジュールが立てやすくなり、顧客への納期回答も安定します。さらに、原価管理がしやすくなり、利益改善につながるという利点もあります。
次章では、実際に取り組める在庫管理の基本ステップを具体的に説明します。
在庫管理の基本ステップ
1)一覧表を作る
材料と完成品それぞれに一覧表を用意します。項目例:商品名、型番、在庫数、補充予定日、安全在庫数、保管場所、メモ。たとえば「ピアス金具(フック)|在庫30|安全在庫10|保管:引き出しA」。紙でもExcelでも始められます。
2)安全在庫と補充タイミングを決める
安全在庫は販売や制作の急な需要に備える予備数です。平均販売数や制作ペースから設定します(例:週に3個売れるなら安全在庫10〜12個)。在庫が発注点(再注文点)を下回ったら補充するルールを作ります。
3)売れ行きデータで仕入れ量を最適化
販売履歴を定期的に集計し、季節変動や人気商品の推移を確認します。直近3か月の平均販売数を基に発注量を決め、過剰在庫を避けます。イベント前は多めに準備するなど調整します。
4)保管場所を明記して管理する
材料と完成品の保管場所を一覧に記録し、ラベルを付けます。写真を添えると分かりやすくなります。出庫や制作で使った分はその都度記録し、差異が出たら原因を確認します。
これらの基本を習慣化すると、欠品や過剰在庫を減らし制作計画が安定します。
在庫管理の方法とツール比較
手書き・紙の台帳
最もシンプルで始めやすい方法です。写真を台帳に貼ったり、作品番号(SKU)を振ると探す手間が減ります。ただし検索や数の集計に時間がかかるため、定期的な棚卸しを習慣化してください。
Excel・印刷した台帳
数式やフィルターで集計ができ、コストが低いのが利点です。写真は別フォルダで管理すると分かりやすくなります。操作は自分で管理するため、誤入力に注意が必要です。
Googleスプレッドシート
クラウドで複数端末から更新でき、売上や仕入れも一元管理できます。オート保存でデータ消失リスクを下げ、スマホからも編集可能です。テンプレートを作ると手間が減ります。
専用アプリ
スマホでリアルタイム更新、バーコード読み取りや売上の自動記録、ダッシュボードで可視化できます。作業時間を大幅に短縮できる反面、月額費用や学習時間がかかります。おすすめ例:MonoC(モノシー)、サッカノカンリ、sellerbook、NoteIt。
ネット販売プラットフォーム連携
minne・Creema・BASEなどは在庫連動や複数サイト同時出品の管理機能があります。在庫の二重販売を防げるため、複数チャネルで売る場合に便利です。
ツール選びのポイント
使いやすさ、コスト、連携のしやすさ、バックアップ機能を比較してください。まずは簡単な方法から始め、必要に応じて段階的に移行すると失敗が少なくなります。
複数ショップ・イベント出品時の在庫管理
在庫の同期と優先順位
複数サイトや実店舗、イベントで同時に販売する場合は、在庫の二重販売を防ぐために“中央の在庫台帳”を作ります。GoogleスプレッドシートなどでSKU(商品コード)と総在庫数、各チャネルの割当数を管理します。イベント用には一定数を“保留(reserve)”しておき、オンラインと重複しないよう優先順位を決めます。
受注生産と完成品販売の違い
受注生産なら材料在庫のみ管理すれば在庫リスクが低くなります。完成品を複数チャネルで売るときは、各ショップの販売スタイル(即納重視/予約可など)に合わせて公開在庫を調整します。例えば、即納を重視するサイトでは多めに割り当て、予約可のサイトでは在庫を絞るといった運用が有効です。
受注販売での工夫
材料が少ないときは販売チャネルを限定公開します。公開数を『1』にして注文後に制作する旨を明記すると誤発注を防げます。また、受注締切日を設けて複数の注文をまとめて制作する方法も効率的です。
イベント出品時の注意点
持ち運ぶ在庫リストと売れ筋を事前に作ります。会場での販売は手作業が増えるため、在庫減少は即時に中央台帳へ反映します。イベント終了後は必ず全チャネルの在庫を突合して差異を修正します。
実用的な運用フロー(例)
- 中央在庫台帳で総在庫を管理
- 各チャネルに割当数を入力
- 売上発生時に割当から差し引く
- イベント用は事前に保留設定
- 週次で在庫を照合し補充や調整を実行
この流れを決めておくと、販売チャネルが増えても混乱を減らせます。
在庫管理を効率化するコツとよくある悩み
はじめに
在庫管理を効率化するコツを、日常ですぐ実践できる順に紹介します。具体例を交えて、よくある悩みとその対処法も丁寧に解説します。
コツ1:売れ行きデータで必要量だけ仕入れる
・過去3〜6か月の販売数を月平均で出します。たとえば月5個なら安全マージンを含め6〜7個を目安に在庫を持ちます。
・季節商品は季節ごとのデータを分けて管理してください。
コツ2:安全在庫数を設定する
・配送遅延や急な注文に備え、最低限持つ数を決めます(例:人気商品は週2〜3個分)。
コツ3:定期的な棚卸しを習慣にする
・年末だけでなく、月次や四半期で実施すると管理精度が上がります。実際の在庫と記録の差が見つかったら原因を記録して対策を立てます。
コツ4:デジタル化と自動更新を活用する
・在庫自動更新機能付きのアプリや販売サイトを使うと手作業ミスが減ります。バーコードや写真で管理すると検索や集計が楽になります。
よくある悩みと対処法
・悩み:在庫切れが頻発する。 → 対処:安全在庫を見直し、入荷リードタイムを記録して発注タイミングを前倒しします。
・悩み:過剰在庫で資金が滞る。 → 対処:値引きセールやセット販売で回転を早め、次回から発注数を減らします。
・悩み:手作業で記録ミスが起きる。 → 対処:簡単なアプリに移行し、自動更新と履歴保持を使って修正履歴を残します。
実行チェックリスト(すぐできる)
- 過去3か月の販売履歴を集める
- 各商品に安全在庫数を設定する
- 月1回の棚卸し日を決める
- 自動更新機能のあるツールを試す(無料版でOK)
日々の小さな習慣と、ツールの活用で負担は大きく減ります。これらを順に試してみてください。
まとめ:ハンドメイド作家の在庫管理は「仕組み化」と「デジタル化」がカギ
在庫管理は作品づくりと販売の土台です。正確な在庫があれば、注文対応や材料発注がスムーズになり、売り逃しや過剰在庫を防げます。
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ツールは自分に合ったものを選びます。まずはExcelやGoogleスプレッドシートで始め、慣れたら専用アプリや販売サイトの在庫連携に移行すると負担が減ります。簡単な目安として「作品番号(例:A-001)」を付けると管理が楽です。
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日々のルーティンを作ります。制作後や出荷前に在庫を更新し、週に一度は全数確認する習慣をつけます。イベント出店時は持ち出しリストと写真を用意し、売れた分はすぐ反映します。
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複数ショップ・イベント運営では『どこで何を売るか』を明確にします。受注生産は在庫負担が少なく、完成品販売は即時発送で顧客満足度が上がります。取り扱い方法を販売チャネルごとに決めておくと混乱を防げます。
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自動化や連携を取り入れると効率が上がります。たとえば、販売サイトとスプレッドシートを連携すると手入力ミスが減ります。しかし、完全自動化に頼らず、定期的な目視確認も続けてください。
まずはシンプルな仕組みを作り、少しずつデジタル化していくと無理なく続けられます。継続が成功の秘訣です。












