はじめに
本書の目的
この章では、この記事全体の目的と読み方をやさしく説明します。本書は、Vue.jsをCDN(Content Delivery Network)経由で手早く使いたい方に向けた入門ガイドです。開発環境を用意せず、HTMLファイルに直接組み込んで動きを付けたいときに役立ちます。
対象読者
- 初めてVue.jsに触れる方
- ローカルで環境構築せずに試したい方
- 静的ページに簡単なインタラクションを追加したい方
本書で学べること
- CDNとは何かとその利点・欠点
- CDNでのVue.jsの導入方法と実装例
- Vue Routerなどとの連携や注意点
前提知識
基本的なHTMLと少しのJavaScriptの理解があると読みやすいです。すぐに試せるサンプルも用意しますので、手を動かしながら学べます。
CDNとは何か、Vue.jsをCDNで使う理由
CDNとは
CDN(コンテンツ・デリバリー・ネットワーク)は、世界に分散したサーバーからファイルを届ける仕組みです。ユーザーに近いサーバーから配信するため、読み込みが速く安定しやすいです。ブラウザは同じファイルを複数のサイトで使うとキャッシュを共有できます。
Vue.jsをCDNで使う理由
- 環境準備が不要:Node.jsやビルドツールを入れずに、HTMLにタグを追加するだけで動きます。既存のランディングページや静的サイトにちょっとした動きを加えたいときに便利です。
- すぐ試せる:新しい機能を試す際、ローカルでプロジェクトを作らずに検証できます。学習やプロトタイプに向きます。
- 最新版を手軽に利用:CDNで指定するバージョンを変えるだけでアップデートできます。
注意の簡単な補足
大規模なアプリではビルドや最適化が必要です。その場合は後でバンドラを使うことをおすすめします。
代表的なCDN例
例:
CDNによるVue.jsの実装例
使い方の概要
HTMLにタグでVueを読み込み、そのままJavaScriptでVueのAPIを使えます。ここでは手軽な2つの例を示します。
例1:UMDビルド(手軽に始める)
以下は最も簡単な形です。特別なビルド作業は不要で、そのまま開いて動作します。
<!doctype html>
<html>
<body>
<div id="app">
<p>{{ message }}</p>
<button @click="update">変更</button>
</div>
<script src="https://unpkg.com/vue@3/dist/vue.global.js"></script>
<script>
const { createApp, ref } = Vue;
createApp({
setup(){
const message = ref('こんにちは、CDN版Vue!');
function update(){ message.value = 'ボタンが押されました'; }
return { message, update };
}
}).mount('#app');
</script>
</body>
</html>
例2:ESモジュール(モダンな書き方)
モジュールを使える環境では、個別にimportして書けます。ファイル分割やモジュール感覚で書きたいときに向きます。
<script type="module">
import { createApp, ref } from 'https://unpkg.com/vue@3/dist/vue.esm-browser.js';
const App = {
setup(){
const count = ref(0);
return { count, inc: ()=> count.value++ };
},
template: `<div><p>{{count}}</p><button @click="inc">+</button></div>`
};
createApp(App).mount('#app');
</script>
補足と使い分け
UMDは手早く試すのに向きます。ESモジュールは保守や分割に適しています。どちらもCDN経由で手軽にVueを使える点が利点です。
Vue Routerなど他ライブラリとの連携
はじめに
CDN版のVueは、Vue RouterやVuex、Axiosなどを同じくCDNで読み込んで連携できます。手軽にSPA的な機能や状態管理、API通信を追加できます。
読み込み順と注意点
グローバル変数(例: Vue, VueRouter)の存在を確認し、Vue本体のあとにプラグインを読み込みます。読み込み順が逆だと動作しません。
Vue 2 + Vue Router(CDN例)
<script src="https://cdn.jsdelivr.net/npm/vue@2"></script>
<script src="https://cdn.jsdelivr.net/npm/vue-router@3"></script>
<script>
Vue.use(VueRouter)
const Home = { template: '<div>Home</div>' }
const router = new VueRouter({ routes:[{path:'/',component:Home}] })
new Vue({ el:'#app', router })
</script>
router-viewとrouter-linkでページ遷移できます。
Vue 3 + Vue Router(CDN例)
<script src="https://cdn.jsdelivr.net/npm/vue@3"></script>
<script src="https://cdn.jsdelivr.net/npm/vue-router@4"></script>
<script>
const Home = { template:'<div>Home</div>' }
const router = VueRouter.createRouter({ history: VueRouter.createWebHashHistory(), routes:[{path:'/',component:Home}] })
const app = Vue.createApp({})
app.use(router)
app.mount('#app')
</script>
他ライブラリとの併用
VuexやPinia、AxiosもCDNで追加できます。例: Axiosはグローバルにaxiosとして使えます。順序と互換性を確認してから組み合わせてください。
バージョン互換の確認
VueとRouterのメジャー版を合わせることが重要です。公式ドキュメントの対応表を参照し、ブラウザのコンソールでエラーが出ないか必ず確認してください。
CDN利用のメリット・デメリット
概要
CDNでのVue利用は手軽さが最大の特徴です。ここでは、具体的な利点と注意すべき欠点を分かりやすく説明します。
メリット
- 開発環境が不要
- HTMLとJavaScriptだけで動かせます。ブラウザでファイルを開くだけで試せるので、学習や概念実証に便利です。
- 既存サイトへの組み込みが容易
- 部分的に動きを足したい時(フォームのバリデーションやモーダル、軽いコンポーネント追加)に向きます。既存の静的ページへ一箇所スクリプトを追加するだけで済みます。
- 最新版がすぐ使える
- CDNは比較的新しいバージョンが配信されます。新機能をすぐ試したい場合に助かります。
デメリット
- 大規模開発には不向き
- ビルドやテスト、モジュール管理が必要な場合、CDNだけでは対応しにくいです。複雑なアプリではビルド環境を整える方が効率的です。
- 学習用途でも注意が必要
- 基礎は早く学べますが、実務で必要なビルドや最適化の知識は身につきにくいです。
- 依存管理とパフォーマンス最適化が難しい
- バージョン固定をしていないと意図せず更新される可能性があります。また、不要な機能まで読み込むことで読み込みが遅くなる場合があります。
対策例
- URLでバージョンを明示する、ローカルにフォールバックする、SRI(整合性チェック)を使うなどで安全性と安定性を高められます。
短くまとめると、CDNは手早い試作や既存サイトへの段階的導入に最適です。しかし、長期で大規模な開発ならビルド環境を検討してください。
CDN版Vue.jsの具体的活用例
概要
CDN版のVue.jsは、既存サイトに素早くインタラクションを追加するのに向いています。ここでは具体的な活用例を3つ、やさしく説明します。
1. 既存Webサイトへのちょい足し
LPやWordPressの静的HTMLにモーダル、カウンター、簡易バリデーションを追加できます。ファイルを置き換えずにを読み込み、特定の要素にマウントするだけで動きます。例:ボタンで開くモーダルや、クリックで増えるカウンターは数行で実装できます。
2. 検索機能の拡張(Kintoneなど)
リストをリアルタイムに絞り込むUIを簡単に作れます。入力欄にv-modelで文字をバインドし、computedで部分一致フィルタを作るだけです。Kintoneのカスタムビューに組み込めば、1文字検索や絞り込みが高速に動作します。
3. 単一ファイルコンポーネント(SFC)のCDN利用
vue3-sfc-loaderのようなライブラリで、.vueファイルを実行時に読み込めます。ビルド不要のプロトタイプや外部提供コンポーネントの読み込みに便利です。注意点はCORS設定や読み込み速度です。
活用のコツ
- 小さな機能から導入し、動作確認を重ねてください。
- パフォーマンスが気になる箇所は後でビルド導入を検討してください。
短時間で使える利便性がCDN版の強みです。
CDN利用時の注意点
CDNでVueを使うときは、いくつかの注意点を押さえておくと安全で安定します。
1) Vueのバージョンは明示する
必ずバージョンを指定してください。例: https://cdn.jsdelivr.net/npm/vue@3 や https://cdn.jsdelivr.net/npm/vue@2。バージョンを固定すると、予期しない破壊的変更を防げます。
2) 開発環境の検討
小さなページや試作ならCDNで十分です。本格的なSPAや大規模サイトは、ローカルのビルドやモジュール管理(Webpack/Vite)を使うことをおすすめします。ビルドで最適化やツリーシェイクが行えます。
3) 依存ライブラリの読み込み順
Vue RouterやVuexなどを使う場合は、対応するバージョンをCDNで同時に読み込み、正しい順序で読み込んでください。バージョン不一致はエラーの原因になります。
4) 本番向けのスクリプトとセキュリティ
本番では圧縮・最適化されたビルドを使い、SRI(integrity属性)やCORS設定、コンテンツセキュリティポリシーを確認してください。
5) キャッシュとフォールバック
CDNは高速ですが、万が一の配信停止に備えローカルフォールバックを用意すると安心です。またキャッシュ破棄のためにバージョン管理を行ってください。
以上を守ると、CDNでの導入がより安全で運用しやすくなります。
まとめ:どんな人におすすめか
CDN版Vue.jsがおすすめの人
- Node.jsやnpmを使わず、手早く動きを追加したい方。例:既存の会社サイトにモーダルやちょっとしたインタラクションを付ける場面。
- サイトの一部だけに動きを付けたい場合。例:ブログの“いいね”ボタンや簡単なフィルター機能。
- プロトタイプやデモを短時間で作るとき。環境準備に時間をかけたくない場合に便利です。
ローカル環境(ViteやVue CLI)をおすすめする人
- 本格的にVue.jsを学びたい方や、将来大規模なアプリを作る予定がある方。
- コンポーネント分割、型チェック(TypeScript)、自動テスト、細かいビルド最適化が必要な場合。
- チーム開発でパッケージ管理やバージョン固定が重要な場合。
短い指針
手早く追加したい・環境がない場合はCDNを選んで問題ありません。長期的に拡張する予定があるなら、最初からViteやVue CLIで開発環境を整えると後で楽になります。用途と将来の計画を基準に選んでください。












