はじめに
本資料の目的
本資料は、AWS(Amazon Web Services)のコスト計算について、実務で使える形で丁寧に解説することを目的としています。従量課金の特徴や料金項目の違いを押さえ、試算・比較・最適化ができるようにします。
対象読者
- AWSをこれから使う個人やチームの担当者
- 見積りや運用コストを把握したいエンジニアやプロジェクトマネージャー
- コスト削減の方針を立てたい経営層
本資料で学べること
- 料金構成の基本と考え方
- 公式ツール「AWS Pricing Calculator」の使い方(第3章)
- サービス別の主要なコスト要素と具体例
- 試算時の注意点とコスト最適化のコツ
読み方の提案
章を順に読むと理解が深まります。まずは第2章で基本を押さし、第3章でツール操作を試してください。実際の試算は小さなユースケースから始めると失敗が少ないです。
AWSのコスト計算が必要な理由と基本仕組み
なぜコスト計算が必要か
AWSは従量課金が基本で、使った分だけ請求されます。サーバーやストレージ、データ転送など項目が細かく分かれており、構成や使い方で料金が大きく変わります。導入前に試算しないと予想外の支出が発生しやすく、導入判断や予算管理、経営計画が難しくなります。
従量課金の基本仕組み
料金は「単価 × 使用量」で決まります。たとえばサーバーは「時間単位の料金 × 利用時間」、ストレージは「GB単価 × 保存容量」、データ転送は「GB単価 × 転送量」となります。APIコール数やIO数で課金されるサービスもあります。
主な課金要素(具体例)
- コンピューティング(例:インスタンス時間、vCPU数、メモリ)
- ストレージ(例:容量、IOPS、保存期間)
- ネットワーク(例:アウトバウンド転送量)
- マネージドサービス(例:リクエスト数、同時接続数)
料金が変わる主な要因
リージョン、インスタンスタイプ、課金モデル(オンデマンド/予約/スポット)、稼働時間やデータ保存期間で価格が変わります。小さな設計変更で月額が大きく変わるため、事前試算で複数パターンを比較してください。
事前試算で得られる効果
- 導入可否の判断材料が得られる
- 予算やコスト管理がしやすくなる
- コスト最適化の余地が見える化される
次章では、AWS公式の試算ツールの使い方を実例で解説します。
AWSコスト計算の公式ツール「AWS Pricing Calculator」の使い方
概要
AWS公式の見積もりツールです。想定するサービスと条件を入れると、月額・年額の概算が得られます。無料で利用でき、レポート出力や共有も可能です。
手順(ステップごと)
- 対象サービス選択
- EC2、S3、RDSなど利用予定のサービスを選びます。例:WebサーバーはEC2、ログ保管はS3。
- 構成・条件入力
- インスタンスタイプ(例:t3.medium)、リージョン(例:アジアパシフィック(東京))、台数、稼働時間(例:24時間×30日)、ストレージ容量、データ転送量などを入力します。
- 見積もり結果の確認
- サービスごとに月額・年額の内訳が表示されます。ReservedやSavings Planを適用した場合の差も確認できます。出力はPDFや共有リンクで保存可能です。
- シナリオ比較
- 複数の見積もりを作成し、構成変更のコスト差を並べて比較できます。コスト削減案を検討するときに便利です。
実務での小さなコツ
- 入力は実運用に近い前提を使う(稼働時間や転送量を過大/過小にしない)。
- タグや環境別に見積もりを分けると把握しやすいです。
- データ転送やスナップショットなど見落としやすい項目を忘れず入力してください。
よくある間違い
- デフォルト値のまま使ってしまう、リージョンを誤る、IOPSやスナップショット費用を見逃す、の3点に注意してください。
サービス別コスト要素と具体的な計算例
Amazon EC2
コスト要素:インスタンスタイプ(1時間あたり料金)、稼働時間、ルート・追加ストレージ(EBS)、データ転送(アウト)、リージョン差。
例:仮にt3.mediumを720時間稼働($0.0416/時想定)、EBS gp3 100GB($0.08/GB/月想定)、データ転送アウト200GB($0.09/GB想定)なら:
– インスタンス:0.0416×720 ≒ $30
– ストレージ:0.08×100 = $8
– 転送:0.09×200 = $18
合計:約$56/月(概算)
Amazon S3
コスト要素:保存容量(GB/月)、リクエスト数(PUT/GETなど)、データ転送、アクセス頻度に応じたストレージクラス。
例:標準ストレージ200GB($0.023/GB想定)、データ転送50GB、リクエスト合計の小額を加算すると、
– 容量:0.023×200 = $4.6
– 転送:0.09×50 = $4.5
合計およそ$10〜$15/月(アクセス状況で変動)
CloudFront
コスト要素:エッジからのアウトバウンド転送量、リクエスト数、地理別料金。
例(簡易):月間500GB転送+1,000万リクエストで約$50/月(転送が主因、リクエストは小額)
Application Load Balancer(ALB)
コスト要素:稼働時間(時間単位課金)とLCU(Load Capacity Unit)利用量。LCUは同時接続数や新規接続、転送量などを総合した指標です。
例:720時間稼働、2LCU利用で約$27.72/月(概算)
各数値は地域や最新料金で変わります。試算時は実際のリージョンと料金表で確認してください。
コスト試算時に注意すべきポイント
リージョンごとの料金差
利用するリージョンを正確に選んでください。東京リージョンと他リージョンでは同じサービスでも料金が変わります。例:データ転送やインスタンスの価格が違うため、利用予定のユーザー所在地や法規制を踏まえてリージョンを決めると見積りが現実的になります。
課金単位の違い
サービスごとに課金の単位が異なります。EC2は時間や秒単位、EBSはGB・IOPS、S3は保存容量とリクエスト数で課金されます。短時間で起動・停止する設計だと秒課金の影響が大きくなりますので、想定の稼働パターンで試算してください。
無駄なリソースの排除
不要なインスタンスや未使用のボリューム、過剰なライセンスは無駄になります。利用頻度の低いバッチ処理はスポットインスタンスへ移す、古いスナップショットを削除するなど具体的な整理を試算前に行うと見積りが下がります。
見積もりの定期的な見直し
サービス追加や利用状況は変化します。四半期ごとや重要な変更時に見直しを行い、実績と試算の差をチェックしてください。アラートや予算上限を設定すると予算超過の早期発見につながります。
コスト最適化・削減のコツ
リザーブドインスタンスとSavings Plansの活用
長期利用するリソースは割引プランで費用を下げます。例:1年または3年コミットで大幅に安くなるため、本番サーバーに適用すると効果的です。Savings Plansはインスタンスファミリーをまたいで使える柔軟さがあります。
自動スケーリングとスポットインスタンスの活用
負荷に応じて台数を増減する自動スケールで無駄を減らします。スポットは一時的な処理やステートレスなバッチに向き、コストを大幅に下げられます。中断対策(チェックポイント等)を必ず用意してください。
不要なリソースの停止・削除
アイドル状態のインスタンス、未使用のEBSボリューム、未割当のElastic IP、古いスナップショットは定期的に確認して削除や停止を行います。開発環境は使用時間で停止するスケジュール化が有効です。
ストレージとバックアップの最適化
S3のライフサイクルで自動的に階層化し、アクセスが少ないデータは低コストクラスへ移行します。EBSは必要性能に合わせたボリュームタイプ(gp3等)に変更します。
モニタリングとガバナンス
Cost ExplorerやBudgetsでアラートを設定し、月次でコストをレビューします。Compute OptimizerやTrusted Advisorでリソースの見直し提案を受け取り、タグ付けで費用帰属を明確にします。
小さく始めて検証する習慣
まずは一部環境で節約策を試し、効果を測定してから全体に展開します。自動化スクリプトやIaCで運用を標準化すると長期的に安定して削減できます。
よくある課題と対策
AWSコスト計算でよく直面する課題と、実務で使える対策を分かりやすくまとめます。
1) 料金体系が複雑で把握しづらい
課金要素がサービスごとに異なり、見落としやすいです。対策としては、AWS Pricing Calculatorや公式料金ページでサービスごとに項目を確認します。具体的には、利用時間・データ転送量・ストレージIOなどを個別に書き出すと見落としが減ります。
2) 初めての見積もり手順が分からない
初回は構成を簡素化して試算します。まず最低限の構成(EC2インスタンス、ストレージ、バックアップ、ネットワーク)で見積もりを作り、利用想定を段階的に増やしていくと予測しやすくなります。必要ならクラウドの専門家に相談してください。
3) 小さな課金の見落とし
ログ保管、スナップショット、監視アラームなどで細かい費用が積み上がります。定期的に請求明細を確認し、用途不明なリソースは削除します。
4) リソースの過剰配置
性能余裕を大きく取りすぎると無駄が出ます。まず小さめに始め、モニタリングで実績に基づきサイズを調整します。
5) タグ運用が不十分
コスト帰属が難しいと予算配分ができません。プロジェクト・担当・環境を表すタグをルール化し、請求レポートで集計できるようにします。
まとめとおすすめの進め方
要点まとめ
- 公式ツールで見積もりを始めると正確性が上がります。
- サービスごとの課金要素(例:EC2は時間・インスタンスタイプ、S3は保存量と転送)を把握してください。
- リージョン差や利用頻度で料金が変わります。割引(リザーブド/ Savings Plans)も検討してください。
- 定期的な見直しと監視で無駄を減らせます。
導入前の具体的手順
- 要件(負荷・保存量・可用性)を明確にする。
- AWS Pricing Calculatorで試算する。
- 想定シナリオ(通常時・ピーク時)で複数プランを比較する。
- 割引や運用ルールを決めて見積もりを確定する。
運用中に行うこと
- コストアラートと定期レポートを設定する。
- 未使用リソースを削除し、サイズを調整する。
- 大きな変更時は必ず再試算する。
支援を活用するタイミング
- 見積が複雑、または節約効果を最大化したいときは専門家やパートナーに相談してください。
最後に
まずは小さく試して見積もりと運用を回し、定期的に最適化する習慣をつけると安心です。












