はじめに
本書の目的
本記事は、AWS(Amazon Web Services)環境で負荷テストを行う際の基本と実践手順をわかりやすく解説します。負荷テストの意義、AWS公式ツールやサードパーティ製品の使い方、具体的な手順、注意点やベストプラクティスまでを網羅します。
想定読者
- 開発チームや運用チームで負荷テストを担当する方
- クラウド環境でサービスの安定性を確かめたい方
- 負荷テストの導入を検討しているプロジェクトマネージャー
専門用語は最小限にし、具体例を交えて説明しますので、初めての方でも読み進めやすい内容です。
この記事で得られること
- AWSで負荷テストを行う意義と基本的な考え方
- AWS公式ツール「Distributed Load Testing on AWS」の概要と使い方
- OSSや商用ツールの活用法と選び方
- 実際のテスト手順(環境準備、シナリオ作成、実行、結果確認)
- 負荷テスト時の注意点と運用面のベストプラクティス
読み方の提案
まず第2章で基本を押さえ、第3〜5章でツールと具体手順を学んでください。第6章で実運用に向けた注意点を確認すると、実務で使いやすくなります。
AWSで負荷テストを行う意義と基本
1. なぜ負荷テストが必要か
AWS上のサービスは自動で拡張する仕組みを使いますが、想定外の負荷や設定ミスで性能低下や障害が起きます。負荷テストでユーザー数やアクセス波を模擬し、ボトルネックやエラー発生の条件を事前に見つけられます。運用中のトラブルを減らし、適切なリソース配分につながります。
2. 負荷テストの種類(わかりやすく)
- 負荷テスト:通常想定されるアクセス量を流して性能を確認します(例:同時1,000ユーザー)。
- ストレストテスト:限界まで負荷を上げて、どこで壊れるかを見ます。
- スパイクテスト:急にアクセスが増える場合の影響を評価します。
- 耐久(ソーク)テスト:長時間の負荷でメモリリークなどを確認します。
3. 基本の指標と見方
- 応答時間:ユーザーが感じる速度。平均だけでなく95パーセンタイルを見ます。
- スループット:秒あたりの処理数(リクエスト/秒)。
- エラー率:失敗の割合。小さく保つ必要があります。
- リソース指標:CPU、メモリ、ネットワーク、I/O。
4. シナリオ設計のポイント
実際のユーザー行動を簡単なステップで再現します。ログやアクセス解析から頻出パスを抽出し、ピーク時間や静かな時間帯の両方で試します。データは本番に近づけますが、個人情報は使わないでください。
5. AWSならではの注意点
オートスケーリングやロードバランサーの挙動、スロットリング設定が結果に影響します。また、負荷発生に伴う課金があるため、テスト計画でコストを管理します。
6. 最初の一歩
小さなシナリオで短時間試し、指標とリソースの関係を確認します。問題が見つかったら原因を絞って再試行します。
AWS公式ツール「Distributed Load Testing on AWS」の使い方
概要
Distributed Load Testing on AWSは、複数の生成ノードで負荷を分散して大量トラフィックをシミュレーションする公式ツールです。Webコンソールから簡単にテストを作成でき、実行中にリアルタイムで状況を確認できます。
セットアップ(準備)
- AWSコンソールでサービスを開きます。
- 必要なIAM権限とS3バケット(テストスクリプト置き場)を用意します。
- VPCやセキュリティグループでターゲットへの通信を許可します。
テスト作成手順(Webコンソール)
- 「CREATE TEST」を押します。
- テスト名とターゲットURLを入力します。
- Task Count、Concurrency、Ramp Up、Hold Forなどを設定します。
パラメータの意味と具体例
- Task Count: 生成ノード数。例:5
- Concurrency: 1ノードあたりの同時実行数。例:200(5×200で最大1000同時接続)
- Ramp Up: 最大負荷に到達する時間。例:5分
- Hold For: 最大負荷を維持する時間。例:10分
この設定なら5分で最大負荷に達し、10分間その状態を維持します。
実行中のモニタリング
Webコンソールでレスポンスタイム、エラー率、生成ノード別の負荷を確認できます。必要なら途中で停止して設定を調整します。
結果の読み方と注意点
実行後はレスポンスタイム分布、最大値、リクエスト総数などのレポートが出ます。ピーク時のエラーやボトルネック指標を優先して確認してください。テストは実環境に負荷をかけるため、時間帯やユーザーへの影響を事前に通知してください。コストが発生する点にもご注意ください。
サードパーティ/OSS負荷テストツールの活用
概要
AWS上の負荷テストでは、JMeterやk6(旧Load Impact)などの外部ツールがよく使われます。これらは細かいシナリオ設定やスクリプト共有が得意で、実運用に近い負荷を再現しやすいです。
主なツールと特徴
- JMeter:GUIで扱いやすく、細かい設定が可能。無料で豊富なプラグインあり。大人数の同時接続は分散実行で対応。
- k6:コード(JavaScript)でシナリオを書く。クラウド版はリージョン指定が可能で、日本国内ユーザーの再現に便利。無料〜有料プランでスケールする。
- Gatling:Scalaベースで高性能。ログが詳細で自動化パイプラインに組み込みやすい。
- Locust:Pythonでシナリオを記述。軽量で分散実行に向く。
AWSでの活用ポイント
- 実行基盤:EC2やECSで負荷生成ノードを立てる。コンテナ化すると管理が楽です。
- 分散実行:負荷が大きい場合は複数ノードで同時実行し、同期とログ収集に注意します。
- モニタリング:CloudWatchやX-Rayでターゲット側のCPU、ネットワーク、レイテンシを合わせて見ると原因特定が早まります。
選定と注意点
- シナリオの再現性、スケーラビリティ、学習コストを基準に選びます。テスト生成元のネットワーク帯域や使用量は料金に直結するため、事前に見積もりを取りましょう。ログやメトリクスの収集方法も事前に決めておくとトラブルを避けられます。
具体的な負荷テスト手順(AWS環境)
1. テストシナリオの設計
想定ユーザー数、同時接続数、ピーク時間帯を決めます。例:同時1,000ユーザー、ピークは10分間のスパイク。通常フローとエラー系(ログイン失敗など)を含めてテストケースを作成します。
2. テスト環境の構築
本番に近い構成を用意します。EC2、ALB、RDS、ECSなどを同様の構成で用意し、できればTerraformやCloudFormationでIaC管理します。データは本番とは切り離し、マスクや合成データを使います。
3. 負荷生成ツールの選定・設定
ツールは目的で選びます。単純なHTTP負荷ならk6やJMeter、高度な分散ならDistributed Load Testingを検討します。シナリオをスクリプト化し、ランプアップ時間、同時ユーザー数、リクエスト間隔を設定します。
4. モニタリングの準備
CloudWatchでCPU、メモリ、ネットワーク、ディスクIO、レイテンシを収集します。アプリのログとトレース(例:X-Ray)も連携し、時刻同期を行います。重要なアラート閾値を事前に設定します。
5. テスト実施と結果分析
小さな負荷でスモークテストしてから段階的に負荷を増やします。各フェーズのレスポンスタイム、エラー率、スループット、リソース使用率を記録します。P95やP99などの分位点で応答性を確認し、ボトルネックを特定したらスケール設定やクエリ改善、キャッシュ導入などで対策を行い、再テストで効果を検証します。
AWSで負荷テストを行う際の注意点とベストプラクティス
概要
本番環境で直接テストしないことを基本とします。検証用のステージング環境で負荷を再現し、サービス影響や予期せぬダウンを防ぎます。
本番環境での実行を避ける理由
・本番データが破損するリスクがあります。
・外部依存(決済、メール配信)で誤送信や課金が発生する可能性があります。
ステージング環境の構築と運用
本番と同じ設定の別アカウントや別VPCで用意します。データは匿名化やスナップショットで用意し、外部サービスはモックやスタブで代替します。例:決済はサンドボックス、メールはローカルキューで受け取る。
モニタリングとアラートの設定
CloudWatchやX-RayでCPU、メモリ、レイテンシ、エラー率を監視します。閾値は事前に決め、異常時に自動で通知が届くようSNSやPagerDutyを連携します。
テスト設計のポイント
単純なHTTPリクエストだけでなく、セッション維持や認証、DB書き込みを含む実ユーザーに近いシナリオを検証します。データの偏りを避けるため複数ユーザーや遅延を含めたパターンを用意します。
リソース見直しとスケール設定
結果をもとにインスタンスタイプ、オートスケーリングの閾値、データベースの接続数上限を見直します。例えば読み取りが多い場合はリードレプリカ追加を検討します。
実行時の安全対策
テスト時間を明確に設定し、関係者へ事前通知を行います。通信量やAPIコール上限に注意し、必要ならばリミッターを設けます。ログは詳細に残して問題発生時に速やかに原因追跡できるようにします。
まとめと参考情報
まとめ
AWS環境での負荷テストは、実運用に近いシナリオで行うことが最も重要です。公式ツールとサードパーティ製を組み合わせ、通信経路や認証、キャッシュ動作などを含めた総合的な検証を行います。テスト結果をもとに、インフラ構成やスケーリング設定、運用手順を改善して可用性を高めます。
実践で押さえるポイント
- 明確な目的を決める:応答時間、スループット、エラー率など計測項目を定めます。
- 本番に近いシナリオ:ユーザー分布やピーク時の動きを再現します。
- モニタリングを同時に行う:CPU、メモリ、I/O、ネットワークなどを計測します。
- 小さな段階で実施:段階的に負荷を上げ、不具合箇所を早めに見つけます。
- 結果を改善に繋げる:ボトルネックを特定し、再テストで効果を確認します。
参考情報(探し方と活用法)
- AWS公式ドキュメント:サービス固有の挙動や最適化設定を確認します。
- ツール公式ページ:設定方法や既知の制約を把握します。
- 技術系ブログや事例:実運用での気づきや手順の工夫を参考にします。
- 社内ナレッジ:過去のテスト結果や運用ルールを活用します。
最後に
負荷テストは一度で完了する作業ではありません。環境変更やトラフィック傾向の変化に合わせて定期的に見直します。小さな改善を積み重ねることで、より安定したサービス運用が実現します。まずは目的を定め、計測と改善のサイクルを回すことから始めてください。












