はじめに
目的
この文書は、AWS(Amazon Web Services)における「計算リソース」についてわかりやすく解説することを目的としています。種類や特徴、利用場面、そして料金の考え方までを網羅し、実務での選択や設計に役立つ情報を提供します。
対象読者
- クラウド導入を検討している技術者や管理者
- AWSのサービス選択に迷っている開発者
- コストや運用面を理解したい意思決定者
専門用語はできる限り減らし、具体例で補足していますので初学者にも読みやすい作りです。
本書の構成と読み方
本書は全8章で構成します。第2章で計算リソースの役割を説明し、第3章で主要サービスを個別に紹介します。第4〜6章で特徴・利用例・料金を扱い、第7章で検索システムにおける計算の位置づけを示します。用途に応じて必要な章だけ参照していただいても構いません。
AWSとは何か?計算リソースの役割
簡単な説明
Amazon Web Services(AWS)は、インターネット経由で使えるコンピュータや保存場所、データベースなどのサービス群です。自分で物理的なサーバーを用意せずに、必要な分だけ借りて使えます。
計算リソースとは何か
計算リソースは、プログラムを動かすための能力です。具体的には「CPU(処理の速さ)」「メモリ(作業スペース)」「ディスク(保存領域)」などを指します。AWSでは必要に応じてこれらを組み合わせて利用できます。
役割と利点
計算リソースはアプリや処理の心臓部です。処理が重い時は能力を増やし、利用が少ない時は減らせます。これによりコストを抑えつつ性能を確保できます。また、物理的な設備管理が不要で運用が楽になります。
どんな場面で使うか
・ウェブサイトやアプリの運用
・大量データの分析・機械学習の処理
・テスト環境の一時的な用意
イメージしやすい例
お店の厨房をイメージすると分かりやすいです。忙しい時間帯だけスタッフを増やし、静かな時間は減らすように、AWSは計算力を柔軟に調整します。
AWSの主要な計算リソース(コンピューティングサービス)
はじめに
AWSには用途に応じて使い分ける複数の計算サービスがあります。ここでは主要なものを分かりやすく紹介します。
Amazon EC2(仮想サーバー)
EC2はクラウド上の仮想サーバー(インスタンス)です。自分でOSやミドルウェアを入れて、従来のサーバーと同じように運用できます。たとえば、Webサーバーやデータ処理バッチ、専用ソフトの常時稼働に向きます。起動・停止やスペック変更が自由で、ストレージはEBSで永続化します。
AWS Lambda(サーバーレス)
Lambdaはサーバーを用意せずにコードを実行できます。イベント(例:ファイルアップロードやAPI呼び出し)に応じて短時間だけ処理を動かす場合に有効です。利用は実行時間と回数に応じて課金され、小規模なAPIや画像処理のトリガー処理に向きます。
コンテナ関連:Amazon ECS / EKS / Fargate
コンテナはアプリを軽くパッケージ化して動かせます。ECSはAWS独自のコンテナ管理サービスで、設定が比較的簡単です。EKSはKubernetes互換で、既存のKubernetes運用をクラウドに移す際に適します。Fargateはサーバーを意識せずにコンテナを実行できるため、インフラ管理を減らしたい場合に便利です。
Dedicated Hosts と AWS Outposts
Dedicated Hostsは物理サーバーを専有して使うオプションで、ライセンス要件やハードウェア隔離が必要な場合に用います。OutpostsはAWSのハードウェアを自社施設に設置し、クラウドと同じAPIで運用できるため、低遅延やデータ保管規制のある環境に向きます。
使い分けの目安
- 常時稼働や細かい設定が必要:EC2
- イベント駆動で短時間処理:Lambda
- マイクロサービスや移行でコンテナ:ECS/EKS/Fargate
- 法規制や専有ハードウェア:Dedicated Hosts / Outposts
それぞれの特徴を踏まえて、用途や運用方針に合わせて選ぶとよいです。
AWSにおける計算リソースの特徴とメリット
スケーラビリティ(拡張性)
AWSは必要に応じて計算リソースを増やしたり減らしたりできます。たとえばECサイトのアクセスが急増したとき、自動でサーバーを増やして応答を保ちます。逆にアクセスが減れば台数を絞って無駄な費用を抑えられます。
コスト効率(従量課金)
初期投資が不要で、使った分だけ支払う料金体系です。小さなプロジェクトは小さなリソースから始め、必要になったら拡張することで費用を最適化できます。リザーブドやスポットといった割引オプションもあり、用途に応じてコストを下げられます。
高可用性と耐障害性
AWSは複数の可用性ゾーンやリージョンで冗長化できます。あるゾーンで障害が起きても、別のゾーンへ切り替えてサービスを継続しやすく設計できます。これによりダウンタイムのリスクを小さくできます。
多様なサービスと柔軟性
仮想サーバー、コンテナ、サーバーレスといった選択肢があり、用途に応じて最適な方式を選べます。定常的な処理は仮想サーバー、突発的な処理はサーバーレス、複雑なマイクロサービスはコンテナ、といった使い分けが可能です。
運用負荷の軽減とセキュリティ
多くの機能がマネージドサービスとして提供され、バックアップやパッチ適用など運用作業を軽減できます。アクセス管理や監査ログ、暗号化の仕組みも整っており、安全に運用しやすい点もメリットです。
AWSの計算リソース利用例
概要
AWSの計算リソースは、用途に応じて柔軟に使えます。ここでは代表的な利用例を具体的に挙げ、どのような場面でどのサービスが向くかを分かりやすく説明します。
Webアプリケーションや基幹システムの運用
ユーザー数の多いWebサイトや社内の基幹システムでは、常時稼働するサーバーが必要です。EC2のような仮想サーバーを使えば、必要なCPUやメモリを選んで安定稼働させられます。オートスケーリングを使うとアクセス増減に合わせて自動で台数を増減できます。
バッチ処理・データ分析
大量データの集計や夜間バッチ処理は、一時的に大きな計算力が必要です。必要なときだけ大きなインスタンスを起動し、処理が終わったら止めることでコストを抑えられます。並列処理や分散処理で処理時間を短縮できます。
イベント駆動型アプリケーション
ファイルアップロードやメッセージ到着などのイベントに応じて処理を実行する場合、サーバーレス(例:関数実行型)を使うと運用負荷が小さくなります。短時間の処理を多く実行する用途に向きます。
コンテナベースのマイクロサービス運用
複数の小さなサービスを組み合わせる場合、コンテナを使うとデプロイやスケールが容易です。サービスごとにリソースを分けて運用できますし、CI/CDとの相性も良いです。
小規模用途や特殊用途
IoTデバイスからのデータ受信、画像や動画の変換処理、機械学習モデルの推論など、用途に応じて適切な計算リソースを選べます。小さな処理は軽量なインスタンスや関数で、重い処理はGPU搭載インスタンスなどで対応します。
AWSのコスト計算・料金体系
概要
AWSはサービスごとに細かく従量課金します。利用した分だけ請求されるため、サービスの選び方と使い方で料金が大きく変わります。
EC2の料金の見方
EC2は主にインスタンスタイプ(CPU・メモリ)、稼働時間、接続するストレージ(EBS)の容量とI/O、データ転送量で請求されます。インスタンスを長時間使うならリザーブドやSavings Plansで割安にできます。スポットインスタンスは一時的な負荷に向きます。
Lambdaの料金の見方
Lambdaは実行回数と実行時間(メモリ割当×実行時間の合計)で課金されます。短時間で処理が終わる処理やスパイクのあるワークロードに向きます。
料金計算の実例(試算の進め方)
- チャットボットバックエンド:API数、平均実行時間、同時接続数、ログ・ストレージ量を見積もり、各サービス(API Gateway, Lambda/EC2, RDS/DynamoDB, S3, OpenSearch)に分解して算出します。
- OpenSearch Serverless:保存データ量と検索クエリ量(ピーク時の計算容量)を見積もり、ストレージとコンピューティングの単位で計算します。
見積もりツールと運用支援
AWS公式のPricing Calculatorで構成を入力すれば自動で見積もれます。Cost ExplorerやBillingアラート、タグ付けを使い、実際の利用と差分を確認しながら調整します。
コスト最適化のポイント
- 必要なスペックに絞ってリソースを選ぶ
- オートスケールやスポット・リザーブドを活用する
- データ転送やログの削減、S3ライフサイクルで保管コストを下げる
- 定期的に使用状況を見直す
注意:具体的な単価は地域や時期で変わるため、正確な金額は公式ツールで確認してください。
AWSにおける検索システムと「計算」の役割
概要
検索は単なる文字列検索ではなく、多くの計算を伴います。OpenSearch Serviceはマネージドな検索・分析エンジンで、全文検索、ベクトル検索、ハイブリッド検索に対応し、複雑な計算を効率よく実行します。
OpenSearch Serviceの特徴(簡単に)
- マネージドでクラスタ運用を簡素化します。
- 全文検索はトークン化や形態素解析でテキストを処理します。
- ベクトル検索は埋め込み(ベクトル)同士の類似度を計算します。
検索で行う主な計算処理
- インデックス作成:テキストを分割し、逆インデックスを作ります。これは検索を速くするための前処理です。
- スコア計算:TF-IDFやBM25などで重要度を算出します。例えばBM25は出現頻度と文書長を考慮して順位を決めます。
- 類似度計算:ベクトル同士のコサイン類似度で近い項目を探します。
計算リソースの役割と選び方
- CPU:クエリ処理やスコア計算、インデックス作成で重要です。
- メモリ:キャッシュやフィールドデータに使います。十分なメモリでレスポンスが改善します。
- ストレージ(SSD):検索やインデックスの読み書き速度に直結します。
- GPU:大量のベクトル演算や機械学習処理で有効ですが、多くの検索用途はCPUで間に合います。
- シャード・レプリカ:データと計算を分散してスケールします。読み取り負荷が高ければレプリカを増やします。
運用上の実務的ポイント
- インデックス設計を検討して不要なフィールドを減らすと計算負荷が下がります。
- クエリとインデックス作成を分離するノード構成が安定します。
- キャッシュや検索結果のサイズを監視してチューニングします。
- ベクトル検索は埋め込み生成を別サービスで行い、検索側は類似度計算に専念させる運用が一般的です。
このように、検索システムでは「計算」が中心的役割を持ち、適切なリソース配分と設計で性能とコストのバランスを取ります。
まとめ:AWSの計算リソースは多種多様・用途に応じて選択を
AWSは仮想サーバー、コンテナ、サーバーレス、専用ハードウェアまで幅広い計算リソースを揃えています。それぞれ得意分野が異なるため、用途・コスト・運用体制を照らし合わせて選ぶことが重要です。
- 選定ポイント
- 目的:短期イベント、Webアプリ、機械学習などで最適なサービスが変わります。
- コスト:従量課金が基本。スポット、リザーブド、セービングスプランで最適化します。
- 運用負荷:マネージド(例:Fargate、Lambda)は運用を減らします。自前管理(EC2)は柔軟性が高いです。
- 性能と可用性:CPU/GPU、ネットワーク性能、リージョン冗長性を確認します。
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セキュリティとコンプライアンス:専用ホストや暗号化、アクセス制御が必要な場合は設計で考慮します。
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実践的な進め方
1) 要件を明確化する。2) 小規模でPoCを試す。3) AWS Pricing Calculatorなどで費用試算を行う。4) 運用・監視設計を入れて本番化。
適切な選択で性能とコストのバランスを取り、クラウド活用の効果を最大化できます。












