はじめに
本記事の目的
本記事は、AWSのシステム構成図について基礎から実践までわかりやすく解説することを目的としています。システム設計や運用で図が必要になったときに、迷わず作成・活用できるように案内します。
対象読者
初心者から実務で図面を作る方まで幅広く想定しています。クラウドを初めて触る方でも理解できるように、専門用語は最小限にし具体例を交えて説明します。
この記事で得られること
- 構成図の役割と基本的な見方が分かります
- 図を作る手順と注意点を学べます
- 選びやすい作成ツールや設計パターンがわかります
読み進め方
第2章から順に読み進めると理解しやすいです。まずは全体像をつかみ、必要に応じて各章の具体手順やツールを参照してください。
AWSシステム構成図とは何か
概要
AWSシステム構成図は、AWSクラウド上で動くアプリやシステムの構成を視覚化した図です。使っているサービス、リソース間の接続、データの流れ、セキュリティ設定などを一枚で把握できます。
含まれる主な要素
- コンピューティング(例:EC2、Lambda)
- データストア(例:RDS、DynamoDB、S3)
- ネットワーク(VPC、サブネット、ルート、NAT、ELB)
- セキュリティ(セキュリティグループ、NACL、IAM)
- その他(Route53、CloudFront、監視サービス)
何のために作るか(利点)
- 見える化で設計意図やボトルネックが分かりやすくなります。
- 開発者・運用・他部署との共有がスムーズになります。
- 障害対応や拡張時の影響範囲を素早く確認できます。
簡単な具体例
シンプルなWebアプリなら、Route53 → ALB → Auto ScalingのEC2群 → RDS(Privateサブネット)+S3(静的資産)という流れを描きます。各コンポーネントに所属するサブネットやセキュリティグループを併記すると運用時に便利です。
作成時のポイント
- 対象読者に合わせて詳細度を調整します。
- 常に最新版に保つことを心がけます。
- 誤解を避けるため、矢印やラベルでデータの流れと責務を書くと良いです。
AWSシステム構成図の主な要素
コンピューティング
EC2(仮想サーバ)やAWS Lambda(サーバーレス)、Elastic BeanstalkやLightsailなどを指します。例:WebサーバをEC2で立て、画像処理をLambdaで実行する場合、両者の役割と通信経路を図示します。図ではアイコンと役割(例:Web/API/バッチ)を明記すると分かりやすいです。
ネットワーク
VPC、サブネット(公開/非公開)、インターネットゲートウェイ、NATゲートウェイ、ロードバランサーを含みます。例:ALBをパブリックサブネットに置き、EC2はプライベートサブネットに置く構成を矢印で表します。可用性のためにAZを跨ぐ配置も示します。
ストレージ
S3(オブジェクト)、EBS(ブロック)、EFS(共有ファイル)を区別して記載します。例:静的コンテンツはS3、EC2の永続ディスクはEBS、複数サーバで共有するファイルはEFSと明示します。
データベース
RDS(MySQL等)、Aurora、DynamoDBなどを掲載します。読み書きのパターンやマスタ/レプリカ、バックアップや暗号化の有無も図に付記すると運用が分かりやすくなります。
セキュリティ
IAMロール、セキュリティグループ、ネットワークACL、WAFなどを示します。例:APIは特定のセキュリティグループのみ許可、S3にはバケットポリシーを適用、といった制約を図の注記で明示します。
監視・運用
CloudWatch(ログ・メトリクス)、CloudTrail(操作履歴)などを配置し、アラートやログの送付先(SNS、Slack等)も書きます。運用フローが分かると障害対応が速くなります。
その他(API Gateway/メッセージング)
API Gateway、SQS、SNS、EventBridgeなどの連携も図示します。例:非同期処理はSQS経由でLambdaに渡す、といったフローを矢印で示します。
図にする時のポイント
- アイコンと役割をそろえて見やすくします。
- パブリック/プライベート、AZ、暗号化やバックアップの有無を注記します。
- 接続とトラフィックの向きを矢印で示し、重要な制約はテキストで補足します。
これらを明確にすることで、信頼性や拡張性、セキュリティの全体像を関係者と共有できます。
AWSシステム構成図の書き方と手順
序文
構成図は「何を」「どのように」動かすかを一目で伝える道具です。読み手を意識して、必要な情報に絞って作成します。
1. システム概要の整理
目的(例:Webアプリの公開、データ分析基盤)と対象範囲を明確にします。関係者と要件(性能、可用性、予算)を確認してください。
2. 主要要素の洗い出し
利用するサービス(例:EC2、S3、RDS)やオンプレ機器、外部APIをリストにします。役割ごとにグループ化すると見やすくなります。
3. アイコン配置とレイアウト
AWS公式アイコンやテンプレートを使い、左から右へ「ユーザ→フロント→バックエンド→データ層」の順で配置します。可用性ゾーンやサブネットは枠で囲んで示します。
4. ネットワークと接続の表現
VPC、サブネット、ゲートウェイ、ロードバランサーを明示し、通信経路は矢印で示します。外部との接続(VPNやDirect Connect)も忘れずに。
5. データフローとセキュリティ注記
データの方向やトラフィック種類(HTTP、TCP、バッチ)を矢印ラベルで示します。認証・暗号化・セキュリティグループやIAMの要点も注釈で補足します。
6. 仕上げと共有
凡例、バージョン、作成者、日付を入れます。関係者レビューを行い、PDFや画像で出力して設計書に組み込みます。
作成時のチェックリスト
・目的が明確か
・重要な要素が漏れていないか
・矢印やラベルは分かりやすいか
・機密情報を図に含めていないか
以上の手順を順に進めれば、用途に合った分かりやすい構成図が作れます。
AWSシステム構成図作成におすすめのツール
AWS構成図の作成に便利なツールを用途別にまとめました。どのツールも特徴があり、目的に応じて選ぶと作業が楽になります。
diagrams.net(旧 draw.io)
- 無料で使えるオープンソース。AWSアイコンが豊富で直感的に描けます。
- エクスポート(PNG/SVG/PDF)や共同編集が可能。個人や小規模チームに向きます。
Cacoo
- クラウド型の作図ツールでテンプレートが多いです。
- リアルタイムでの共同編集やコメント機能が充実しています。レビューが多いプロジェクトに適します。
AWS公式アーキテクチャアイコンセット
- AWSが配布する公式アイコン集です。PowerPoint、Visio、Lucidchartなどに対応。
- アイコンを使うとドキュメントの統一感が出ます。
その他(Lucidchart、Microsoft Visio、Creately など)
- Lucidchart:チームでの共同作業とテンプレートが強みです。
- Visio:企業内の標準ツールとして導入されやすいです。
- Creately:シンプルで使いやすく軽い図を作るのに向きます。
選び方のポイント
- コスト、共同編集、公式アイコンの有無、エクスポート形式を基準に選んでください。
- 例:簡単な図はdiagrams.net、頻繁にレビューするならCacooやLucidchartをおすすめします。
AWS構成図の設計パターン例と注意点
設計パターン例
- 腐敗防止層パターン(Anti-Corruption Layer): 古いシステムと新しいサービスを直接つなげず、翻訳や変換を行う層を挟みます。例:レガシーDBへはアダプタ経由でアクセスし、アプリ側の仕様を守ります。
- APIルーティングパターン: API GatewayやALBで経路を制御します。パスやバージョンで振り分けると、段階的なリリースが楽になります。
- 公開/非公開層の分離: Web層(公開)→アプリ層(非公開)→DB層(非公開)と分け、必要最小限だけ公開します。
冗長化と拡張性
- マルチAZ配置で単一障害点を避けます。
- Auto Scalingで負荷に応じて増減させます。
- ヘルスチェックとフェイルオーバー経路を明示します。
ネットワークとセキュリティのポイント
- VPCとサブネット設計はCIDRとAZを明記してください。公開サブネットとプライベートサブネットを用途別に分けます。
- セキュリティグループはサービス単位、NACLはサブネット単位で制御します。
- IAMは最小権限、KMSでデータを暗号化します。
設計書に必ず記載するサービスパラメータ
- インスタンスタイプ、ディスク容量、RDSのエンジンとバージョン
- セキュリティグループの具体的な許可ルール(ポート・CIDR)
- バックアップ頻度と保持期間、監視閾値(CPU、メモリ、レスポンスタイム)
作成時の注意点
- 図は最新版を保ち、設計書の参照先(runbook、運用担当)を明示します。
- 機密情報は図に載せないでください(鍵やパスワードなど)。
- 表示の粒度は目的に合わせて調整します。運用向けは詳細、経営向けは概略にするなど視点を分けて作成してください。
まとめ
本書で解説したように、AWSシステム構成図は設計・運用・共有の中心的なドキュメントです。図を通して全体像をつかみ、担当者間で共通認識を作ることで、設計品質や運用効率、セキュリティが向上します。
実践のための要点
- 目的を明確にする:設計、運用、経営向けなど用途を最初に決めます。
- 対象別に図を作る:詳細図と概略図を分けると見やすくなります。例:運用チームには構成と監視指標、経営層にはコスト・可用性の概略。
- 公式アイコンと専用ツールを使う:見やすさと再利用性が高まります。
- 必要最小限の情報に絞る:過剰な情報は誤解を招きます。
- 更新ルールを決める:変更時に必ず図を更新する運用を定めます。
- セキュリティの境界を明示する:アクセス制御や公開範囲を図示します。
- 共有とレビューを習慣にする:関係者の確認で落とし穴を防げます。
まずは簡単な図から始め、運用しながら改善していくことをおすすめします。