はじめに
この記事では、AWS上で提供されるNutanix Cloud Clusters(以降NC2と表記)について、やさしく丁寧に解説します。
この記事の目的
NC2がどのようにオンプレミスのNutanix環境とAWSをつなぎ、ハイブリッドクラウド運用を支えるのかを分かりやすく説明します。技術的な詳細は後章で扱いますが、まず全体像を把握できるようにします。
読者の想定
クラウド移行を検討しているIT担当者、既存のNutanix環境をクラウドに拡張したいご担当者、ハイブリッド運用のメリットを知りたい経営層などを想定しています。
簡単な概要(例で説明)
例えば、社内のサーバーで動く業務アプリをAWSへ一部移す際、NC2を使うと既存の管理方法を大きく変えずにクラウド上で同じ環境を使えます。これにより、運用の負担を減らしつつ、必要に応じてリソースを拡張できます。
次章以降で、NC2の特徴やアーキテクチャ、利用シーンについて順を追って説明します。
Nutanix Cloud Clusters(NC2)on AWSとは
概要
Nutanix Cloud Clusters(NC2)on AWSは、オンプレミスのNutanix環境とAWSクラウドをつなぎ、同じ管理体験で運用できるハイブリッドクラウドの仕組みです。AWSのベアメタル(専用の物理サーバー)上にNutanixのソフトウエアスタックを直接展開し、既存の管理ツールや仮想マシン(VM)をほぼそのまま使えます。
どう動くか(かんたんなしくみ)
- AWSのベアメタルインスタンス上にNutanixコントローラを配置します。
- オンプレミスのNutanixクラスターとネットワーク接続し、データや管理情報を同期します。
- 管理画面(Prismなど)でオンプレ・クラウド双方のリソースを一元管理できます。
主な利点(具体例で説明)
- 移行が楽:アプリケーションを大きく書き換えずにAWSへ移せます。例えば、オンプレの業務アプリをそのままクラウドで動かせます。
- 弾力性:需要が増えたときに短期間でリソースを増やせます。年末の繁忙期に一時的に容量を拡張する用途に向きます。
- 一貫した運用:運用チームは今までのツール・操作方法を変えずに管理できます。学習コストを抑えられます。
具体的な利用シーン
- データセンタのリプレース時に段階的に移行したい場合
- 災害対策(DR)としてクラウド側に待機環境を用意する場合
- 開発・検証環境を短期間クラウドで立ち上げる場合
注意点
- ベアメタル構成やネットワーク設計が必要です。事前にAWS側の要件を確認して計画を立ててください。
NC2 on AWSのアーキテクチャ
概要
Nutanix Cloud Clusters(NC2)は、AWSのEC2ベアメタルインスタンス上でNutanixソフトウェアを動かす形です。プライマリの高速ストレージにはEC2インスタンスストア(一般にNVMe)を使い、追加や永続化にはAmazon EBSを利用します。これにより、高速なローカルI/Oと耐久性あるブロックストレージを組み合わせられます。
ストレージ構成(具体例付き)
- インスタンスストア:ローカルNVMeをキャッシュや高IOPSを要するワークロード(例:一時ログ、キャッシュ)に使います。データはインスタンス停止で消える点に注意が必要です。
- Amazon EBS:永続化やスナップショット、リストアに使います。たとえばデータベースの永続領域やバックアップに適しています。
ネットワーク統合
NC2はAmazon VPCと緊密に統合します。セキュリティグループやネットワークACL、VPN、Direct ConnectといったAWSのネットワーク機能をそのまま活用できます。これにより、既存のVPC設計を壊さずにNC2を組み込めます。
Nutanixのネットワーキング機能
NC2上でもNutanix Flowの仮想ネットワーキング(オーバーレイ)を使えます。AWSネイティブサブネットとオーバーレイの両方が併用可能です。オーバーレイはマイクロセグメンテーションやテナント分離を簡単に実現します。
Nutanixの追加機能
Nutanix Flow Network SecurityやNutanix Database Serviceなどの高度な機能もAWS上で利用できます。これにより、セキュリティポリシーの細かな制御や、データベース運用の自動化が可能です。
設計上のポイント
- 高速I/Oはインスタンスストア中心、耐久性はEBSを併用する。例:ログはローカル、データはEBSに保持。
- VPCのセキュリティ設計とNutanixのオーバーレイ設計を整合させることで運用負荷を下げられます。
- VPN/Direct Connectを使えばオンプレ環境との接続やDR設計が容易になります。
主な機能と利点
Nutanix Cloud Clusters(NC2)on AWSは、オンプレミスとクラウドをつなぎ、運用の負担を減らす設計です。以下では主要な機能と、それがもたらす具体的な利点をわかりやすく説明します。
ハイブリッドクラウドの一貫性
オンプレミスとAWSの両方で同じNutanixツール、管理画面、運用プロセスを使えます。例えば、現場の管理者がいつも使っているコンソールでクラウド側のVMも監視できるため、学習コストや運用ミスを抑えられます。
ワンクリック操作・統合管理
パッチ適用やリソースの拡張を一つのインターフェースから行えます。たとえば、複数拠点のパッチ適用を同時にスケジュールし、状況を一元的に確認できます。運用効率が上がり、対応時間を短縮します。
VM移行の容易さ
Nutanix Moveを使うと、IPやアプリの設定を大きく変えずにVMを移行できます。例として、社内のWebサーバを停止時間を最小にしてAWSへ移すことが可能です。切り替えの工数とリスクが小さくなります。
ディザスタリカバリ(DR)とバックアップ
AWSをDRターゲットに設定し、Amazon S3を長期保存やコスト効率の良いバックアップに使えます。災害時には迅速にフェイルオーバーでき、ビジネス継続性を高めます。
柔軟なネットワーク連携
レイヤー2の拡張やオーバーレイネットワークでCIDRを独立させることができます。たとえば、オンプレとクラウドで同じサブネットを使う場合でも衝突を避けつつ接続できます。ネットワーク移行や拡張の自由度が高まります。
これらの機能により、運用負荷の軽減、コスト最適化、迅速なスケーリングと高い可用性を同時に実現できます。
導入ユースケース・活用シーン
1) VMware環境からの移行
既存のVMware環境をNutanix経由でAWSに移すと、アプリの再構築やIP変更が不要な場合が多く、ダウンタイムを抑えて移行できます。たとえば社内業務システムをそのままクラウド化し、休日に切り替えるといった運用が可能です。
2) クラウドバースト(突然の負荷増対策)
ECサイトの繁忙期やバッチ処理でオンプレ資源が足りないとき、即座にAWS上のNC2へ拡張できます。ピーク時だけクラウドを使うことで投資を抑え、柔軟に対応できます。
3) 災害対策(DR)
AWSをバックアップやDRサイトに設定すると、障害発生時に短時間で復旧できます。定期的なレプリケーションとリハーサルで実稼働レベルの復旧を目指せます。
4) AI・データ分析やクラウドネイティブ連携
AWSの分析サービスやGPUインスタンスと既存データを組み合わせ、機械学習の学習やレポート作成を効率化できます。例:オンプレのログをNC2経由でS3に送り、Athenaで分析する。
導入時のポイント
- ネットワークとセキュリティ設定を事前に確認する
- データ同期の方式とリカバリ手順を検証する
- コストと運用体制を明確にする
これらを抑えると、スムーズに活用できます。
Azureや他クラウドとの違い
共通点
Nutanix Cloud Clusters(NC2)はAWSやAzureなどのベアメタル上でNutanixのHCIを提供します。どちらも仮想マシンやストレージをまとめて管理でき、オンプレミスと似た運用感でクラウドを使えます。
主な違い
- ネットワーク連携: AWSではVPC、AzureではVNetを使います。例として、専用回線はAWSのDirect Connect、AzureのExpressRouteで接続性や帯域の取り扱いが異なります。これによりレイテンシや設計が変わります。
- サービス連携: S3やRDSといったAWSネイティブサービスと、AzureのBlobやSQLなどは仕様や料金が違います。バックアップやアプリの連携で選択肢が変わります。
- 認証・運用ツール: AWSのIAMやCloudWatch、AzureのAzure ADやMonitorなど、運用や監査の仕組みが異なります。既存運用に合わせると導入負荷が下がります。
- 地域・提供形態: 各クラウドのリージョン展開やサポート体制に差があります。日本国内での可用性やベアメタル提供状況を確認してください。
判断ポイント
- 既存環境と合わせたい場合は、普段使っているクラウドを優先すると管理が楽です。例えば既にAzure AD中心の企業はAzure上のNC2で統合しやすいです。
- 災害対策やベンダー分散を重視する場合は、マルチクラウド構成で双方を組み合わせると冗長性が高まります。
導入時は、コスト比較、ネットワーク要件、運用ツールとの親和性を軸に検討してください。
まとめ:AWS NC2の導入がもたらす価値
Nutanix Cloud Clusters(NC2)on AWSは、オンプレミスの環境で培った資産や運用ノウハウをそのまま活かしつつ、クラウドの柔軟性や拡張性を享受できるプラットフォームです。具体的には次のような価値をもたらします。
期待できる効果
- 運用効率の向上:既存の管理ツールやスキルを活かして、短期間でクラウド環境へ移行できます。例:従来のVM管理をほぼ同じ手順で継続できます。
- 柔軟なスケーリング:需要に応じてリソースを増減し、季節的な負荷変動に対応できます。
- 迅速な立ち上げ:新サービスの試作やパイロットを短期間で開始できます。実験環境と本番環境の切り替えが楽になります。
- 投資の保護:既存ライセンスや資産を無駄にせず、段階的なクラウド移行が可能です。
導入時の注意点
- ネットワーク設計やセキュリティ要件を事前に整理してください。クラウド側とオンプレ側の接続が重要です。
- 費用管理と可視化の仕組みを用意してください。意図せぬ増分コストを抑えられます。
- 移行計画を段階的に作成し、まずは小さな範囲でパイロットを行うことをおすすめします。
次の一歩
まずはPoCやパイロットで運用イメージを検証してください。必要に応じてパートナーやベンダーと相談し、運用体制やコスト影響を明確にすると安心です。
NC2は、既存資産を活かしながらクラウドの利点を取り入れたい企業にとって、有力な選択肢となります。導入計画を丁寧に立てれば、運用負荷を抑えつつビジネスの俊敏性を高められます。