はじめに
「クラウドでのストレージって何が違うの?」といった疑問をお持ちではありませんか?本記事は、AWSで使われる“ブロックストレージ”をわかりやすく解説します。専門用語はできるだけ抑え、具体例を交えて説明しますので、初めて学ぶ方でも理解しやすい内容です。
対象読者:
– クラウド利用を検討しているエンジニアや担当者
– サーバやデータ保存の仕組みを整理したい方
– Amazon EBSの導入・運用を考えている方
この章での目的:
– 本記事の全体像を示し、読み進める際の見どころを説明します。
この記事で分かること:
– ブロックストレージの基本概念と実際の使いどころ
– AWSで提供される主要なブロックストレージサービスの特徴
– 他のストレージ(ファイル/オブジェクト)との違いと選び方
– Amazon EBSを安全かつ効率的に運用するポイント
読み進め方のヒント:
各章は独立して読めますが、基礎を押さえたい方は2章から順に読むと理解が深まります。具体的な導入手順や運用のコツは第6章で詳しく扱います。
ブロックストレージとは何か
概要
ブロックストレージはデータを一定サイズの「ブロック」単位で格納する方式です。各ブロックにアドレスが割り振られ、ストレージはボリュームという単位で管理します。OSやアプリケーションはボリュームにファイルシステムを作って、普通のディスクと同じように扱えます。初心者には「仮想的なハードディスク」と考えると分かりやすいです。
仕組みの簡単な説明
データは小さな区切り(ブロック)に分かれて保存されます。アプリが特定のデータを読み書きする時は、該当ブロックに直接アクセスします。ランダムな位置への読み書きが速く、頻繁な更新に向きます。
主な特徴
- 高速なI/O性能と低いレイテンシ
- ランダムアクセスが得意
- ボリューム単位での拡張やスナップショットが可能
利用シーン(例)
- 仮想マシンのルートディスクやデータディスク
- データベースやトランザクション処理
- ログ収集や頻繁に更新するデータ
注意点
容量やIOPS(入出力性能)を設計時に決める必要があります。バックアップやスナップショットの運用も重要です。
AWSで利用できるブロックストレージサービス
主なサービス
AWSで代表的なブロックストレージはAmazon Elastic Block Store(EBS)です。EBSはEC2インスタンスに接続して使う永続的なディスクを提供します。データを長期間保持でき、インスタンスの停止・再起動後も残ります。
Amazon EBSの特徴
- 永続性と可変性:ボリュームは作成後にサイズや性能を変更できます。オンラインで拡張可能です。
- 暗号化:保存中と転送中の暗号化を簡単に有効化できます。
- スナップショット:差分スナップショットをS3に保存してバックアップやクローン作成ができます。
- マルチアタッチ:一部のタイプでは複数のインスタンスから同時にアクセスできます。
ストレージタイプ(用途別の目安)
- 汎用SSD(gp3/gp2):一般的な用途やOSディスクに適します。gp3はIOPSとスループットを独立して設定できます。
- プロビジョンドIOPS SSD(io1/io2):高いIO性能が必要なデータベース向けです。
- スループット最適化HDD(st1):大きな連続読み書きが多い分析処理などに向き、コスト効率が良いです。
- Cold HDD(sc1):アクセス頻度の低いログやアーカイブ向けの低コスト選択肢です。
スナップショットと運用のポイント
スナップショットは差分で保存され、復元やボリューム作成が容易です。定期的にスナップショットを取得しておくと障害時の復旧が早まります。運用では、性能要件(IOPS/スループット)とコストのバランスを基準にタイプを選び、暗号化やバックアップを設定することをおすすめします。
インスタンスストア(ローカル一時ストレージ)
EC2の一部ではインスタンスストアと呼ばれるローカルディスクが使えます。非常に高速ですが、インスタンスの停止や障害でデータが消えるためキャッシュや一時データ向けです。
ブロックストレージの主な用途
データベースとトランザクション処理
ブロックストレージはMySQLやPostgreSQLなどのRDB、CassandraやMongoDBなどのNoSQLでよく使われます。小さな読み書きが頻繁に発生するため、高いランダムアクセス性能と低遅延が求められるからです。注文処理や決済など、トランザクション一貫性が重要なシステムに向きます。
仮想マシンのOSディスク(ルートボリューム)
EC2などの仮想マシンでは、OSのブートディスクにブロックストレージを使います。起動やパッチ適用で高速かつ確実に読み書きできる点が利点です。
アプリケーションのデータ領域(追加ボリューム)
ログ、検索インデックス、メールボックス、キャッシュの永続化など、アプリケーションが頻繁に更新するデータを格納します。コンテナやKubernetes環境では永続ボリュームとして利用されます。
高頻度更新ワークロードに最適
在庫管理や会計システムのように小さな更新が多い業務システムで威力を発揮します。ファイルやオブジェクトストレージよりもランダム書き込みに強い点が理由です。
スナップショットとレプリケーション
バックアップやクローン作成のためにスナップショットを頻繁に取れます。リードレプリカの作成や復旧時の迅速な復元にも役立ちます。
開発・テスト用途
実運用のディスクを複製してテスト環境を作るときに便利です。実データに近い条件で動作検証できます。
他のAWSストレージ(ファイル/オブジェクト)との違い
概要
AWSのストレージは大きく三つに分かれます。ブロック(例:EBS)はOSやDB向け、ファイル(例:EFS)は複数ホストで共有するファイルサーバ、オブジェクト(例:S3)は大容量データやバックアップ向けです。
パフォーマンスと更新頻度
ブロックは低遅延で細かい書き換えに強いのでデータベースやOSに適します。ファイルは多人数での同時アクセスを想定し、ファイル操作をそのまま扱えます。オブジェクトは大きな単位で読み書きする設計で、更新は頻繁ではない用途に向きます。
共有性と拡張性
ファイルは複数サーバで同じファイルにアクセスできます。オブジェクトは無制限にスケールしコスト効率が高い一方、ファイル操作の細かなロックはサポートしません。ブロックは単一インスタンスに接続することが多く、クラスタ用途は工夫が必要です。
運用面(バックアップ・整合性)
ブロックはスナップショットで素早く復元できます。オブジェクトはバージョニングやライフサイクルで長期保存コストを抑えます。ファイルは共有環境の権限管理や性能監視が重要です。
選び方の目安
・低遅延で頻繁に更新するならブロック。・複数ホストで同じファイルを扱うならファイル。・大量データを安く保存しアクセス頻度が低ければオブジェクト。
Amazon EBSの導入・運用のポイント
導入前に確認すること
用途に合わせたボリュームタイプを選びます。一般用途なら汎用SSD(gp3)、高IOPSが必要なデータベースならプロビジョンドIOPS(io2)、大容量のシーケンシャル処理ならHDD(st1)のように使い分けます。コストと性能のバランスを想定して選んでください。
バックアップとスナップショット
定期的にスナップショットを取得しておくと、障害時の復旧や別リージョンへの複製が容易です。例:毎日深夜にスナップショットを取り、30日より古いものは自動削除するライフサイクルを設定します。
パフォーマンス管理
I/O待ちやスループットはCloudWatchで監視します。IOPSやスループットが不足する場合はボリュームを種類変更またはサイズ拡張して対応します。gp3ではIOPSを独立して設定できます。
セキュリティと可用性
ボリューム暗号化を有効化してKMSで鍵を管理します。EBSは単一AZに属するため、可用性が必要な場合は複数AZでインスタンスを用意し、スナップショットで別AZへ復元する設計を検討してください。
運用の自動化
スナップショットの定期取得、古いスナップショットの削除、アラーム設定は自動化して運用負荷を下げます。変更はまずテスト環境で検証し、本番へ反映してください。
障害対応の基本手順
障害時はまずボリュームの状態とCloudWatchの指標を確認します。必要ならスナップショットから新しいボリュームを作成してインスタンスにアタッチし、サービスを復旧させます。普段から手順をドキュメント化しておくと対応が早くなります。
まとめ
要点の振り返り
AWSのブロックストレージは高いI/O性能と柔軟な拡張性を持ち、主にEC2インスタンスの永続ディスクとして使います。Amazon EBSは用途に応じていくつかのタイプがあり、性能とコストのバランスで選べます。
選び方のポイント
- トランザクションが多いデータベースや低レイテンシが必要なアプリケーションは高IOPSのボリュームを選びます。
- 大容量のログや一括処理はスループット重視のボリュームが向きます。
- コスト優先なら汎用タイプから始めて、負荷に応じて変更する運用が現実的です。
運用で押さえること
- スナップショットでバックアップを取り、復旧手順を確認しておきます。
- パフォーマンスは定期的に計測し、必要ならプロビジョニングやインスタンスタイプを見直します。
- マルチAZやレプリケーションなどの冗長化設計も検討してください。
ファイル/オブジェクトとの使い分け
ブロックはブロック単位で高速にアクセスします。ファイルストレージは共有マウント、オブジェクトはスケールとコスト効率に優れます。用途に合わせて使い分けることが重要です。
最後に、要件(性能・容量・コスト)を明確にして、適切なEBSタイプと運用設計を選ぶことがAWS活用の鍵です。