はじめに
この記事では、2025年に発生したAWSの通信障害について、事例・原因・影響範囲・確認方法・備えと対策をわかりやすく解説します。主に東京リージョンでの大規模障害を中心に取り上げますが、内容は他のリージョンや自社のシステムにも応用できます。
この記事の目的
障害の内容を整理し、今後のリスク低減につなげることを目的とします。障害発生時の対応だけでなく、事前準備や監視方法、被害を最小化するための具体的な対策まで扱います。
読者対象
- システム運用担当者
- 開発者やプロジェクトマネージャー
- クラウドを使うサービス事業者
専門用語は最小限にし、具体例を交えて説明します。たとえば「リージョン」や「ネットワーク障害」は簡単に補足しますので、専門でない方でも読み進められます。
本記事の構成
各章で事例と原因、影響、確認方法、具体的な対策を順に解説します。まず第2章で2025年の主な事例を取り上げ、第6章で実践的な備えを紹介します。この記事を読めば、障害時に落ち着いて対応できる基礎が身につくはずです。
2025年に発生した主なAWS通信障害の事例
概要
2025年はAWS東京リージョンで複数の大規模通信障害が発生しました。ここでは代表的な事例をわかりやすく取り上げ、影響と実際の影響例を説明します。
事例1:6月5日 ネットワーク障害(約47分)
東京リージョンの一部アベイラビリティゾーンで約47分間、ネットワーク接続が不安定になりました。影響を受けたのはEC2(仮想サーバー)やDirect Connect(専用回線接続)などです。例えば、ウェブサーバーが外部から応答しなくなったり、オンプレミスとクラウド間の通信が途絶えたりしました。
事例2:4月15日 停電によるサービス停止(約1時間)
停電が原因で一部サービスが約1時間停止しました。スマートフォンゲームや決済サービスなど多くの外部サービスに波及し、ゲームのログイン障害や決済失敗といった利用者への影響が出ました。
共通する影響と現場の対応
両事例とも外部サービスへ波及しました。現場では障害検知後に代替ルートやフェイルオーバー(自動切替)を試み、ログ収集と復旧手順に基づいて対応しました。
教訓(短く)
・複数の接続経路やリージョン分散を検討する
・監視を強化し、障害時の連絡手順を明確にする
これらが実務で役立つ基本的な備えです。
過去のAWS通信障害の実例とその影響
概要
2021年9月2日、東京リージョンでネットワーク機器の障害が発生しました。Direct ConnectやVPCの経路上でパケットロスや接続不良が起き、外部とクラウド間の通信に広範な影響が出ました。復旧には約6時間かかりました。
障害の具体的な影響
- 銀行系のスマホアプリで決済や残高照会にタイムアウトやエラーが発生しました。ユーザーが操作できない状態が続き、窓口やコールセンターの負荷が増えました。
- 電子決済サービスで取引が途中で失敗したり、決済遅延が起きました。
- 航空会社のチェックインや搭乗手続きに支障が出て、一時的に業務フローが停滞しました。
- Direct Connectを使っているオンプレミス側では、クラウド上のサービスにアクセスできず業務システム全体に波及しました。
復旧までの経緯
運用チームは障害検知後、ルーティングの再設定や影響範囲の切り分けを行い、故障した機器の交換やセッション再確立で順次復旧させました。段階的にサービスを再開し、6時間ほどで正常化しました。
教訓と示唆
- 単一経路に依存しない冗長構成を検討してください。したがって、Direct Connectだけでなくインターネット経由のVPNも設けると安全です。
- クライアント側でのリトライやタイムアウト設定、処理のフェールセーフを実装してください。
- 障害想定の演習や監視のエンドツーエンド確認を定期的に行い、影響範囲を早期に把握できる体制を作りましょう。
AWS通信障害の主な原因
電源障害
データセンターでは主電源と二次(予備)電源を使ってサービスを維持します。両方が同時に遮断されると機器が停止し、サーバーやネットワーク機器が使えなくなります。例えば変電所トラブルやUPSの不具合が重なると、冗長化が働かず広域で影響が出ることがあります。
ネットワーク障害
ルーターやスイッチの故障、設定ミス、あるいはパケットロスが原因で通信が途絶します。ルーティングの誤りでトラフィックが集中すると遅延や切断が起きます。具体例として、BGPの誤設定で経路が広告されず一部サービスが到達不可能になることがあります。
システム・ソフトウェア障害
バグや設定ミスがサービス停止を招きます。アップデート失敗やオーケストレーションの誤動作でインスタンスが自動的に再起動しない場合もあります。ログを確認して再現手順を特定することが重要です。
外部要因
地震や火災などの自然災害、物理的なケーブル切断、または外部からの攻撃が原因になります。こうした要因は予測が難しく、影響範囲が広がりやすいです。
影響範囲について
多くの障害は一部のアベイラビリティゾーンに限定されますが、依存関係のある他社サービスやエンドユーザーにも波及する場合があります。障害原因を早く切り分けて対処することが被害を小さくするポイントです。
AWS障害情報のリアルタイム確認方法
概要
AWSで障害が発生したと感じたら、まず公式情報を確認することが一番確実です。加えて、ユーザーの報告や自社の監視で状況を早く把握できます。
すぐに確認する手順(5ステップ)
- AWS Service Health Dashboardを確認する
-
地域(リージョン)とサービス名で未解決の問題が出ているか見ます。公式の状態表示が最も信頼できます。
-
AWS Personal Health Dashboard(アカウント固有)を見る
-
自分のアカウントに影響する通知を優先して確認します。運用中のリソースに対する案内が出ることがあります。
-
公式通知を購読する
-
RSSやメール、SNSで公式アカウントの通知を受け取る設定にします。即時性が高くなります。
-
ユーザー報告をチェックする
-
Twitter(X)などで地域名やサービス名を検索し、複数の報告があるかを確かめます。技術系ニュースサイトやフォーラムの速報も参考にします。
-
自社監視で異常を確認する
- サーバー応答やAPIエラー、遅延のアラートをまず見ると速く気づけます。合致するログや指標があれば障害の範囲を判断できます。
監視を高速化するポイント
- 自動通知:AWSのヘルス通知をSNSやメールに連携しておくと見逃しません。
- 合成監視:自分で定期的にAPIや画面操作を試す監視を用意すると、障害の影響範囲が分かります。
- チェックリスト:障害発生時の初動手順を文書化しておくと対応が速くなります。
注意点
- 公式情報以外は誤報もあります。複数ソースで裏取りしてください。
- 障害は地域ごとに異なる場合が多いので、影響範囲を地域単位で確認してください。
AWS通信障害への備えと対策
設計段階での対策
サービスを分散させる設計が最も効果的です。具体的にはマルチAZ構成で可用性を高め、重要なサービスはマルチリージョンに配置して地域障害に備えます。ロードバランサーでトラフィックを分散し、DNSのヘルスチェックで自動的に切り替える設計を取り入れてください。
自動フェイルオーバーと冗長化
データベースは自動フェイルオーバーを有効にし、リードレプリカや同期レプリケーションを使います。アプリケーションはステートレスに設計するとフェイルオーバーが容易になります。具体例:RDSのマルチAZ、S3にオブジェクトを置く冗長保存。
バックアップとリカバリ手順の検証
バックアップは定期的に取得し、異なるリージョンや外部ストレージに保管してください。復旧手順は文書化して定期的にリハーサルを行い、復旧時間(RTO)と復旧ポイント(RPO)を確認します。実際に復元する演習を必ず行ってください。
監視と即時対応体制
監視は多層で行います。メトリクス監視、ログ収集、ヘルスチェックを組み合わせ、閾値超過で通知が飛ぶ仕組みを整備します。通知はメールだけでなくチャットや電話にも配信し、オンコール体制を明確にしてください。
運用手順と訓練
障害発生時の連絡フロー、役割分担、実行手順をプレイブックとして用意します。定期的に障害対応訓練を行い、手順の改善点を洗い出します。記録を残して次回に活かしましょう。
障害時の実務例(簡易フロー)
- 監視で異常を検知
- 初動対応チームが状況把握と影響範囲を特定
- 一時対応(トラフィック遮断/切替)を実施
- 根本原因の調査と恒久対策の実施
- 復旧完了後に事後報告と振り返り
チェックリスト(最低限)
- マルチAZ/マルチリージョンの検討
- 自動フェイルオーバー設定
- 定期バックアップと復元演習
- 多様な通知経路とオンコール体制
- 明文化された対応手順と定期訓練
まとめと今後の注意点
AWSは世界最大級のクラウド基盤で多くの利点を提供しますが、電源やネットワークを起因とする通信障害は完全には避けられません。本章では、障害発生時の基本行動と日常でできる対策をわかりやすく整理します。
障害発生時の基本行動
- 公式ステータス(AWS Health DashboardやService Health)をまず確認します。誤情報に惑わされず、公式発表を基準にします。
- 影響範囲を速やかに把握し、影響を受けるサービスやユーザーに対して適切に連絡します。冷静な対応が被害を最小限にします。
日常の備えと具体的対策
- 冗長化:可能な範囲でマルチAZやマルチリージョン構成を検討します。
- バックアップ:定期的にバックアップを取り、復旧目標(RTO/RPO)を明確にします。
- 自動フェイルオーバーと手順書:切り替え手順を自動化し、手動手順も文書化しておきます。
- 監視とアラート:異常を速やかに検知する監視体制を整えます。
- 訓練と振り返り:障害対応訓練を定期的に行い、発生後は原因分析と改善を実施します。
今後も障害情報や対策事例を継続してウォッチし、運用を少しずつ改善していく姿勢が重要です。小さな改善の積み重ねがシステムの信頼性向上につながります。